表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 結
35/36

父娘がガガガガ

《順番に状況を報告しろ》

《筋肉隆々の不審な男が》

《ちがう》

《中田と名のる不審な男が》

《ちがう》

《点々と生肉の破片が》


 それだ!


 護送車内の全員が叫んだ。偵察部隊の指示にしたがい、護送車が城下町を疾走する。生肉の途絶えた倉庫街の入口に到着すると、しきるは護送車から飛び降り、倉庫街のなかを駆けた。シャッターが上がり、なかからの光で、路地が明滅している倉庫があった。駆けより、なかに飛びこんだ。宝石を散りばめた意味のわからない中型の平トラと倒れた馬。だらしない体の全裸中年と、やたら体の引き締まった禿頭に白い口髭の小柄な老人。あたりに散乱した生肉。そして奥に紙袋を握りしめて座り込んでいる、愛しき父親――ガサツがいた。

すぐにもガサツと絡みたかったが、しきるはあまりの不可解な状況に、しばらく思案した。

「魔法の国の元首と宰相です」

 追いついてきたペルソナーレがそう告げてきた。

「だ、誰……」

 だらしないほうの裸――元元首が、子供のような口調で誰何してきた。

「魔王だ。お前には関係ない」

 面倒くさい。しきるにとっては、それしかなかった。ガサツらしいと言えばガサツらしかったが、この短時間で余計なものが増えている。その印象しかもてなかった。

「魔王!?」

 だらしないほうの裸が、しきるをにらみながら立ちあがった。

「渡さない。この国は渡さないぞ」

 ペルソナーレがしきるの前に出た。

「何を勝手に。城を放棄しておいて、どの口がぬかす。それに現国王は、この方ではない。この私、ペルソナーレだ」

 だらしないほうの裸が、しきるとペルソナーレを交互に見る。結局ペルソナーレに視線を定めた。

「とにかくこの国を渡す気はないから」

 魔力がふくらんでいる。

 だらしないほうの裸。

 仕方なくかまえた。

 戦闘になるなら、一撃で戦闘不能にする。しきるの脳裏には、それだけだった。

 ガサツが、膝立ちになり、自分を見つめていることに気がついた。

「パパ」

「しーちゃん、魔王になったの?」

 魔力のふくらみが止まった。だらしないほうの裸がガサツをふりかえっている。ガサツをしきるを交互に見、しばらくして横にはけた。

「なった。嬉々としてなった……」

 嬉々としてなった。

 どの家族にも、合ったらそう言うと決めていた。

 ガサツが眉をよせうつむき、しばらくして、ふたたび顔を上げた。

「あとは、何があるの?」

「ああ」

 わずかな失望が、しきるの心をよぎった。ガサツに近づく。

「そんなこと言わないでパパ」

 そう言い、膝立ちのガサツを抱きしめた。坊主頭に顔をうずめ、目をつむり、息を吸いこんだ。ガサツの野性的な匂いがしきるの体内を満たし、安堵に、心が充足した。

「私には肩書が必要だけど、ぶれることを知らないパパには、そんなもの必要ない。そのままで十分素敵よ……」

「しーちゃん……」

「私ね、ずっとパパのことうらやましかった。いつでも自分の思い通りにふるまうパパが……この世界の魔王になってわかったの。うらやましくて……そしてねたましい。だからねパパ」

 ガサツの坊主頭に顔をうずめたまま、腰のメガホンをにぎる。

 高く、掲げた。

「私の精神衛生上の健康のために……」

 目を開けた。

 体を引く。

 後ろ足。

 地面を踏みこんだ。

「ぶっとば」


 振り下ろしたメガホンがとまっている。

 前腕。

 さえぎられていた。


 脳に激しい衝撃が突きぬけ、視界がなくなった。無理矢理目を開ける。コンクリート。天井照明が見えた。後方に吹き飛んでいる。背中が何かにぶつかった。頬を撫でる銀の髪。アパチア。そんなに飛んだのか。ぼんやりとそれだけを思った。倉庫の入口まで飛ばされている。体の自由が、きかなくなっている。地面に両足がついたが、まっすぐ立てない。

 喜びがこみ上げた。

 喜びに叫びだしそうになった。

「パパ。パパ。パパ」

 ガサツに突っこみかけている黒いマントが視界に入った。今度は憤怒がこみ上げた。

「手ェ出すなァ豚野郎ッ!」

 黒マントが立ちどまり、振りむく。

「豚……」

 体。

 もどりつつある。

 もどった。

 両足で地を蹴った。腰の黒鞘。柄を引きぬく。これにふさわしい。パパ。さすがパパ。体をかがめ、疾走し、直前で急停止して、光り輝くタクトを振りあげた。

 前腕。

 赤い線。

 ガサツがおそるおそると言った様子で自分の前腕をのぞきこむ。そして前腕に走っている赤い線を見て、目を見ひらいた。

「やだ何? 痛い、やだ痛ーい!」

 ガサツの姿がぶれる。

 認識が終わるまえに、ふたたび意識に強い衝撃が走った。

 顎。顎か。わずかにそっていたため、制御にまで支障は出ていない。閉じかける両まぶたを全力で押しとどめ、体をかたむけ、背中全体で天井に衝突した。体内活性を噴きあげ、そのまま空中でとまる。

「こい! ガサツ! 飛べるだろ! 来い!」

 ガサツがぼんやりとしきるを見上げている。体内活性を突っこめるだけタクトに突っこみ、大きく後方にふるった。倉庫の天井が鈍い音を立て、タクトが突きぬける。風が吹き込んできた。

「来い! この裸野郎!」

 ガサツが、視線をしきるから天井の穴へとうつし、ふたたびしきるにもどし、それから、顔に笑みを浮かべた。

「裸! この野郎!」

「YES!」

 裸が、大きくうなずいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ