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45話 イルさん

「普通に話し合う、ということならまずは自己紹介ね。私は……そうね、イルと呼びなさいな。あと、私は貴族じゃないから、特にかしこまる必要はないわ」

「俺はルカだ。そんで」

「あっ、ユヌです」


 ルカに促されたので私も自己紹介。2人でずっと喋ってそうな雰囲気が出始めていたので、すっかり傍観の姿勢に入ってた。

 というか貴族じゃないんだ。そう言ってるだけかも知れないけど。あからさまに失礼な態度にならないよう気を付けよう。

 私に続いてエミィさんとミオ姉さんも自己紹介を済ませる。

 そして、イルさんはさっそく本題へと入る。


「それじゃあ、それについて教えてくださる?」


 みんなの視線が私の身につけている鮮やかな紐へと集まる。

 これを貰った現場を知っているのは私以外にはルカとホセアさんだ。エミィさんとミオ姉さんは知らない。

 今はホセアさんはおらず、そしてルカも説明は私に一任するとのことなので、私が説明をすることになった。


「えっと、シャルさんって綺麗な女の人から貰ったのです。名前はサクリで、どこかの村の縁起物だとか」

「……そのシャルっていうのは金髪碧眼の、髪はちょっとウェーブがかかってて、あとは若葉色のドレスを着込んでたりした、私よりも年上に見えるヤツかしら?」

「え、はい。まさにそんな感じです。ていうかドンピシャです。お知り合いだったんですか?」

「えぇ、彼女は私たちの間では有名だもの」


 そういえばシャルさんは美味しいものばっかり食べてたから地元から追い出されたんだっけ?

 この岩に埋められているイルさんはシャルさんと同郷ということなのだろう。


「で、ソイツが今何処に居るかわかる?」

「んー、私たちの村に行くっていう話はしました」

「へぇ、それっていつの話かしら? あと、その村って何処にあるの?」

「えーっと、2週間くらい前、だったかな? 村の場所は、ポルトの町から真東の道を登ってった2番目の村ですね。それなりに大きい教会がある村です」

「ふむふむ……それなら東から回っていくか……ありがとう、参考になったわ」


 これでイルさんは、聞きたいことを聞き終えたらしい。私に笑顔を向けて礼を述べる。

 そして首だけ動かしてルカを見る。


「さ、目的は達成したから帰りたいのだけど。何時になったらこの岩を解いてくださるの?」

「おとなしく何もしないっていうなら解くが、その前に一つ聞きたいことがある」

「いいでしょう、今は機嫌が良いから一つだけ答えてあげる」


 岩に埋まってるのに機嫌が良いのか。

 いや、私と話してシャルさんの情報を手に入れられたから良いのかもしれない。なんだかイルさん、シャルさんを探しているみたいな感じだし。


「アンタやシャルは、いったい何者なんだ?」


 ルカは至極真面目な顔でそう問うた。

 何やら哲学的な質問だ。


「何者か、ねぇ。素直に教えてあげても良いけど……そうね、ユヌさんは私は何に見える? 正直に言ってちょうだいな」

「へ? うーんと、綺麗なお姉さん?」


 正直に言えばお忍びで町に降りてきた貴族様だけど。本人が貴族じゃないって言ってたから、貴族扱いされたくないのだと思って思うだけに止まる。

 イルさんはそんなことを考えている私をじっと見つめた後、小さくため息をついた。


「はぁ、やっぱりダメか。私に関して言えば、今はちょっと特別な綺麗なお姉さんよ。シャルロッテは……あ、名前言っちゃった。まぁいいか。アイツはただの自分勝手の老いぼれよ、今は泥棒犯ね」


 シャルさんが泥棒犯? あと老いぼれ? 私のイメージと全然違うんだけど。

 私がシャルさんに抱くイメージは、お話好きの若い女性だ。

 イルさんは「私が言えるのはここまで」と話を切り上げ、再度ルカに魔法を解除するよう急かす。

 ルカは不満げな顔をしつつそれに応じてイルさんの戒めを解く。

 岩の重みから解放されたイルさんは、軽やかに立ち上がり、大きく手を伸ばす。それからくるりと一回転して、指を口許に当てイタズラするような笑みでルカに向き直る。その笑みは酷く妖艶だった。


「ふふふ、いつか貴方が私たちの仲間になりたいっていうなら全部教えても良いけど、視たところそんな意志は感じないし。あ、もし心変わりしたなら私のもとに来なさいね、仲間にしてあげる。シャルロッテとは違って、私は貴方みたいな方が好みなの」


 それだけ言い残し、イルさんは華麗に一礼して部屋から出ていってしまった。




 かなり個性的で、不思議な女性だった。

 ルカはイルさんが立ち去った後もしばらくの間考え事をしていたが、ミオ姉さんに「仲間になるのはやめなさいよ」と言われ、「そうじゃない」と答えていた。銀髪姉弟は何か感じとるところがあったらしい。

 対する私とエミィさんはよくわかっていない。「なんだか不思議な人でしたねぇ」「あぁ、そうだったな」でその話はおしまいである。


 その後は特に盛り上がる話題もなく、私たちはミオ姉さんと別れて昨晩泊まった宿へと戻った。

 今度は二人部屋と一人部屋が取れたので、男女に別れて泊まった。

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