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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 本
31/36

しきるちゃんの!『ガチンコ国盗り合戦#4』

「あのさ……」

 もう起き上がれない。顔もあげられないし、指一本動かせん。

「役者とか……もうそういう問題じゃないよね……あんたのザルっぷり……」

「まったく……。何なのお前。お前こそ何者なの」

 そうは言っているが、カラフル親分は膝に手をつきながらも、立ちあがった。ほら。もうね、立ち上がれないからねこっちは。もう血管とか、なんかわかんない体の臓器と臓器のあいだのちょっとした隙間とか、そういうすべてのスペースに酒がある。満ちてる。満ち足りてる。

「とりあえず、これな」


「『檻魔法』」


 光に包まれ、上蓋のない檻があらわれた。すごいとんがってる。とんがりが突き出してる。

「あれ、やべ」

 だめだ。体の底から笑いがこみ上げてきた。何だやべって。地面に倒れたまま、ゲラゲラと声を上げた。体がばうんばうんはねた。

「ちょっと、やめて、今そういうの。マジ無理、何それ、失敗した夏休みの工作? 何それ」

「何だこれ。何で上だけでなかったんだ」

「やめろって。マジ受ける。マジ無理」

 だめだ。笑いがとまらん。そして予想通り、いや、予想より早く、胃からせり上がってきた。


(割愛)


 普通に、精製しなおした檻に入れられた。

 


 互いに消耗を繰りかえし、二桁にまで落ち込んでいた。

「魔王様、あの」

 本隊が四〇、ペルソナーレの隊が二五。トラジはいつの間にかいない。敵は、アパチア隊が七〇、シューイチ隊が一八、術子隊が一七。敵の指揮官の名前は、それぞれが二桁に突入したあたりで、常時不安なそうな表情をうかべている天然パーマの敵の総指揮官の男――シューイチが、顔あわせを提案してきたことで判明した。

 石の投げ合いになっていた。

 浮動イマジンも体内イマジンも尽きてはいない。そもそも尽きることはない。ただ、活性や干渉、DCTを行う体力もがもう残っていなかった。

「魔王様、あの、このへんで」

「馬鹿野郎。ごちゃごちゃ言ってるのお前だけだぞ。まわりをよく見てみろ」

  ぼろぼろの黒ジャージに泥まみれの顔の魔王しきるが、そういってペルソナーレをにらみつけてきた。

  言われたとおり、ペルソナーレはまわりを見わたした。まず、広場の大部分の石畳がはがれ、瓦礫が散乱している。広場に面している建物も、多くが半壊している。魔王しきるが『秩序の麻痺』を乱発し、窮地におちいったアパチアが『アンタッチャブル・ルーレット』という反則技を編みだしたことで、戦闘が、世界の終末的状態にまで昇華したためだった。その瓦礫広場を、魔王軍、魔法の国軍双方の兵士多数が、負傷者を担架にのせてせわしなく往来している。負傷者の腕には、数字と文字の入ったカラータグがつけられている。アンタッチャブル・ルーレットの効果により、多くの兵が全裸状態にあり、所属がわかりづらいためであった。ちなみに前出の戦闘継続グループは、投石が負傷者にあたったことで双方の兵からひどく叱られ、広場の端に追いやられている。

「魔王様、まわりを見ました。確かにごちゃごちゃ言っているのは私だけですが、戦闘しているのもあなたたちだけです」

「ちがう、まわりって、ちがう」

 ため息をついた。確かに、石を投げあっている百名ほどは、生き残っているだけあっていまだ闘志にあふれている。

「魔王様ー」

 後方から声がした。ふり向くと、凹屋が、檻をのせた台車をひき、大声で叫びながらこちらへむかってきていた。檻のなかには、紺色の魔法の国軍服をきた茶髪のセミロングカールの女が一人入れられている。格子に背をあずけ、両足を伸ばした姿勢で、タブレットをいじっているのが見えた。近くで炊き出しをつくっている、長身で、茶髪のロングカール、魔王しきると目つきの似た女指揮官――術子が、あ、術美、と声を上げた。付記になるが、この女指揮官は自分の兵より先にリタリアした。現状石の投げ合いをしている術子隊には指揮官はいない。どうでもいいとペルソナーレは思った。


「そうだへこみ。大変だ。マスカレーネがピンチみたいだぞ」


 不意に、しきるが言った。

 しきるの言葉をきいた周辺のものたちが、反応をもとめ、ぼんやりと凹屋に視線をむける。

「な、なんと。魔王様。マ、マス、マ、マス」

 凹屋が、目を見開き、 がたがたと体を震わせた。周辺のものたちは、担架で負傷者を運んだり、炊き出しの豚汁を受けとったりしながら、凹屋のその様子をぼんやりと見つめた。

「早く行ったほうがいいんじゃないか?」

 石を投げながら、しきるがさらにあおった。凹屋が踵をかえし、すさまじい速度で駆けだした。三〇メートルほど行ったところで急に立ちどまり、地面にうずくまった。一分ほどでふたたび立ちあがり、ふたたび駆けだした。ペルソナーレはため息をつきながら、魔王のほうへむきなおった。魔王は、行くぞー、と言いながら石をにぎってふりかぶっている。

「魔王様、それもうキャッチボールじゃないですか……」

 むこうから、アパチアの、オーケーと叫ぶ声がきこえた。



Subjedt:ラストメール


 マスカは、もしかしたら死んでしまうかもしれません。

 だから、あなたにメールを書きます。返信はこないだろうけど、読んでもらえたら、それだけでうれしいな。

 知り合ったのはメットの出合い系だったけど、マスカは、出合ったときから、運命を感じていたよ。メット上でしばらくやりとりして、メット恋愛に発展して、その後、マスカがお兄ちゃんのコネで幹部になって、初めて会議室に入って顔を合わせたときの、あきら君の顔、今でも忘れられない。すっごい驚いてたよね。ふふ。今でも思い出すと笑っちゃう。運命を感じたよね。本当はね、マスカ、あきら君が魔王軍の幹部だってこと、知ってたんだ。それで、お兄ちゃんに無理を言って、マスカも幹部にしてもらったんだ。ううん。本当はね、マスカ、あきら君を幹部したんだ。あきら君とメット恋愛をはじめてから、すぐにあきら君の本名も、住所も、家族構成も、収入も、知ることができたんだ。自らの飽くなき探究心という名のもとに、知ることができたんだ。ごめんね。犯罪だったよね。でも、彼氏にカッコイイ仕事してもらいたいって思うのって、普通のことだと思ったから……。自分のことばかり書いてごめんね。なんだか恥ずかしいね。そうだ。もし、もしね、マスカ、生き延びることができたら、そうしたらいつか必ず、仮面をとってあきら君に素顔を見せるって、そう決めてるんだ。あきら君も、サイトでははじめは偽物の写真だったよね。でもメールをやりとりするようになって数時間後には、もう本当の顔を知ることができていたよ。自らの飽くなき探究心という名のもとに、知ることができていたよ。ううん。責めてないよ。最初は誰だって……



 日が暮れてしばらく経っていた。

 城下街から、しきる、ビンゴ、スクラッチ、アパチア、シューイチ、術子(頭数調整のため復帰)がもどってきた。

「もうだめだ。缶が見えん」

 国盗り合戦は、石の投げ合いから、最終的に缶けりへと変化した。しかし広場には隠れる場所が少ないため、何ゲームかしたのち、両国の指揮官たちは、隠れる場所の多い城下町へと出かけていた。

「結局、どっちが勝ったんですか」

「魔王様の実戦闘ばりの戦術の駆使により、我が軍の圧倒的勝利であります!」

 スクラッチが声高に発表し、しきるが拳を突きあげた。アパチアが落胆したように肩をおとし、シューイチと術子がその両肩に優しく手をのせた。

 ちなみに五万ほど合流してきた旧魔法の国の兵たちが、先ほどまでガレキの撤去に精を出していたが、日が暮れたのでもういない。兵役がなくなったため、日没とともに家に帰った。

 旧魔法の国の指揮官たちが、縄をまかれ、循環バスサイズの護送車に乗りこんでいく。

「わかった。国はもういい。けど、勝負は納得がいかない。最後のはあれ全然なっとくがいかない」

「アパティ、ほんと頑固だねぇー」

「わかったよ。じゃあトランプでもやるか?」

「トランプ? いいな。なにやる?」

「いいのかお前たち……」

 最後に乗りこもうとしたシューイチに、ペルソナーレは声をかけた。シューイチが、ああ、と言って、疲れきった顔に苦笑いを浮かべた。

「最終的に、民全員を徴兵するような国になってましたからね。正直行って、もうなんか、魔王軍に統治してもらったほうがマシなんじゃないかって気がしてます……」

「そうか……」


「待てえ! まだ終わっちゃいねえ!」


 そのとき、広場の入口の方から叫び声がした。

「魔王様」

 しきるがめんどくさそうに護送車からおりてくる。ボロボロのトラジと、そのトラジに脇を支えられたマローネ。

 非常に歩くのがおそく、護送車の前に到着するまで二分くらいかかった。

 到着すると、二人は気色ばんだ表情でしきるに詰めよった。

「ああ、お帰り」

「魔王、まだ終わらせるわけにはいかない。こ」

「いや、終わった」

「いや、聞けしきる! せっかくの大いくさだったのに、これっぽっちの、これっぽっちの出番だなんて、わしゃ、わしゃ到底納得できん……」

 しきるが腕を組み、首をかしげ、目をつむる。

「うーん……」

「魔王!」

「しきる!」

「うーん。まあ、あると言えばある……もう終わってるかもしれんが……」

 二人が、さらにしきるに詰めよった。

「何だ!」

「何でも言うてくれ!」

「えっとー……。マスカレーネがー、ピンチ、でー……」

「魔王様、それは」

 ペルソナーレは諭そうとしたが、二人はすでに城にむかって駆けだしていた。

「凹屋の株奪うなよー」

 二人の後ろ姿に、しきるが適当な調子で声をかけた。しきるが護送車に乗りこんでたので、ペルソナーレはため息をつきながら、車体をまわりこみ、助手席に乗りこむ。ビンゴがエンジンをかけ、車を発信させた。

「じゃあ、兵舎によればいいんですね」

「ああ。ドナとリゴールを回収してから、城にむかってくれ。それと、お前、個性は?」

 一度、城下町に出た。

「カーナビだと、こっちの方が早いって出てるんで。個性は、単なるフラグ役なんで、特にもらってないですね」

「そうか……。島の外周をつかうのか?」

「そうですね。この商店街はショートカットで、ここをしばらくいって、外周……うおう!」

 突然、脇の肉屋から、大きな紙袋をもった白いブリーフ一枚の坊主頭の男が飛び出してきた。

 金切り音とともに、横に重力がかかり、おおきく、車体が前後にゆれる。

 ビンゴが目をつむり、ハンドルをにぎりしめている。

 ひいた。

 ヘッドライトが、倒れている男と、散乱する骨付き肉を照らしだしている。

「おい……!」

「どうした」

 後部との小窓がひらき、しきるが顔を見せた。そして、前方、ヘッドライトに映しだされたものを見て、表情を凍りつかせた。

「いや、魔王様、メ界ですから、よっぽどのことがないかぎり」

「パ、パパ……!」

 数秒、しきるの凍りついた表情を見つめていた。それから、あわてて前方へむきなおった。白ブリーフはすでに起き上がっていた。四つん這いの姿勢で、必死に骨付き肉をかきあつめ、紙袋にもどしている。車がわずかにゆれた。小窓から、しきるが後部のスライドを引き開け、飛びだしていくのが見えた。とりあえず、ペルソナーレも自身も、ドアを開け、車から飛びおりた。

「パパ……!」

 肉を拾いおえた白ブリーフとしきるが対峙している。

「しーちゃん……! 違うんだよ、これは、パパ、お肉が食べたくて……」

「パパ!」

 魔王しきるが、あの魔王しきるが、困ったように眉尻をさげ、泣きそうな表情になっている。両手を広げた。広げ、白ブリーフへと駆けよった。

 しかし、白ブリーフはおびえたように、あわてて踵をかえすと、紙袋を抱きしめて駆けだした。

「違うんだよお!」

「パパぁ!」



 あれから、追加の報告は入っていない。

 メールも書き終え、マスカレーネはやることがなくなっていた。

 部屋の角に、膝を抱えてすわっている。しばらく膨れあがる恐怖をもて余していたが、時間が経ちすぎて、それもすこしずつうすれてきていた。魔王軍の幹部なんだ。わずかだが、そう思えるようになっていた。

 しかし、心境が変化すると、今度は暇になった。しばらくスマートフォンでメットサーフィンをしていたが、バッテリーが心配になってやめた。

 ため息を吐きだし、薄紫色の絨毯を見つめる。

 毛が、たくさん落ちている。

 一本手にとり、顔に近づけて観察した。太い。人間の毛ではない。

 そもそも、この部屋は獣臭がすさまじい。

 しばらく、毛をひろった。ひろって、絨毯に、縦にきれいにならべた。

 種類が、十五はあった。

 どうでもよかった。

 ふたたび、ため息をつくと、マスカレーネは立ちあがった。壁際に置かれたものを、順番にながめていく。一つ、興味を示すものがあった。ガラスケースに入ったハードカバーの本。ケースを触ると、わすかにずれた。両手でつかんでみた。錠がされておらず、普通に持ち上がった。ケースを隣のキャビネットの上におき、本を手にとり、カバーをひらいた。一ページもなかった。そして、しっとりと濡れていた。顔を近づけ、かいでみた。マスカレーネは強烈な獣臭に悶絶死、昏倒した。

 しばらくして意識を取りもどすと、立ちあがり、ふたたび、壁際を歩きだした。彫像があった。メルヒェン三神像。ペコペコと触っていると、突然隣の壁がせり上がりはじめた。素で驚いて、すこし悲鳴をあげた。壁の奥には、エレベーターが埋まっていた。


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