23話「反省会」
夜。
スナック【Rose】のカウンターに、三人分のグラスが並んでいた。
陽菜が大きく息を吐いて、背もたれに凭れかかる。
『……疲れた』
『当たり前だ』
樹里が短く返し、美園がくすっと笑った。
『久々に本気出したもんね。三人揃って』
陽菜がグラスを回しながら、ぼそっと言う。
『やりすぎたかな』
『やりすぎた』
樹里が即答する。
『でも、仕方なかった』
美園が続けた。
『先生も動かないし、親も最初は聞く耳持たないし。
誰かが、ちゃんと区切りをつけないと』
三人はしばらく、黙って酒を飲んだ。
陽菜が天井を見上げる。
『高村さんには、どう伝える?』
『「知人に相談したら、動いてくれた」とだけ言う。
詳細は話さない』
樹里の答えは、最初から決まっていた。
『それでいいと思う』
美園がうなずく。
『息子さんの立場も、守らないとね』
また短い沈黙が落ちる。
陽菜が、ふと思い出したように口を開いた。
『ねえ、総長。今日の説教、すごかったよ。
先生たち、完全に押されてた』
樹里が横目で見る。
『いちいち感想を言わなくていい』
『美園さんの「このボケが」もすごかった』
美園が手を振ってごまかす。
『あちゃー、忘れて忘れて』
陽菜が急に身震いをして、続けた。
『あたし、昔美園さんにブチギレられたときのこと、思い出しちゃった。
あのとき、本当におしっこちびりそうになったんだから』
美園がくすっと笑う。
『懐かしいねー。あんたがあたしら2人に内緒で色々してたのがバレた時だっけ』
陽菜が頬を掻く。
『……思い出したくなかったんだけど』
樹里が呆れたように息を吐く。
『お前ら、本当にすぐそれだな』
それでも、三人の顔はどこか緩んでいた。
久しぶりに、同じ方向を向いて動いた。
結果はともかく、その事実が、妙に落ち着いた余韻を残していた。
陽菜がグラスを掲げて、小さく言った。
『とりあえず、一件落着』
樹里と美園も、静かにグラスを合わせた。
『ああ』
『そうだね』
店内に、氷の鳴る音だけが落ちた。
翌日。
樹里は高村さんのデスクに寄り、短く伝えた。
『知人に相談したところ、動いてくれることになりました。
息子さんの立場は、きちんと守られるかと思います』
高村さんは目を見開き、何度も頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます。日高さん」
樹里は穏やかに微笑んだ。
『いいえ。当然のことをしたまでです』
その横で、陽菜は何も言わずに書類を整理していた。
誰も、三人の「当然」の中身を、知ることはなかった。




