16話「余波」
それから数日後。
東都ハウジングの岡田から連絡が来た。
「先日は失礼しました。今後ともよろしくお願いいたします」
声のトーンが、別人のように丁寧だった。
凛が目を丸くし、柚希が「え、何があったの……?」と小声で呟く。
部署内で「櫻井さんが何かしたんじゃないか」という噂が、ひそひそと広がり始めていた。
詳細を知っているのは、樹里と陽菜だけだった。
終業後。
陽菜は樹里の横を歩きながら、少しだけ不安そうに聞いた。
『……本当に、やりすぎなかったかな』
樹里は前を向いたまま、短く答える。
『問題ない』
『でも、あの後の顔、結構ヤバかったし』
『お前が抑えた結果だ。それでいい』
陽菜は少しだけ安心したように息を吐いた。
『総長にそう言われると、なんか落ち着く』
『言ってろ』
20時過ぎ。
2人はスナック【Rose】にいた。
美園がカウンター越しに二人を見て、くすっと笑った。
『で、どうだったの? その取引先の件』
陽菜が肩をすくめる。
『ちょっと、強く出ちゃったかも』
『強く出た、ねぇ』
美園は樹里の方を見る。
『総長は止めなかったの?』
『止める必要がなかった』
樹里が短く答え、美園は納得したようにうなずいた。
『まあ、陽菜が本気出したら、普通の営業マンくらいじゃあっという間だもんね』
『褒めてないからな』
『わかってる』
三人で小さく笑う。
陽菜はグラスを両手で包みながら、ぼそっと言った。
『でも、凛ちゃんたちがあの顔しなくてよくなったのは、よかった』
樹里も美園も、否定はしなかった。




