44話 謎の少女
いきなり私を指さしてきた謎の少女はまだまだ成長期、つまりは私と同じか少し年上かな? 13前後ってところだろう。そこら辺の泥と同じようなくすんだ黄土色の長い髪を持ち、それなりに新しい安物の服を着こんでいる。皇都の海のような深い藍色の瞳は一直線に私を捉えており、そのまま私から視線を外すことなく、勝気とか、気が強いって言葉が似合いそうな顔つきをしながらこちらへやってきた。
「聞きたいことがあるの。いいわね?」
そして表情を一切変えることなく、さも私がそれに従う前提で話を進める。これは流石に苛立ちを覚える。
突然人のことを指さし(しかも人の多い冒険者ギルドの入り口で)、高圧的な態度で(向こうは自己紹介すらしていない)、一方的に話を押し進めようとしている。
「なんなんですか、いきな――」
「ちょぉっと失礼します! こちらは人の往来の多いところです。あなた様の立場を完全に理解しているわけではありませんが、あまり目立たない方がよろしいのではございませんでしょうか。一度お互いが席に着いてから話題を切り出された方がよろしいのでは?」
私が文句を口にしようと思ったら、ルカが口をはさみ、物理的にも私と少女の間に割って入った。
「ちょっと俺に合わせろ、もしくは黙っとけ」
さらに私にだけ聞こえるように小声でそんなことを言ってくる。
ひょっとしてアレですか、この少女は貴族のお嬢様とかなんですか。失礼な態度で来られても礼節を返さないといけないってヤツですか。
そんな貴族に、今のルカの言葉が届くのか? なんて思ったけど、相手のお嬢様(仮)はあっさりとその要求を受け入れ、肯定した。
「えぇ、そちらの方が私としてもありがたいわね。……こんな小娘にでさえ効かないとは」
ありがたいわね、の後にボソボソっと何かを呟いていたが、なんて言っているのかまでは聞き取れなかった。
「ではギルドの個室なんていかがでしょう?」
「それで結構」
というわけで、謎のお嬢様(仮)とお話をするためにギルド2階の個室を借りて中へ入る。
この個室は依頼者と冒険者が直接話し合うときのために用意されているものだ。機密性の高い情報なんかはここで取引される。防音性能が非常に高い部屋で、盗聴器を忍び込ませることのできそうな家具も一つもない。全面板張りのなされた部屋にあるのは、装飾の一切なされていない無骨な椅子が2脚、長机が1つだけだ。別料金はかかるが、防音結界を張る魔導具の貸し出しなんていうのもある。
全く音のしない部屋の中に入ったのは私たち一行4人と、謎のお嬢様(仮)の計5人。
相手が本当の貴族なのだとしたらちょっと警戒が薄すぎるのでは? 貴族ならそれなりに魔法に精通しているのだろうが、こっちは百人力の魔力お化けとその姉がいるのだ。向こう視点で安全とは程遠いはず。ただ単にそうだと気づいていないだけかも知れないけど。
話の主役であるお嬢様(仮)と私が机をはさんで椅子へ座る。そしてギルド入り口からの流れで進行役に収まってしまったルカが机の短辺に立ち、エミィさんとミオ姉さんは私の後ろに立つ。
さて、とルカが息を吐き出した後、突然ルカが魔法を起動する。
これは……土かな? と私が予想した頃にはお嬢様(仮)の手足は岩石でガチガチに固められ、無骨な椅子に固定されていた。
「……ってお貴族様じゃなかったの!? 何やってんのルカ!!」
「ルカは自殺志願でもしているのか?」
「ちょぉーっと、ルカぁ? 可愛い女の子に何してるのぉー?」
私たち女性陣は一様に驚き、そして各々のやり方でルカを非難した。
椅子に固定された本人も驚きに身を固めている。
「こうするのが手っ取り早いし……で、アンタの目的を聞こう」
「驚いた、私たち以外にもこんなに早く魔法を構築できる生物っているのね。強度はちょっと甘いかしら。あなた、長生きしたくなったら私のところへ来なさいよ」
会話がかみ合っていない。
お嬢様(?)は椅子に固定された驚きはあらわにするものの、そこに焦りや憤りといった感情はうかがえない。本当にただ驚き、それに感心しているだけだ。
その様子にルカは明らかに不機嫌になる。
「俺はアンタの目的を聞いている」
「せっかちは嫌われるわよ? まぁいいけど。私の目的はただそこの少女に聞きたいことがあるだけ。その手首につけてる紐の出所を知りたいの」
手首の紐?
自分の両手を目の前に掲げる。私の左手首には、様々な色の糸で編み込まれたカラフルな紐が巻き付いている。
いつぞやに、行き倒れていた女性――シャルさん――から貰ったものだ。
「本当にそれだけか?」
「疑り深いのも嫌われるわよ? 本当にそれだけ」
「……わかったよ、じゃあ普通に話し合おう」
普通、などと言っておきながら、ルカはお嬢様(?)を拘束する魔法を解こうとはしない。
えっとルカ、手足が岩石に埋まっている人と話すのは普通じゃないと思うよ? 第一印象が良くなかったとは言え、流石にこれは可哀想な気が……




