28話「顔色」
森下彩花の様子が、おかしかった。
以前のように、陽菜に対して小さく棘のある言葉を放つことも減り、
かといって誰かと楽しそうに話しているわけでもない。
ただ、黙っている時間が長くなった。
休憩時間、柚希が陽菜の席に来て、小声で言った。
「ねえ、森下さん、最近なんか変くない? スマホばっかり見てるし」
『……気のせいじゃない?』
陽菜はそう返したものの、自分でも気づいていた。
彩花の顔色が、前より悪い。
化粧で隠しているつもりなのだろうが、目元の影までは消えていなかった。
ある日の午後。
陽菜が給湯室から戻る途中、彩花が一人で窓際に立っているのを見かけた。
スマホを耳に当てて、誰かと話している。
声は聞こえない。
だが、その横顔は、明らかに強張っていた。
陽菜は近づかず、黙って通り過ぎた。
終業後。
陽菜は樹里の横を歩きながら、短く報告した。
『彩花さん、なんか抱えてそう』
樹里は前を向いたまま、聞く。
『理由は』
『顔色悪いし、電話の様子も普通じゃなかった。
柚希ちゃんも気にしてた』
樹里はしばらく黙っていたが、短く息を吐いた。
『お前が気にすることじゃない』
『でも』
『深入りするな。こちらから動く話じゃない』
陽菜は不満そうに唇を尖らせたが、樹里の横顔を見て、それ以上は言わなかった。
樹里の目は、すでに少しだけ真剣だった。
(……様子は、見ておくか)
二人は並んで、夕暮れの道を歩いていった。
彩花の抱えているものが、何なのかは、まだ誰も知らなかった。




