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第二話 日常と非日常

「おっはよー、あおいっ」

明るい声と同時に、とすん、と遠慮なくかけられた体重で、私の体は思いっきり後ろに引っ張られる。

「っちょ、陽菜ちゃん重い!!」

「やー、朝からいつもに増して背中丸めて歩いてるから、なんかやなことあったのかと思って、景気づけ」

「……転んだら陽菜ちゃんのせいだからね」

「大丈夫、後ろに悠真がいるからそうなったら助けてくれる」

「陽菜、アホなことを俺に期待するなよ」

陽菜ちゃんの台詞と、更に後ろからかかった声に振り返ったら、そこでは悠真くんが完全に呆れた目をして私と陽菜ちゃんを見守っていた。

陽菜ちゃんと、悠真くん。

二人は、この学校では数少ない、私がまともに話をすることの出来る友達だった。

家が近くて、物心ついた頃には二人と付き合っていたから、流石の私でも今更人見知りはしない。

「……悠真くん、見てたなら陽菜ちゃん止めてほしかった」

「俺が?陽菜を?止められると思うのお前」

「……ごめんなさい」

き、と目線を強くして睨んでくる悠真くんの台詞はごもっともだったので、反射的に謝った。

陽菜ちゃんの強引さに、私も悠真くんも、勝てたためしはない。

「ちょっとちょっとー。二人とも私に対する認識おかしくない?」

「おかしくない」

「おかしくないよ」

不満そうに言った陽菜ちゃんの言葉に、私と悠真くんの台詞がユニゾンする。

陽菜ちゃんが、わかりやすく頬を膨らませた。

「全く幼馴染甲斐のない……。でも、さっき、あおいの背中がいつもより三割増しどんよりしてたのは本当。なんかあった?」

そんな風に聞いてくる陽菜ちゃんのせいで、必死で考えないようにしていたことが頭の中に戻ってきてしまう。

……ああもう、陽菜ちゃんのバカ。

「……」

「あーおーいー」

陽菜ちゃんががくがくと私の肩を揺らすけれど、答えられる言葉もなければ、どう説明すればいいのかもわからない。

昨日の放課後、逃げ出してしまった教室。

これから私はそこに向かうのだと思ったら、改めて気分がまた一段重くなるのがわかった。

「……あおい?」

何も答えない私に、悠真くんまで怪訝そうな顔をする。

それでも、答えられないものは答えられない。

「おはよう、あおい」

そこに、第三者の声が割り込んだ。

聞き覚えのある声に、体がこわばる。

「あ、高瀬じゃん。おっはよー!!」

「おはよう、桜庭。藤堂も。つーか桜庭、朝からテンション高すぎ」

私たちの隣まで来て、高瀬くんが笑った。

「あおい、おはよ」

改めて、高瀬くんが私の名前を呼ぶ。

その声にどんな感情が含まれているのか、考えたくはない。

「あのさ。あおい、今日の放課後空いてる?」

「……」

ごく自然に、高瀬くんがそう聞いてくる。

心臓が、煩い。

喉に何かが詰まったように、私は声を出すことが出来なかった。

「ちょっとなになにー?高瀬ー、あおいに何する気よー」

「んー、少なくとも、桜庭が考えてるようなことじゃないのは確か」

「うわ、余裕ぶった返事。腹立つー、まさかそれが年上の余裕ってやつ?」

「うん、そう」

「頷くな!!」

陽菜ちゃんと高瀬くんが楽しそうに会話をする横で、私はもう、この場から逃げ出したくてたまらなかった。

帰りたい。

やっぱり今日、来るんじゃなかった。

そんなことが頭をよぎる。

「あおい。どうした?」

私にかかる悠真くんの声が固い。

でもそれは、私を心配しているからだとわかっていた。

「なんでもない」

「どの口でなんでもないとか言ってんのお前。全然信じられないツラで堂々と嘘とつくなよ」

「ほんとに、なんでもない」

「おい」

「なんでもないんだってば!!」

「あおいっ」

「あおい」

強い調子の悠真くんの声と、逆に不自然なまでに柔らかい高瀬くんの声が被った。

一瞬驚いたように悠真くんが口を噤むと、そのタイミングでさらっと高瀬くんが口を開いた。

「ごめん、あおい、放課後、ちょっと屋上で。そんなに時間は取らせないから」

高瀬くんが言ったその内容に、私は完全に凍り付く。

「は?高瀬、お前も何言って」

「じゃ、三人とも、また後でね」

悠真くんの声を遮るようにして、ひらひらと手を振った高瀬くんは、私たちを置いて歩き出してしまう。

「……あいつ、なんなんだよ」

不機嫌そうに、悠真くんが吐き捨てた。

「放課後屋上に呼び出しって……まさか告白とか!?」

「陽菜!!」

はしゃいだ声をあげる陽菜ちゃんと、その陽菜ちゃんを叱る悠真くん。

二人のやり取りを少し遠くで聞きながら、私はその場で体を固くすることしかできなかった。

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