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10話「アプローチ」
滝本英司のアプローチは、最初から露骨だった。
「櫻井さん、今度ランチ行きません? いい店知ってるんで」
「残業とか、俺が手伝いますよ。なんでも言ってください」
「櫻井さんって、やっぱり可愛いっすね」
陽菜は明るくあしらっていた。
『いいっすよ、自分で何とかなるんで』
『助かりますけど、大丈夫です』
『ありがとうございまーす』
上手くかわしているつもりだった。
だが、滝本は引き下がらなかった。
日に日に執拗になっていく。
ある日の夕方。
滝本が陽菜のデスクに肘をついて、また何か言いかけたときだった。
樹里が席を立ち、ゆっくりとこちらを見た。
言葉は何もなかった。
ただ、目が合っただけだった。
滝本の表情が、わずかに強張る。
「……あ、日高先輩」
樹里は短く頷いただけだった。
それ以上のことは何もしない。
なのに、滝本はそれ以上何も言えなくなった。
「……じゃあ、また」
そう言って、滝本は自分の席に戻っていった。
陽菜は樹里の横顔を見て、小さく笑った。
後で二人きりになったとき、陽菜が小声で言った。
『総長、今の目マジでヤバかったよ』
『してねえ』
『してた』
『してねえつってんだろ』
『してたもん』
樹里はそれ以上何も言わず、先に歩き出した。
陽菜は後ろからついていきながら、心の中で思った。
(……相変わらず、目だけで黙らせられるんだな)




