36話 お風呂!
夕食の後は、湯浴みをした。
旅の最中は濡れタオルで体を拭いて済ませちゃうからずいぶん久々だ。
エトムントさんちには、お貴族様の家だけあって家にお風呂があるのだ。羨ましい。
さらに従者の妹さんの方、ユリアさんが体を洗う手伝いをしてくれるとのことで。ユリアさんも含めて女子3人で体を温める。やっぱりここの装飾もちょこっと凝っていて、私はなんだか貴族気分でお風呂を楽しんでいる
「あぁ~、気持ちいい~。旅の最中も入れたらいいのになー」
「アタシは湯浴みは初めてだが……良いものだな、これは」
「あれ、そうなんです? あ、うちにはルカがいたから毎週のように入れてたんだっけ。それでもお祭りの前とか、特別な催しある時入りませんでした? ポルトにはそんな習慣ないのかな」
「ユヌ様の地元には浴場があるですか? 山間の村出身だと伺っていたのですが、ずいぶんと生活水準が高いのですね」
「そうなのかな? んーまぁ他の村とそんな見比べたことがないからわからないや」
普通は従者がお客さんと一緒にお風呂に入ることはないらしいんだけど、その辺ここの家ではルーズらしい。私たちとしてもかたっ苦しいのは嫌なので、特に問題を感じず了承した。
姉の方の従者、デリアさんは今夕食の片づけをしていて、後で男連中がお風呂に入る時に同じようにお世話するらしい。ルカがデリアさんに失礼をしないかちょっと、いや、かなり心配だ。
「ポルトにも公衆の浴場はあった。けどまぁそこそこのお金が必要だし、何よりアタシは獣人だしな。よく思わんヤツもいるだろう」
「へーお金必要なんだ。けどエミィさんの獣人としての特徴って頭の耳だけしかないじゃないですか」
隣でお湯につかっているエミィさんを見やる。透き通るお湯の中にあるその体は、無駄な肉の代わりに程よく筋肉が付き、体毛が濃いと言ったこともなく滑らかな曲線を描いている。しなやかさを思わせる足をしている。手の方は影になる裏の部分と対比して、日の当たる腕の表の部分は僅かに色付き、エミィさんが外で活発に動けることを示している。胸元にある二つのふくらみは慎ましく、しかしその存在を確かに主張している。
足先から登っていくようにじっくり観察していくと、最後に少し恥ずかしそうに頭の耳を伏せたエミィさんの顔が目に入った。
「……あまりじっくりとこの半端な体を見ないでくれ」
「ええ?エミィさんすらっとしてて綺麗じゃないですか。ユリアさんもそう思いません?」
「はい、エマヌエーラ様の体はとてもきれいでいらっしゃると思うです。少なくとも貴族界における醜い豚共とは雲泥の差があることを保証します」
「そ、そうか……」
少し戸惑ったような笑みを浮かべるエミィさん。その瞳にはまだ自分を卑下している色があるように思えて、私はもう少し追撃してみることにする。
「何よりエミィさんにはその身長があるじゃないですか! それだけで私にとってはあこがれの対象です」
「別にそれほど高いわけでは……いや、ユヌにとってはそれでも大切なことだとはわかるがな?」
「ユヌ様は身長を気にしているのですか? それなら最近あることで身長が伸びるという噂を聞いたことがあります。噂の真偽はまだ確かめてはいないですけれど」
なんですと!
「教えてください! 是非とも知りたいです!」
「す、すごい食い付きです。本当かどうかはまだわからないですよ?」
「嘘だっていいんです! 試すことに価値がありますから!」
「そ、それでは。昨今明らかになった魔術はご存知でしょうか?」
「はい、知ってます!」
「それならば話は早いです。その魔術を皇都の騎士団でも活用しようとの機運が高まってきていて、適性が見られたものはそれ相応の部隊へと回されるのですが、その部隊に入った者たちはその後育ちが良くなるそうなのです」
「……それはつまり?」
「魔術には成長促進効果があるのではないかとの噂です。ユヌ様も適性を調べるだけ調べてみて、適性があったらば、魔術訓練をされてはいかがでしょう」
なんと、何ということでしょう。魔術には、成長促進の効果が、ある! らしいっ!
体の中を血液が巡っているのを感じる。
「ふふ、ふふふ」
「ユ、ユヌ様……?」
「ふふふ、エミィさん、これはもう天啓ですか? そうですよね。いや、そうに違いない! 魔術だなんて私にはうってつけじゃないですか! 今日から魔術訓練は本気出します!」
毎日欠かさず寝る前に行う魔術訓練。あれ以降欠かさずやっている。これからはこの訓練にも身が入るだろう。
血液の流れを思いきり!
「ユヌ、本気はちょっと待ってくれ。たのむから落ち着ぃ―――」
その後、やっぱり気持ち悪くなった私はギリギリでお風呂の中で吐くことは堪えたが、間近にいたエミィさんは失禁した。それどころか、ユリアさんは気絶までしてしまった。
魔術を行使しているときは私は周りを相当威圧しているらしいということを、初めて知った。




