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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 結
36/36

大開催!☆メルヒェンラリー

 重さ。速度。発想。

 何もかもが上だった。

 しきるは、ほとんど嫉妬だけで動いていた。

 かわしても、ちがう部位に衝撃が走り、吹き飛ぶ。体勢を立て直し、ガサツを探す。探している間に、また死角から打たれる。何をやっているのか、どこで戦っているのか、何もわからなかった。何度目かわからない衝撃を受け、木のなかを枝葉にまみれながら突きぬけた。どうにか体勢を整え、両手足で着地する。Tシャツを手渡された。ガサツ。ガサツもTシャツを手渡されている。黄色。にぎったTシャツに視線を落とした。黄色だった。ガサツから、殺気が消えた。

 着ている。

 お互いの顔を見つめたまま、競うようにTシャツに袖を通した。

「チーム受付に行きなさい。暴れるのなら、ラリーが始まってからにして」



 ブラボーがなにか言われている。奥様が大分お怒りです、というところだけ聞こえた。しばらくして、ハッチが開いた。うおう、なんだこれ。森のなかだ。腹立つほどまぶしい光と、とんでもない人混み。数千人はいる。全員黄色いTシャツを着ている。

 黒子が一人駆け寄ってきた。腕を引かれた。

「早く! 何なんですかもう!」

 桃も腕を引かれて走っている。後ろから、わしらどっかで見学しとるから、という声が聞こえた。人混みのなかを抜ける。照明がすごいまぶしい。奥に幸子が見えているが、幸子からそれるように進み、白い長テーブルがならんでいるところへ到達した。テーブルのむこうの、アホみたいなメガ盛りヘアをした女性スタッフがすごいにらみながらTシャツを渡してきた。何のせてるのそれ。なんか髪にいっぱいささってる。じっくり観察したかったが、すごい形相でにらんでくるので、それ以上見れなかった。

「早くチーム受付に行きなさい。このド底辺」

 なんでこんなに嫌われてるの。っていうかよく見るとスタッフ全員にらんできてる。黒子につれられて、すさまじく肩身の狭い思いをしながら、テーブル際を進んだ。そしてあい変わらずの巨大板照明――幸子の麓に到達した。まぶしい。腹立つ。でも若干木のむこうにいるので、アザーのときよりは腹立たない。

(――ツコムこの野郎。なんで、魔法の国の分岐を曲がった――)

「魔法の国? ここ魔法の国なの?」

(――お前のせいで、全部魔法の国へセッティングしなおすはめになっただろうが。しかも何だこの人数――)

「人数はしらない。っていうか何なのこの人数」

(――今こっちが聞いただろうが! 中田! 中田終わってないのあとどれくらいいるの? っていうか受付時間の締め切りいつなの?――)

 あと三分です、という声が板のむこうから聞こえた。

「ツコム! 桃ちゃん!」

 背後から聞き覚えのある声がして振りむいた。黄色Tシャツに坊主頭に白ブリーフ――オヤジ。ズボンをはけ! 黒ジャージ、の上に黄色Tシャツ――しき姉……のまわりに、ケバい仮面をつけた黒マント(の上に黄Tシャツ)。ファンシーな白い仮面をつけた白フリルドレス(の上に黄Tシャツ)。紺色の軍服(の上に黄Tシャツ)の銀色の髪の美人。カーキ色のパンツスーツ(の上に黄Tシャツ)の肌の青い美人。歌舞伎とホームレスを合体させたような顔の服(の上に黄Tシャツ)のおっさん……いや若いか? いやとりあえずおっさん。全身銀色の着物(の上に黄Tシャツ)の肌の青い老婆。そしてほぼ同じ格好の全身金色(の上に黄Tシャツ)の肌の青い老婆。白の蝶ネクタイと白いシャツに黒の燕尾服(の上に黄Tシャツ)のすさまじくでかい肌の青い少年。白衣(の上に黄Tシャツ)の髭面のこぎたないおっさん。褐色の肌に全身黄色プロテクター(の上に黄Tシャツ)の角刈りの戦士。紺色の軍服(の上に黄Tシャツ)の草食系のイケメン。いや、フツメン。上フツメン。そして面倒くさいのでまとめるが、紺色の軍服(の上に黄Tシャツ)のそれぞれ髪の長さがちがう茶髪カール三人娘――がいた。プラス、意味がまったくわからないが、アホみたいに豪華な平トラ。

「しき姉、何だその大所帯……」

 はにかみかけたしき姉の表情がかたまった。

 理由はすぐわかった。

「待て」

 隣に立っている桃の腕をつかみ、引きよせる。すでに殺気の黒煙があがりかけている。桃色の髪、耳のあたりに顔をよせた。

「待て。な。いいから待て」

 黒煙がおさまったのを見て、背中をぽんぽんとたたいた。何でいるのか聞く余裕すらない。まあ、こんだけ人数いればもうどうでもいいけど……まあ、元気そうでよかった。やっぱりほっとする。家族。

(――ツコムコラァ! そんでお前どんだけおそいんだよ。最後じゃないの!――)

「サービスエリアでなめこそば食べてたからかな……」

 ふりむこうとしたとき、受付終了でーす、という声がどこからか聞こえた。


「待ちなさい!」


 そしてさらに聞き慣れた声がした。しき姉の大所帯の後ろ。薄茶色のマントの人物。おもむろにフードを外した。婆ちゃんだった。

「おばあちゃん!」

「我が母!」

 無事だったか。まあ無事か……。オヤジとしき姉が婆ちゃんに駆け寄る。オヤジにもしき姉にも婆ちゃんにも絡みたいが、隣のメンヘラの人を一人にできないので、軽く手をふるだけで我慢した。何この立ち位置。何このしき姉との差。人望か。婆ちゃんが先ほどのメガ盛りっ子からTシャツを渡されている。そして何やら長いこと見つめ合い、親しげに話しはじめた。

 チーム登録が終わってないところは登録いそいでくださーい、という声がどこからか聞こえた。今さらながら、ある問題に気がついた。まあいい。なるようしかならん。桃をともなって長テーブルのほうをむく。桃が顔だけこっちをむいていない。大所帯――というか、まあ魔王軍か。魔王軍見てる。仕方ないので、手で顔もむけた。

「あの、二人しかいないんですけど……」

「じゃあ、あまり待ちの札もって待ってて下さい。相手は奥様が勝手に決めます。順番で入れてって、最終的に端数になった場合は即リタリアになります。即帰ってもらいます」

 この人も目合わせてくれない。『一欠』の札を渡され、テーブルを離れた。


(割愛)


(――あなたたち本当いい加減にしなさいよ――大概家この野郎――)

 しき姉のところが絡むと描写がすさまじいことになるので、結論だけ言おう。大概家が絡んでいるところが全部三人チームができていなかったため、先生に怒られる生徒みたいに幸子の前に並ばされている。

(――とにかく、じゃあ欠ってるところ、ちょっと前に出て――)

 俺と桃、婆ちゃんが前に出た。ふりむいてオヤジを見た。

「オヤジ。オヤジも欠ってるだろ」

 オヤジ首かしげてる。ちなみに先ほど判明したことだが、オヤジは大所帯じゃなかった。そして宝石平トラはオヤジ絡みだった。転移してから何があったのか、すごく聞きたい。まともに理解できる可能性は低い。

 (――じゃあまず、あなた――)

 誰だ。

 誰も反応しない。全員が全員の顔見てる。

 上を見上げる。ゴンドラのなかから指さしてるが、遠くて誰のことだがわからん。

「幸子! 誰だかわかんない!」

 幸子がゴンドラの後ろをむいた。何か受けとってる。むきなおった。双眼鏡だった。


(――黒ジャージの大概家。ツコムのとこ入って――)


 興奮で叫びそうになった。

 これはいい。ナイス幸子。しき姉は口をあけ、幸子を見上げている。いいぞ。面白くなった。指人形のようにパクっと口をとじると、しき姉がこちらへ歩いてくる。俺はすぐさま桃の背中をさすり、顔を近づけた。

「ラリーがはじまったら好きなようにしていいから、今は場を混乱させるな。わかったな?」

 桃が、無表情でこくりとうなずいた。

「桃ちゃん」

 しき姉が桃にむかってゆったりと微笑む。桃の反応はない。しかしそれに構わず、しき姉は桃の隣に立ち、同じむきになおった。こういうところがたまらん。しき姉絶対気づいてる。それでこの態度。さすが我が姉。


(――それから、ブリーフの大概家のとこに、銀髪の子と、あと、お母さん? スーツのお母さん。青い顔の――)


 魔族も知らんのか。本当に神か。

 銀髪の人がノーリアクションでオヤジのほうへ移動する。スーツの人は、一度正装の息子にしがみつき、背伸びしてビズをしてから、オヤジのほうへ移動した。


(――次。マントのおばあちゃん、大概家のとこに、マントつながりで、男のほうの仮面ね。それで、ケバケバつながりで、そこの、何て言うの? 顔に入れ墨してる人――)


 しき姉が吹きだした。

「面白い。ねらってやってるのかあの神」

 入れ墨じゃねえ。こらあ隈取ってえんだ、と言いながら、変な歩き方で歌舞伎ホームレスが移動した。後ろからマント仮面が静かについていく。歌舞伎レスがすごい後ろ気にしてる。えばってたわりにそわそわしてる。婆ちゃんは二人をすごい見てる。てか面白いなこれ。他のチーム見学したい。そもそも何やるのかしらないけど。

 しばらく間があった。

 幸子のさばきが途絶えたので、上を見上げる。幸子、ゴンドラの手すりで頬杖ついてる。


(――いいやもう。面倒くさくなっちゃった――)


 しばらく幸子を見上げ、それから視線を地上におろして、残っているメンツを見た。十人くらいいる。お前……。

 誰も何も言わない。

 しき姉のほうをむいた。

「しき姉あのさ、魔王軍は、何でこれに参加してるの?」

 ああ、と言ってしき姉がやや顔をあげた。

「パパと殴りあいしてたら、なんかここに合流しちゃったんだけど、その……その前に諸々あって、とにかく、勝ったほうがこの国を領地とする、ということになった」

 しばらく意味を考えた。

「勝ったほう? オヤジが勝ったら……」

「パパが勝ったら魔法の国。私が勝ったら魔王国領」

「そう……」

 これ以上聞いても理解できそうにないので諦めた。いや、待て。俺はオヤジのチームを指さした。

「オヤジのチームに魔王軍入ってるけど……」

 しき姉は笑いながら、ああ大丈夫と言って手を振った。

「この賭けパパはしらないから。それに、あれ」

 しき姉がオヤジのところの平トラを指さす。

「賭けの相手はあのなか」

 しばらく意味を考えた。

「三人じゃねえじゃねえか!」

 それを聞いてしき姉がさらに笑いだした。腹をおさえて前かがみになった。

「二人入ってる。五人だわ」

 もうどうでもいい。

 一チームに一つ、ケースつきのシートが配られた。裏にルールが書いてあり、表は、まだ意味がわからない。解答欄と思われる下線や四角などが印刷されてる。


(――じゃああの、何でこんなに集まってるのか知らないけど、とりあえずはじまる前に、メインスポンサーのカシマシグループ会長から挨拶があるから――)


 脳が反応する前に、森のなかに大歓声がこだました。

 幸子のさらに上、夜空に、幸子の十倍はありそうな、幅三〇メートル以上の大スクリーンがうかび、そのなかに、茶色いくせ毛。クリクリした愛らしい瞳――はしゃぐが現れた。

 歓声がさらに大きくなる。

 どいつもこいつもはしゃぐはしゃぐ叫んでる。

 何なのこの人気。起業家じゃないの? どこで展開してるのあの子。人生。

《はしゃぐだよ! みんなこんにちは! はしゃぐも出たかったけど、警備上の問題がクリアできなくて辞退せざるをえなかったよ! 代わりに応援パワーを送るから、みんながんばって!》

 そこまで言うと、はしゃぐはスクリーンのなかで立ちあがり、一人応援合戦をはじめた。

《フレー、フレー、ゆーうーしゃ! フレー、フレー、みーんーな! イエーイ!》

 最後はダブルピースでその場バタバタでしめた。勇者みんな真似してる。ダブルピースでその場バタバタしてる。あのさ。バカじゃない?

(――それじゃ、基本シートの裏に全部書いてあるから。一週間よろしくお願いします――)

 一週間もやんの? マジで……。


 夜の森に、ラリー開始を告げるホイッスルが高らかにこだました。


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