21話「威圧」
午後の高校の廊下は、意外と静かだった。
三人は受付で「知人の息子の件で話がある」と伝え、指定された応接室に通された。
だが、話を聞きたい相手は、先生だけではなかった。
陽菜が先に動いた。
休み時間のタイミングを見計らい、加害生徒たちがたむろしていると聞いた場所へ向かう。
樹里と美園が、少し離れて後に続く。
数人の男子生徒が、階段の踊り場付近にいた。
高村さんの息子の話で名前が挙がっていた顔ぶれだ。
陽菜が近づいた瞬間、一人が顔を上げて舌打ちをした。
「あ? 誰だよお前ら。部外者だろ」
別の生徒がスマホを取り出し、早速カメラを向ける。
「何かあったら警察に通報しますよー。いいっすか?」
余裕の態度だった。
人数もいる。大人三人程度なら、どうにかなると思っているらしい。
陽菜は止まらなかった。
彼女は生徒たちの真ん中まで歩いていき、ゆっくりと顔を上げた。
笑顔はなかった。
『スマホ、下ろしなさい』
低い声。
普段の明るい陽菜の声ではなかった。
生徒の一人が「は?」と笑った瞬間、陽菜の目が変わった。
狂気、と呼ぶしかない光が、そこにあった。
『下ろしなさいって、言ってる』
声量は高くない。
なのに、踊り場全体の空気が、急に重くなった。
スマホを構えていた生徒の指が、止まる。
別の生徒が後ずさり、誰かが「ちょっと、やばくね……?」と漏らす。
陽菜は一歩、また一歩と、ゆっくり近づいた。
『証拠がない、やってない、そう言うんでしょ?
いいよ。今から、お前らが本当に何もしてないか、ここで確認してあげる』
生徒たちの顔から、血の気が引いていく。
一人が「警察呼ぶぞ!」と声を上げかけたが、陽菜がそちらを見ただけで、言葉が止まった。
樹里と美園は、少し離れた位置からその様子を見ていた。
美園が小さく囁く。
『……相変わらず、ああいう顔するね』
樹里は短く息を吐いた。
『止めるな。まだ手は出していない』
陽菜は生徒たちを一人ずつ、ゆっくりと視線でなぞった。
『今すぐ、正直に話しなさい。
嘘をついたら、どうなるか、わかるよね?』
誰も答えられなかった。
そのとき、後ろから複数の足音が近づいてきた。
「ちょっと、何をしてるんですか!」
先生たちが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
空気が、再び動いた。




