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Truth  作者: 雲居瑞香
19/19

19.さまざまな結果

唐突に最終話。













 悠李の体調がある程度回復し、始末書を提出するまで丸一日かかった。さらに翌日、つまり、事件があってから二日後、関係者が一堂に会していたのはオフィーリアが泊まっているホテルだ。


 その場にいるのは、現場に居合わせた悠李、碧、智恵李、真幸、茉莉の五人と操られていた香音。さらに日本側の国際魔術師連盟の代表として晃一郎。そのほかにも何名かいるが、省いて、最後に件の先の天皇、若菜上皇がオフィーリアに負けず劣らずの不遜な態度でソファに座っていた。

 オフィーリアと若菜が向かい合っているのだが、不遜な態度の二人が向かい合っていると居心地が悪い。特に、オフィーリアの側に座っている悠李は居心地の悪さもひとしおだ。


「それで。私に無断で入国するとは、いい度胸ね、ロード・スペンサー」

「申し訳ない、若菜上皇。急ぎの用事だったものでね。まあ、それでも遅かったようだけど?」


 そう言ってオフィーリアが悠李の方を見る。これが居心地の悪い状況の原因だ。いや、悠李が犯人を捕まえたわけではないのだが……。

 茉莉が若菜の服の袖をくいくいと引っ張る。前にも言ったが、茉莉は若菜の妹だ。あまり似ていない姉妹だが、悠李も兄である真幸とあまり似ていないので、人のことは言えないのだが。

「何、茉莉」

 足を組み、さらに肘掛けに頬杖をついた若菜が茉莉の方を見る。偉そうだ。いや、実際に偉いのだが。一度は日本の頂点にあったこともある女性である。まあ、現代日本では天皇という地位は象徴であるのだが。

 だが、若菜はその能力を認められた魔術師でもある。オフィーリアと若菜、本気で戦ったらどちらが勝つだろうか。


 まあ、それはともかくだ。


 茉莉は空中に文字を書いた。こちら側からは逆向きになっていて読みにくいが、『あまりいじめないで』というようなことを書いているようだ。オフィーリアが悠李に「なんて書いてるの」と尋ねた。日本語がぺらぺらでも、さすがに文字は読めないようだ。

「まあ、あまりいじめないようにってとこですかね」

「へえ。茉莉は優しいねぇ」

「フィーさん。あまり変なこと言うと、話がこじれるからやめてください」

 悠李が焦って止めた。別に、若菜とオフィーリアは仲が悪いわけではないはずなのに、なぜかいがみ合う。ほら、またにらみ合った。


「それで、話を進めていいかな?」


 オフィーリアがニコリと微笑む。彼女も足を組み、肘掛けに寄りかかっている。右掌を軽く振る。

「すまないな、若菜。本当に緊急事態だったのだ。国際指名手配されていた洗脳魔術師が日本に密入国したんだ。数か月前から足取りが途絶えていたんだが、うちの透視能力者が何とか発見したのが二日前。強力な魔法を使った痕跡があったからねぇ」

 透視能力者、と言ったが、おそらく、真幸のような接触感応能力サイコメトリーが行ったのだろう。過去の『記録』を透視したのだろう。

「十年くらい前にも、わが国では洗脳魔法が問題になった。私の在位期間中ね。それとは関係ないのかしら」

 若菜も姿勢を正して言った。オフィーリアは「さてね」と微笑む。

「それは私にはわからん。それを調べるのはそちらの仕事のはずだ」

「……まあ、それはそうだ。先生、よろしく」

「はいよ」

 若菜は簡単に言ったが、それに簡単に返事をする智恵李もひどい。でも、智恵李なら本当にできそうだ。

「あの犯人が所属していたグループは魔術師の最右翼と言っていいだろう。魔術師だけの国を作ろうとしていたんだ。そのために目を付けたのが、英国と日本だ」

「ああ……島国だしね」

 若菜が納得してうなずいた。

「だが、わが国には的中率九十パーセントを越える予知能力者がいる。彼女がいる限り、我が国を狙うのは難しい。だから、日本に目を付けたのだろうな」


 オフィーリアが言った。予知能力者はめったにいない。しかも、的中率九十パーセントを越えるなど、狂気の沙汰としか言いようがない。いや、本当にあたるらしいが。

 過去に日本が鎖国をしていた、という例があるように、島国は他国から干渉されにくいと言う点がある。まあ、現在では技術の発展により、海によるへだたりなどあってなきがごとしであるが、まあ、島国の方が『攻めにくい』のは確かだろう。

 魔術師だけの国を作るために、攻め込まれにくい場所を選ぶ。そのために選んだのが英国と日本。英国に手出しは難しいので、日本を選んだのだと言う。

 とはいえ、あまり公にされていないが、英国、日本、どちらも『支配しにくい』国ではある。予知能力者のいる英国はもちろん、一人で半径五十キロは溶鉱炉に変えることができる智恵李のいる日本もそうだ。というか、この人ホントに戦略兵器。

「それでも、彼らが日本を選んだ理由は、おそらく、ユーリがいるからだ」

「……私」

 悠李が思わずつぶやくと、オフィーリアが「そう」とうなずく。


「ユーリは現在、世界で最も力の強い精神感応系魔術師だ。洗脳も可能だろう? 君を味方にしてしまえば、国ひとつぶんどるどころか、世界征服だって可能だよ」

「……まあ、できるだろうことは否定しないですが」


 悠李がそう答えると、オフィーリアは貴族とは思えないニヤッとした笑みを浮かべる。

「だが、彼らは君のその純粋な心を甘く見ていた。君を味方に引き込むなど、君の良心が許さない。よしんば、君を洗脳して味方に引き込んだとしても、君の周囲の人々は君の変化に気付くだろう。そうなれば、君はすぐに捕獲される。どちらにしろ、魔術師の国を作ろうなど、不可能な話だ」

 オフィーリアはさらりとそう言ってのけたが、その思想自体はかなり昔からあるものだ。今回、捕まえることはできたが、それでもその考えが消えることはない。ちなみに、密入国してきた黒幕は智恵李が全力で捕まえたため、全身大やけどを負ったそうだ。ちょっと哀れ。日本の協力者たちについては、もともと魔術師中心的な思想を持つ者たちだったようで、おそらく、黒幕の勧誘で引きこまれたのだろうと言う話だ。詳しくは、サイコメトラーの真幸が調べてくれるだろう。


「この問題は根強いからね。どうしても後手に回ってしまうし。でも、今回、主戦力の洗脳魔術師を捕まえられたのは大きいね。ドクター・コーサカに感謝」


 オフィーリアが笑って言った。彼女にかかると、重要な話も軽く聞こえるから不思議だ。

 つまり、悠李は訳の分からない魔術師中心組織に、強力な洗脳魔法を持っているから狙われたと言うことになる。これまでの事件も、悠李の身の回りの調査の一環だったのだろうか。さすがにそこまではわからない。


「とりあえず、国際魔術師同盟としては、悠李が敵に回らなければいい。敵に回ってしまったら、殺すしかなくなってしまうからね」


 そして、恐ろしいことをさらっと言うのもオフィーリアだ。駄目だ。悠李が下手なことになれば、確実にオフィーリアに殺される。笑いながら人体解剖をしたと言う噂のある彼女だ。悠李も解体されるかもしれない。

「こちら側からは以上だ。日本で起こった事件だからね。身柄はこちらで引き取ってかい……いや、投獄するけど、調査の方はそっちに任せるから」


 今、恐ろしいセリフが聞こえた気がした。
















 結局、国際的に指名手配されていた精神感応魔術師はオフィーリアに引き渡された。解剖されないかちょっと心配だ。日本側としては、悠李が攫われた事実は伏せることにした。どう考えても、面倒なことになるからだ。

 ただ、香音が洗脳されていたことはなかったことに出来ない。やはり、捕まった日本側の協力者の女性は、香音の同級生だったらしい。香音が悠李の神陵を受けていると知り、スパイ代わりに送り込んだのだろう。

 というわけで、香音の洗脳については国際指名手配犯とは別の独立した事件にした。その後、どうなったかは聞いているが、悠李は悪阻がいよいよひどくなってきたため、作業には参加していない。

 そして、この一連の事件が落ち着きを見せ、洗脳魔法に関する法律などが再び整えられたころ、悠李はフランスはマルセイユにいた。出産を終え、無事に国際魔法競技大会(IMT)に出場しているのだ。種目は、いつも通り魔法剣術シュヴァルツ・ヴァルトだ。そして。


 本当に審査員だし……。


 黒髪の美女が、ふんぞり返って審査員席に座っていた。審査員と選手は、試合終了まで接触禁止なので、決勝が終わった後に声をかけよう、そうしよう。次、決勝だけど。













「優勝おめでとう、ユーリ!」


 思った通り、無駄に高いテンションでオフィーリアが声をかけてきた。ついでに花束も渡される。前回準優勝だったのだから、悠李が優勝するのは順当なところだろう。しかし。

「フィーさんがいたら、勝てなかったと思う」

「かもね」

 この人、無駄に自信過剰である。いや、悠李も人のことは言えないか。

「春先に生まれたそうだねー。おめでとう。男の子?」

「女の子。今度は私に似てますね」

 遅い出産祝いだ。オフィーリアは「美人間違いなしだね」とのんきに笑う。

 そのままオフィーリアに誘われて、会場の裏に回る。晴れた空の下、会場の壁に寄りかかって二人並んで座った。

「あれから、魔術師中心主義者どものアジトを見つけたんだけどね。何分、罪状がなくて捕まえられなくて。その間に逃げられてしまったよ」

 ごめんね、とオフィーリア。悠李は直接かかわっていないので、謝られても困る、としか言いようがない。

「ユーリは、その後は?」

「あー。ほとんど悪阻でうなってたから、関与してないんですよね」

 一応聞いてはいるが、たぶん、碧に聞いた方が詳しくわかる。オフィーリアは「そうか」と目を細める。


「たぶん、アオイは君を関わらせたくなかったんだろうねぇ」

「……どうでしょうかね」


 悠李は立てた膝に頬杖をつく。たぶん、オフィーリアの言っていることは一理ある。常に冷静な悠李の夫であるが、付き合いが長いので何を考えているかくらいはわかる。

「……正直、簡単な話ではあるんですよね」

「何が?」

「洗脳魔術師たちは、私の能力を狙っているようですから、私が全員を巻き込んで自爆すればいい。まあ、ちょっと関係ない人にも被害が出るでしょうが、まあ、そこはご愛嬌で」

「いや、愛嬌ですむ話じゃないよ、それ」

 さすがのオフィーリアもあきれて突っ込んだ。悠李は自爆と言ったが、性格には彼女の能力で夢に入り込み、そのまま起きないようにする、と言う手法が取れる。たぶん、地球の半分くらいまでなら巻き込める。試したことはないけど。


 そして、言ってみてもたぶん、試すことはないのだ。


 オフィーリアが悠李の頭をぐしゃぐしゃとなでた。悠李もすでにアラサーで、子供ではないのだが。

「いい心がけだ。だが、私も含めてみな、そんなことは望んでいない。善良な君が、そんなことをしたくないと思っているのは明白だからね」

「……わかってますよ」

 悠李は目を閉じた。たぶん、悠李は、この先もこのどうしようもない世界で、その能力を恐れられながら生きていくのだろう。













ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。


何の予告もなく終了いたします。完結です。ありがとうございました。

気が向いたら人物紹介くらいは載せるかもしれないですが、あまり期待しないでください。

にしても、思ったよりオフィーリアがマッドサイエンティストになってしまった……。


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