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34話 泊めてくれ

 皇都。


 地理的なことを言えば、フルーブ川による広大な平野にある都市。経済的観点から見れば、国内に留まらず周辺国家の物資さえ集まる水運都市。皇帝が直接治めるハリスト皇国の首都だ。

 かつての初代皇帝が戦いに明け暮れていたとき、当時はしがない漁師町だったこの地をいたく気に入ったことが今日の発展のきっかけとなる。小国統一を成し遂げた初代皇帝はこの地に居城を作らせ、他国との貿易を積極的に行った。

 そうしてできたこの都市は様々な文化が集まり、混じり合い、そして融合した。今では世界有数の大都市である。



 そしてそんな皇都に着いたホセアさんは今、私たちの前で一人の男性に頭を下げていた。


「頼む! 宿が何処にもねぇんだ、泊めてくれ!」

「誰かと思えばホセアか。まぁキミも難儀な時期にきたもんだね。……ところで、後ろにいる全員止めろっていうこと?」

「どうせ万年独り身の癖に一軒家持ってるお前の所なら十分空きはあるだろ?」


 今のこの現状を説明しよう。

 私たちの乗った馬車はお昼を食べて暫くした頃に皇都に着いた。皇都の門(すっごく大きかった)の近くにあった厩舎に馬車を預け、歩いて馬車で宿を回ったのだが、そのたびに断られてしまった。ルカが道中心配していた通り、シエラ教の聖女を一目見ようと人が集まっているようで、生憎宿はどこもいっぱいだったのだ。

 私たちが回ったのは皇都の内、東町と言われる部分だけだったらしいのだが、午後の間ずっと歩かされてルカはヘトヘトになっていた。なお、私は周囲の光景に興奮しっぱなしで全く疲れなどない。

 そう。皇都って、なんというか、空気が違う。石畳の道に、木と白い壁で作られた家々が並ぶ様自体は、ポルトとそんなに変わらないのだが、あれ以上に人の活気が溢れている。流石人と物の中心である皇都だ。

 さらに聞いたところによれば、城のある中心町、海沿いの沿岸町、そして北町南町それぞれで様子が全然異なるんだとか。やはり皇都は広い。あちこち見て回るのが今から楽しみである。


 ……あれ、何の話してたんだっけ。


 あぁ、現状だった。

 えーっと、兎に角、日が沈み始めるころになってホセアさんは決意を秘めた表情でここへ向い、どうやら知り合いらしい青年の家の前までやって来て必死に頼み込んでいる、というのが現状である。


「相変わらずの減らず口だね。で? いくら積める?」

「おいおい、女子供から金を毟ろうってか?」

「僕はホセアに言ってるんだ。ホセアなら十分お金持ってるでしょ? それとも対価を渡さないで僕のところに泊まれると思うの?」


 青い髪と目を持つその青年は背丈でも体つきでもホセアさんにはとても敵わない。まさにやわな男という言葉が似合うだろう線の細さである。

 しかしホセアさんに物怖じする様子は一切なく、とてもにこやかな笑顔だ。


「チッ、やっぱりそうなるか。……一人当たり銀貨3枚」

「んー」

「銀貨4枚」

「じゃあ全員ひっくるめて大銀貨2枚でいいよ」

「このくそインテリが」


 ホセアさんは苦々しげな表情を浮かべつつも、おとなしく財布から大銀貨2枚を青年に手渡す。

 私たちが泊った山岳地帯第一宿場での宿泊料は二人部屋で銀貨5枚だったと思う。それを考えると倍の料金で4人泊まることになる。


「いやぁ思わぬところでまとまったお金が入ったよ、ありがとうホセア。では泊めてあげるとしよう。後ろのお嬢さんにお坊ちゃん、寛いでいくといいよ」

「あっ、はい。お邪魔します」

「よろしくお願いします」

「世話になる」


 青年が視線をこちらに向け、手を振ってきたので慌てて挨拶をする。ルカとエミィさんも私に続く。

 ホセアさんが言われるがままなんだ、この人の機嫌を損ねないように丁寧に対応しておこう。

 挨拶を終えた私たちは案内されるままに家の中へと通される。さっきの会話から考えるに、この人はこの家に一人で住んでいるようだ。しかしそれにしてはとても大きく、そしてちょっとした装飾が豪華な物ばかりだ。廊下には絨毯が引かれ、案内されたリビングには壺やお皿が飾られている。

 まるで貴族の館のようだと思うけど、ここは東町のはずれのほうだ。貴族の館ならば皇都中心の城の近くにあるはずであり、庶民の町である東町にあるのはあり得ない。


「エトムント、俺らはまだ夕飯を食ってねぇ。頼めるか」


 リビングに通されて早々ホセアさんが注文を付ける。確かにもう夕食時ではあるが、宿を回っていた私たちはまだ食事を済ませていない。

 ……こんな豪華な家の夕食ってどんなん何だろう?

 でもそんなことを言ったらまたお金を取られてしまうのではないだろうか。


「それは追加料金かなー。まぁ4人全員含めて大銀貨1枚でいいよ」


 やっぱり。なんとなくこの人のことが分かってきた。


「この金の亡者め」

「そう言いつつもちゃんとお金くれるホセア大好き」

「やめろ気持ち悪い」


 再びホセアさんからお金を受け取った青年、エトムントは鼻歌を歌いながら台所へと向かう。

 なんだかホセアさんに払わせてばっかりで気が引ける。それにご飯4人分が大銀貨1枚というのも割高な気がするし。

 そのことをホセアさんに抗議しようと思ったところで、先にエミィさんが口を開く。


「ホウズィーア、流石に払いすぎではないか? それに私たち全員分というのは……」


 エミィさんも私と同じことを思ったのだろう。眉をひそめている。


「別にいい。それにあいつは、金を渡した分だけの対応はしてくれる。」


 私たちはこの後すぐにこの意味を理解することになる。


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