43話 生臭い
ミオ姉さんに連れられて、北町から沿岸町へ。
沿岸町は皇都の西にある海と直接接している町になる。外から見ただけではよくわからないが、北町は木造の建物に白い壁だったのに対し、沿岸町は白い壁の中は石積みだそうだ。わざわざ山へ木を取りに行くのも面倒だし、それにあっという間に腐食してしまうから石積みの方がいいみたい。石を積んだだけの家とかすぐに崩れちゃいそうで嫌だな、私はここには暮らしたくないかも。
それから沿岸町に入ってからというものの、心なしか生臭いような……これが潮の香りという奴だろうか。そう信じ込めばまだいい匂いのような気がしなくもない。
通りをどんどん進み、やがて一つのお店の前に着く。外観は他の建物と変わりないが、中は賑わっているのだろう、ここだけちょっと騒がしい。
「それじゃ入りましょうか」
ミオ姉さんが一声かけてお店の中へ入っていく。
お店の中は……うえぇ、生臭い。鼻から入った空気が脳を揺らしているかのようだ。
なんとか顔は平静に保ち、店員のお姉さんに案内されて席には着いたものの、座っているだけで気分が悪くなってくる。いや、ここに案内してくれたミオ姉さんを悲しませないためにも我慢せねば。
「ここのお店では、食べたい料理をそのたびに料理人さんに注文するの。メニューはこの表を見ればいいわ」
ここのお店は客席やテーブルに囲まれるようにして中央で料理人たちが腕を振るっている。大きな魚をさばく様なんかは見ていて面白い物だ。お客さんはそのパフォーマンスを見て関心の声なんかを上げている。なるほど、食事に加えてエンターテイメント性も加えているということだろうか。
もっとも、そのせいで料理中の生臭さが私にダイレクトアタックをかましに来ているわけだが。
ルカはメニュー表をじっと睨んで何を頼もうか吟味している様子。エミィさんも同じく。ミオ姉さんは早速料理人に注文し始めている。皆はこの臭いを何とも思わないのだろうか。
と、注文し終えたミオ姉さんがこちらにじっと視線を向けてきた。
「もしかしてユヌちゃん、ここの臭いがダメ?」
「うっ、そ、そんなことは」
「いいのいいの、皇都にいる人でもここがダメっていう人はいるの。どうしましょう、早々に注文しちゃった私が言うのも変だけど、今から変える?」
「い、いえ……何事も挑戦です。臭いだけで拒絶するなんて、食べ物とそれを調理した人への侮辱ですから」
「うふふ、ユヌちゃんらしいわね。それなら、ちょっと待ちなさい……うら若き空気よ、湧き出でて少女を包み守れ」
ミオ姉さんが言葉を紡げば臭いが軽減され、森の中で嗅ぐような匂いに包まれた。魔法をかけたミオ姉さんは「これで少しはマシになったかしら?」と気遣ってくれる。これならさっきよりもずっとましだ。
魔力お化けであるルカの姉だけあり、ミオ姉さんの魔法はとても優れている。魔力量自体はルカの方がずっと大きいらしいけど、その分繊細な魔力操作を得意としている。
「ありがとう、ミオ姉さん」
「どういたしまして。ついでにここのメニューには生魚じゃないものあるから、そっちを頼んでみるといいかもしれないわね」
その後はミオ姉さんや、ルカにお勧めされたものを中心に食べた。
グルケを白い穀物と海苔という、海藻で作られたシートで包んだものとか、ラックスという魚の切り身をあぶった物を白い穀物の上にのっけたものとか……
どうやらこのお店の売りはこの白い穀物みたいだ、必ずこれがついてくる。この穀物はコメといい、水とお酢で煮たものだそうだ。このお酢が若干ながら生臭さを打ち消してくれているのは非常にありがたい。生魚にはあまりいい感想を持たなかったが、このコメは美味しかったと思う。
そして、私はここで素晴らしいものと出会った。シューユという黒い液体である。ここの料理は基本的にこのシューユを、ちょんちょんとコメに吸わせてから食べる。このシューユがとてもしょっぱくて美味しい。いっそシューユだけをちびちびと飲んでいたいくらいだ。
それを実際口に出したらエミィさんに「こんなしょっぱい物を? 正気か?」って言われたけど。
ここに来たがっていたルカも、このシューユには興奮していた。なんでも探し求めていたものらしい。
興奮のままにルカが料理人にシューユとついでにコメをどこで買えるのかを訪ねれば、船で皇都にやってくる異国のものだとか。一般に売るものではないが、港町で直接その異国の者と交渉すれば売ってもらえるだろうと。
「これは行くしかないな……あんちゃん、教えてくれてありがと!」
「ハッハッハ、どうってこたねぇ! 交渉気張れよ、坊主!」
「ねぇねぇ、ルカ。シューユは私の分も交渉してくれない? 小瓶一本でいいから」
「おお、いいぞ」
最初は臭いであえなくリタイアしそうになったが、ミオ姉さんのお陰でその問題をクリアした後はとても楽しめた。私が食べられそうなものも何気に多かった。ホント臭いさえどうにかすればって感想だ。4人そろって、お店を出る時は皆笑顔だった。
お店を出て北町へ戻る道中も、話題はさっきのお店のことばかりだった。
「やっと見つけた!」
そしてギルドに戻ったところで、ギルドの入り口にいた少女が、私を指さして叫んだ。
え? 私?
見覚えのない黄土色の髪を持つ少女だ。
……すいません、どちら様ですか?
どうでもいいけど、ユヌは漬物とか干し肉とか塩分たっぷりな物全般好きです
将来血圧やばそう(小並感)




