54話 ユーウツ
「という訳で明日の夕方、味見よろしく!」
ルカは明日の日中に必要そうなものを買いそろえるらしい。試練の時は明日の夕食に決まった。
その会話の後は食欲が減退し、宿の食事のほとんどを残してしまった。
今日寝て起きたら、明後日になってたとかないかな……
しばらくして食堂を後にし、部屋の前でルカと別れる。
エミィさんと一緒に部屋の中へと入った私は、明日のことを思ってついため息が出てしまう。
「なぁユヌ。その様子から察しは着くのだが、ルカの新作料理はそんなに期待できないものなのか?」
「たぶんエミィさんが想像している通りです」
「つまり、不味い、と」
「不味いだなんて誉めすぎです! 食べ物じゃありませんよあんなの! 十中八九食べれるものじゃないですからね、どうみたって腐ってるのとか、カビてるのだとか、そんなものは食べ物じゃないんですぅ!」
「お、落ち着けー? ユヌー?」
「作る料理(?)を真っ先に味見させられる私の気持ち考えたことあるの? 絶対ない。ルカのばかばかばか!」
留めていた思いが堰を切ったように溢れ出す。
「うー、やだー、味見なんていやだぁー。エミィさん、私の分も食べてくれません?」
「今の話を聞いて、首を縦に振るわけないだろう」
「ですよねー」
「……しかしまぁ、何だってそんな料理下手なんだ?」
「別に料理が下手な訳じゃないんですよ、ルカ」
一見すると矛盾しているようだが、事実、料理の手伝いはちゃんとできるらしい。
駄目なのは、創作レシピを考えたときなのだ。
「なんていうかな、ルカの中には立派な料理があるみたいなんですけど、その作り方がわかってないんですよ。すっごく極稀に、美味しいのが出てくることがありますし」
なんだっけ、卵を使ったマヨネーズってのは美味しかった。うちの村では卵が貴重品だったから、完成したあの時以来口にしてないけど。
ただ、きちんと完成する前は変に固まったりしたものをいくつも食べさせられた。固まった油を食べると気持ち悪くなるのなんの。
ルカの作る料理はそういう試行錯誤による面が大きいから、まだなにも試行してない「新作料理」は絶対に不味い。
それに、その試行錯誤が成功した例は片手で数える程しかない。今回のものも失敗で終わるんじゃないだろうか。
そうなったらシューユも手に入らず、私には損しか残らない。
「ユーウツだなぁ……」
今ならいくらでもため息を出せる自信がある。
外の闇夜のように、私の心も暗い。
「今回はきっと美味しくなると思うわぁ。だからユヌちゃん、愚弟に付き合ってあげてちょうだい?」
一夜開け、私はエミィさんと一緒にギルドに訪れ、ミオ姉さんに会っていた。
ミオ姉さんも私と同じく何度もルカの料理(?)の味見をしている。もれなく今回もルカに呼ばれているとのこと。そのミオ姉さんは大丈夫だと告げているが、私の心の暗雲は晴れない。
「いやですぅー、どうせまた糸引いてるような腐ったものを食べ物だって言い張るに決まってます」
雑巾みたいな臭いだったし、食べてから数日間は腹を下した。あの時はかなりヤバかった。よく死ななかったなと思うレベルだ。
「あぁ、あれは……ちょっと思い出したくないわね。そうねぇ、ユヌちゃん。ちょっと気分転換しにいきましょうか? もちろんエミィちゃんも一緒に」
「気分転換ですか?」
「そ。憂鬱なまま夕食までここで駄弁っててもいいけど。折角だから私が皇都を色々案内してあげようかなって」
あ、それはいいかも。
皇都には今いる北町以外にも、東町・沿岸町・南町・中心町があるのだ。
エトムント邸のある東町はいいとして、沿岸町は一昨日の昼食にちらりと立ち寄っただけ、南町に至っては一歩も踏み込んでいない。
中心町は……貴族街みたいな感じらしいし、まぁ入ることはできないだろう。
「じゃあじゃあ、沿岸町か、南町に行ってみたいです。あ、エミィさんもいいですか?」
「あぁ、別にいいぞ。南町にはまだ行ったことがなかったな」
「それじゃあ、南町を案内してあげましょうか」




