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46話 ルカの振り返り 1

ここ数話分のルカ視点

 最初に気づいたのは聖女が祈りを捧げて、その後にエミィさんと合流したときだった。


 聖女からあふれでた魔力の波は、おそらく下手な攻撃魔法よりも魔力がこもっていた。しかも普通の人はそれに気づかないように細工されていた。

 どうやら催眠系の魔法らしいな、ということはわかった。人の意志を希薄にして、ねじ曲げる魔法だ。恐ろしく魔力を消費する上に、使いなれてなければ成功率も低い。それを道に群がる人々全てにかけたのだ。俺はその時、「あぁ、ありゃすげぇわ」と感心した。


 エミィさんと合流した時、ふと我に返った。

 感心した? 違う! 恐怖に思うべきだ!

 周りの様子はどうだった? 皆光悦とした表情だったではないか! つまり、シエラ教の聖女はあの場にいる全員に催眠魔法をかけ、その上でそれをことごとく成功させたのだ。日常的に催眠魔法を使い、相当な熟練度を有しているのだと思われる。

 そしてそれに俺もかかっていたようだ。すぐに解けたとはいえ、これは素直に驚くべきことである。

 催眠魔法は自覚して反抗しようとすれば滅多にかからない。俺は聖女の魔力を催眠だと自覚したが、反抗するという考えが抜け落ちていた。その時点でもう相手の術中だったのか? 魔力お化けと呼ばれる俺は、魔法に対する防御力は結構高いと言って良いはずなのに。


 ……ちょっと待った。

 そういえばユヌは俺と一緒に感心してはいたが、特段表情に違いはなかった。エトムント邸で朝食を食べていた時の表情の方がよっぽど光悦というに相応しい。

 つまりユヌは催眠を退けたのか?何故なのかを調べておきたい。


 因みにその後のエミィさんのマシンガントークによれば、現聖女はイルムヒルトという名で、即位したのはごく最近らしい。初めての巡行でいきなり国を飛び出て、ここハリスト皇国に来たんだとか。

 少しだけホッとした。あんなのがずっと聖女をしていたならば、聖女による独裁が起きてそうだ。

 ……いや、これから起きるかもしれないのか。



 聖女のパレードを見た次の日。

 おくびにも出さなかったが、俺はちょっと寝不足だった。宿の中ではなく、宿の屋根で一夜を過ごした。そして町で何か異常がないかを探っていたからだ。

 あの催眠魔法の効果は落ち着かせる、敵意をなくす、信仰心をあげるというくらいのものだったとは思うが、一応警戒していた。なんたって相手は恐ろしく強い催眠魔法の使い手だ、俺が気づかないように命令を仕込めるだろうし、俺がいまだに術中に囚われているかもしれないまである。

 まぁ結局なにも起きなかったのだが。ただ単に俺の睡眠時間が減っただけだった。


 久々に会った姉貴は相変わらず女の子好きだった。初対面のエミィさんをベットに連れ込もうと考えてた。エミィさんが引き気味だったので早々に手を引いてくれたみたいだが。

 ユゴ兄が居なかったら、確実に姉貴はソッチの道を突き進んでいたと思う。

 記憶の中の「私」にも姉はいたが、その姉もどちらかと言えば女の子好きだった。「女の子を愛でるためにずっと独身でいる!」なんてワケわからない宣言をするくらいだ。

 なお、俺がまだ3歳の時……つまり姉貴が6歳の時か、ユゴ兄の命に限りがあるのだと知った姉貴は、「ユゴと結婚できないなら、ずっと独身でいてやるわ!」と力強く宣言している。

 姉というのは独身でいたがる人種なのかもしれない。


 昼食は姉貴の案内で寿司屋に行った。

 まだ精神が未熟だった頃、俺は「私」の記憶と比べて自分の食生活があまりにも貧しくて美味しくなかったから、いっつも文句を言っていたのだ。

 もっと甘い果物を食べたい、パンが硬い不味い、白米が食べたい、魚を生で食べたい、スープは出汁をとれ、マヨネーズが欲しい、醤油が欲しい、などなど食事には何かとうるさかった。

 母さんの手料理を不味い不味いと言いながら食べたこともある。この世界基準では平均以上の出来だったのに。

 ……よく愛想を尽かされなかったものだなと思う。


 姉貴はその事を覚えていたらしい。今までに食べたことがない美味しい料理に、これならば俺も気に入るのではないかと考えたみたいだ。

 果たしてその通りである。「私」は刺身、そこから拡張して寿司が大好きだった。

 店内はカウンター席とボックス席があり、それに囲まれるようにして料理人が魚をさばいている。お皿が回っていたりはしてない。

 席は50席くらいあって、8割方埋まっているようだ。空席があるにも関わらず、待っているお客さんもいる。

 座っている人たちのほとんどは皆2本の棒を駆使して食事を食べている。基本ナイフ&フォークの世界なのに、箸がある。ちょっと驚いた。まるでここだけ記憶の中の世界のようだ。


 姉貴が店員さんに声をかければ俺たちはすぐに案内された。案内されたのはボックス席で、「予約席」の札が置いてあった。

 なんだ、元々姉貴はここに連れてくる予定だったのか。それなら「ルカには聞いてないの」なんて言わなくてもいいじゃないか。抗議の視線を姉貴に送るが、姉貴はふふふと言って笑顔を浮かべるだけだ。


 海の幸の香りが漂う店内は俺にとっては天国だったが、ユヌにとっては地獄だったらしい。

 姉貴が魔法で臭いを軽減してやっていた。俺は全くそんなことに気付かなかった。寿司屋の興奮で視野が狭くなっていたようだ。


「おっちゃん! ラックスと、ツーンと、あとカルマルを一つずつ!」

「あいよーっ!」


 この世界の寿司屋なんだから、ネタの名前も全てこっちの言葉準拠である。今言った中では唯一ラックスだけ何だかわかる、ラックスは鮭、つまりサーモンだ。あとの二つは目玉商品らしいので適当に頼んだ。

 ずっと山の中で暮らしてきたので、海の魚の名前はよくわからない。


「おまちどぉ! ラックスと、ツーンと、カルマルだ!」

「ありがとー」


 おぉ、中々早いじゃん。

 ツーンとカルマルは、それぞれ赤い切り身と白い切り身が米の上に乗っていた。マグロとイカかな? まぁそれはともかく……

 米ですよ米。白米。ライス。

 記憶の中と同じものを食べれるのはちょっとした感動ものである。

 まずは、得体が知れているラックスことサーモンをいただこう。

 そしてこの世界の米の味、さらに何より――

 俺はテーブルの上にある黒い液体で満たされた小瓶を見る。

 ――醤油の味を確認しよう。


寿司屋のくだりを書いてると、これどういう話だっけって気分になってくる。

もうちょっとルカ視点が続きます。

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