11話「紹介」
柚希がバイクのことでまだ迷っているのは、部署内で知られていた。
ある休憩時間、陽菜が柚希に声をかける。
『柚希ちゃん、前に話してたバイクのこと、まだ決めてないんでしょ?』
「うん、なんか色々ありすぎて……」
陽菜は樹里と目配せをしてから、明るく続けた。
『バイクに詳しい知り合いがいるんだけど。予算とか希望とかも兼ねて、一度相談してみない? 紹介するよ』
「え、いいの? ありがとう!」
その日の夕方。
会社の近くの喫茶店で、二人は零を呼び出した。
東雲零は、少し緊張した顔で現れた。
ガススタの制服姿のままだった。
零が『総長、陽菜さん』と小声で呼びかけようとした瞬間、樹里と陽菜が同時に目を細めた。
言葉は何もなかった。
ただ、その目がはっきりと語っていた。
『過去のことは、一言でも出したら殺す』
零の背筋が、びくりと震える。
彼女は慌てて口を閉じ、姿勢を正した。
『……東雲っす。よろしくお願いします』
陽菜が笑顔で柚希に紹介する。
『柚希ちゃん、この子。バイク詳しいから、なんでも聞いていいよ』
「はじめまして、早川です! よろしくね、零ちゃん」
「あ、はい。東雲っす」
零は最初こそ固かったが、バイクの話になると徐々に言葉が増えていった。
「まず予算、どのくらいで考えてます?
あと、置く場所あります? マンションだと駐輪スペースのサイズ制限があること多いっすよ。
ATかMTかでも全然違くて、通勤だけならATの方が楽っす。
中古見るなら走行距離は3万キロ超えてるやつは、メンテ費用考えた方がいいっすね」
柚希は目を輝かせてメモを取っていた。
「なんか、めっちゃ具体的……! 頼りになるね」
「いえ、そんなことないっすよ」
零は少し照れ臭そうに頭を掻いた。
樹里と陽菜は、少し離れた席からその様子を見ていた。
陽菜が小声で呟く。
『ちゃんと話せてる』
『ああ。余計なことは言わなさそうだ』
樹里は短く答えた。
帰り際、柚希が零に明るく手を振った。
「また相談していい? 零ちゃん」
「あ、はい。いつでもっす」
零はそう答えて、少しだけ照れた顔をしていた。
樹里と陽菜は、そのやり取りを黙って見送った。




