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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 結
34/36

朕、丸出しだけど、もうさっきまでの朕じゃない

 途切れ途切れに言葉を重ねあっていた。

「そうか、次大臣や、次々大臣たちに……」

「いや、私も嫌われ者でしたからな。まあ、でも、清々しいものですな。あれ刑というのも」

 そしてミニストは、大導師様もずいぶんと酔狂な刑を考えたものですな、と笑った。

「あの、ミニスト、もう、大導師様って呼ばないでほしい……敬語も、もう……」

 石畳を見つめながら、そう言った。ミニストが、横顔を見つめてくるのがわかった。

「ティアラノ、でいいと?」

「うん。昔みたいに。それに、僕、自分のこと、朕というのも、もうやめることにしたんだ……」

 しばらくして、そうか、とミニストが返してきた。

「ティアラノは、メンタルマイナス波は、大丈夫だったのか」

 ぎこちない口調で、ミニストが聞いてきた。

 小さく、首をふった。

「ダメだった。でもなんか、不思議な男に諭されたの。怖くて、おしっこちびっちゃったけど……」

「その男はなんと」


 ――人ってのはよ、想いなんじゃねえのか。


 男の言葉をそのまま口に出すと、ミニストは目をつむり、小さく、何度もうなずいた。

「僕、もう一度、きちんと国政をやりたい」

「ティアラノ」

「戦争も、無理矢理に徴兵したりしないで、もっと、きちんと」

 ミニストが、悲しげにかぶりを振った。

「すまないが、やはり私は、戦争には賛成できない。それにティアラノ、この国は、もう魔法の国ではないんだ。魔王軍に制圧されたんだよ」

 耳を疑った。いつの間に。そう思ったが、すぐに理由に思いあたった。

「そっか。メンタルマイナス波の隙をついて……」

 しばらく、二人とも黙っていた。

「私も、さすがに、生まれ育ったこの国が、魔王の領地になるなど、到底受けいれられないが……」

 先に、ミニストが口を開いた。

 ティアラノは、必死に思考をめぐらせた。

「城さえ取り返せれば……。僕の魔力で動く仕掛けが、たくさんあるから……」

 城か。

 ミニストがそうつぶやいた。

「城だけなら。納品された成金戦車だけは、城の格納庫から、どうにかこの近くに移動させたんだが……」

「成金戦車、納品されていたの!?」

 驚いた。

 つめよった。ミニストがあわてたようにうなずき、首にかけていたネックレスをつかみ、もちあげた。丸いペンダント。よく見ると、内側に鍵が折りたたんである。

「鍵も、ここに」

 汎用の車両ではなかった。金に物を言わせてカシマシモータースへ特注した、自走型馬車。成金戦車という名前をつけたが、魔力で自走できることと頑丈である点をのぞけば、後は宝石を散りばめているだけで、戦車の機能はない。ただ、しっかりと魔力で制御すれば、城に突っ込むことぐらいはできそうだった。当然成金戦車一台で魔王軍と対峙できるはずはなかった。しかしティアラノには、ミニストが言い出してくれたことがうれしかった。自分の心に、しっかりとした志気を根づかせる好機に思えた。案内してくれる。そう聞くと、ミニストはすぐに立ちあがった。

 場所は、すぐ近くだった。

 倉庫街の一角。

 シャッターを上げると、布の被せられた、巨大なコンテナのようなものが姿をあらわした。ミニストが布を剥ぎ取る。全体に宝石の散りばめられた、金属製の重厚な車両。二人乗りで、前面がガラス張りになっており、外部から座席をほぼのぞける仕様になっている。後部に、広く荷台がとられていた。中型の平トラだった。

 ミニストが横についた運転席のドアをあけ、ハンドルの下をのぞきこんでいる。

「どう? 動きそう?」

 ミニストが体をかかませ、ハンドルの下にもぐりこんだ。気が急いて、近づいたとき、ミニストが顔を上げた。表情で、よくない報告をすると、すぐにわかった。

「ティアラノ、すまない。まさか、こうなるとは」

 そう言いながら、ミニストが運転席から出てきた。地面に降りたつと、ミニストはヘッドライトのついたフロントマスクの前へしゃがみこみ、両手をマスクへ当てた。

 嫌な予感が、ティアラノの背中を、裸の背中をゆっくりと通り抜けた。


「すまないティアラノ。鬱で動かない」


「そっか……」

 この国では、物でも意志をもち、言葉を話すことがある。すでに意志をもっていたのなら、メンタルマイナス波の影響を受けていてもおかしくない。

 元々、成金戦車ありきの行動ではないと、冷えかける心を叱咤した。

 そのときだった。


「探したぜ相棒」


 驚き、ふりかえった。

 馬だった。

 褐色の大きな馬体。足首の、白く長い、ふさのような特徴的な距毛。小さくいななき、頭をふりながら、ティアラノの脇を通りすぎ、成金戦車の前に立った。そして、ずいぶんと立派になったな。そう言った。ミニストも、驚き、脇へ避けている。

「一言、ただ、謝りたかった。それだけだ。懺悔が終わったらすぐに行くさ。ほんのちょっとだけ、つきあってもらえねえか」

 かすかに、ヘッドライトが明滅したように見えた。

「言い訳する気はねえんだが、俺は若かった。お前にガタが来ていることにも気づかず、ただがむしゃらに、お前を引くことしか考えていなかった。あの時のことを、ずっと恥じて、生きてきた。ほとんど、お前に一言謝るためだけに生きてきた」

 そこまで言うと、馬は黙りこんだ。

 成金戦車の反応はない。

 馬が小さくいななき、四足で、ゆっくりと踵をかえした。数歩進み、そこで立ちどまった。

「もし、ジョーの旦那や、今じゃ、もう妃か。あの時の、ジョーのステディにあったなら、俺があやまっていたと、一言そう言ってもらえたら、助かる」

 言いながら、ふたたび歩きだした。

 そのとき、倉庫内が、まばゆい光に包まれた。

 顔をおおう。

 ヘッドライト。

 直視しなければ、それほどつよい光ではない。馬が、振りかえっているのが見えた。


「ひ……引かせてくれるっていうのか……」


 なんとなく、想像がついていた。

 馬が駆けもどってくる。

 ミニストが、とまどいながらフロントマスクの両端から、ワイヤーを引き出した。

 馬が、ティアラノを見つめてきた。

「で、でもよ、ハーネスが」

 仕方ないので、魔法でハーネスを精製し、馬の体に装着した。ミニストがワイヤーの先端をハーネスに装着し、長さを調整する。

「ずいぶんおもたくなったな……だが! やれる!」

 成金戦車が、ゆっくりと進みはじめた。

「どうだ! ハハ! どうだ! 思いだすなあ!」

 魔力で自走させるほうがずっと速いとティアラノは思った。しかし、馬が涙を流しているので、言わなかった。

 そのときだった。

 すさまじい音をたてて天井が抜け、何かが馬を直撃した。馬が吹きとび、激しいいななきを上げて倒れこむ。

 白いブリーフが見えた。

 裸。

 坊主頭。

 大概ガサツ。

 周囲に、骨付き肉が散乱している。

 成金戦車が自走で馬に駆けよった。

「相棒……短い間だったが、昔みたいで、楽しかったぜ……」

 ヘッドライトが激しく明滅した。クラクラして、ティアラノは腕で目をおおった。


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