20話「相談」
夜。
スナック【Rose】のカウンターに、三人分のグラスが並んでいた。
樹里は静かに事情を話し終えた。
高村さんの息子が高校でいじめられていること。
先生が動かないこと。
痕跡を残さない巧妙ないじめであること。
そして、自分が「知人に相談する」という形で動くことにしたこと。
陽菜は腕を組んだまま、黙って聞いていた。
美園は煙草に火をつけず、フィルターの部分を指で転がしている。
しばらくして、陽菜が口を開いた。
『放っておけないね』
『ああ』
樹里が短く答える。
美園が小さく息を吐き、久しぶりに本音を漏らした。
『……久しぶりに、三人で大暴れしますかあ』
その一言で、陽菜の目が明らかに変わった。
『お、いいねそれ! やる? やるよね?』
体が少し前のめりになり、声のトーンも上がっている。
久しぶりに「動ける」予感に、明らかに高揚していた。
樹里がすぐに低い声で制する。
『するな。お前は特に』
『えー』
『暴れるのはダメだ。子供相手に、昔と同じやり方は通用しない』
陽菜は不満そうに唇を尖らせたが、樹里の目を見て、仕方なくうなずいた。
『……わかってる。でも、いるだけで空気が変わるだろ』
美園がくすっと笑った。
『私も行くよ。三人の方が、説得力あるでしょ』
樹里はしばらく黙っていたが、やがて短く息を吐いた。
『……わかった。ただし、手は出すな。交渉だけで終わらせる』
『了解』
『わかった』
陽菜が腕を伸ばして、大きく伸びをした。
『抑えるってば。でも、久しぶりに総長たちと動けるの、ちょっと楽しみ』
樹里が横目で見る。
『楽しみにするな』
『するなつったって、しちゃうものはしちゃうし』
美園が二人を見ながら、静かに言った。
『明日、学校に行きましょう。時間は総長が決めて』
樹里はうなずいた。
『ああ。高村さんには「知人が動いてくれた」とだけ伝える』
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
それは、緊張というより、久しぶりに同じ方向を向いた者同士の、静かな高揚に近かった。




