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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 本
25/36

しきるちゃんの!『ガチンコ国盗り合戦#1』

 石畳に、両足がめり込んだ。

 銀の女がメガホンを足場にして、ふたたび天高く跳躍した。

 一瞬の間。

 麾下、三〇〇〇。

 三〇〇〇が、地上際をすべるように飛行し、あっという間に、しきるを取りかこんだ。

 すさまじい喚声が、外から広場になかに飛び込んできた。

 広場の外――街の四方。軍勢が飛び出してきている。四つ。計九〇〇〇はいる。こいつらか。しきるは思った。

 ゆれている。

 地も、大気も、ゆれている。

 手を突きあげた。

 隊のなかの、大隊長、小隊長が一瞬にして同じサインをあげ、すぐさま、三〇〇〇が隊内の陣形を変える。麾下の三〇〇〇の外側を、凹屋の五〇〇〇、マローネの五〇〇〇がさらにとりかこみはじめている。

 軍勢から、おびただしい数の光弾が飛びはじめた。

《合同障壁》

 ペルソナーレのグローバルが聞こえた。

 雨のような光弾が、空中で弾け、消滅し、蒸発している。何ものかわからない激しい振動が、石畳をゆらし、しきるの体をゆらし、感覚と聴覚を飽和させ、全身を押しこんできた。浮上できるが、そうせず、しきるはゆれをあびつづけた。猛りのほうが優っている。体の芯から湧きあがる猛りのほうが、こんな圧力よりずっと優っている。笑みがこぼれるのをこらえられなかった。

「魔王様」

 背後に気配がうまれた。

「指揮権はもらえる約束だったな」

「御意」

 しきるは胸を広げ、大きく息を吸いこんだ。

《ドナ、ピーター外れろ。戦場外の把握を頼む》

《シュア!》

《トラジ、リゴールは一五〇〇ずつで遊撃。滞留はするな。撹乱しつづけろ》

《うってつけ!》

《よくわかっとるの》

《マスカはそのままそこでいい》

《にゃん!》

《スコルテはいるのか》

 しばらく間があった。

《――だっ、第一諜報部隊長のアンラッキー中田です。見失いました申し訳ありません! 行方不明です》

《いい。だろうと思った。見つけ次第、一つでいいからなんかぶち上げてみせろと伝えろ》

《りょ、了解いたしましたあ》

《通信に圧がかかっている。この後、ローカルでのやりとり以外は厳しいと思う。各隊、健闘をいのる》

 グローバルを切って、あらためて戦場を見まわす。

 一片一キロほどある広大な広場だ。王城側の防壁を背にしている魔王軍は、三方から攻めこまれている。全体として、王城を頂点にした丘陵のため、攻め上げられている形である。銀髪の銀武具の女。右前方、二〇〇〇ほどの隊に合流している。

「凹みを左後方へ下がらせろ。私も下がる」

 背後に控えていた伝令班が一組、弾丸のように飛び去っていった。

《聞こえるかマローネ》

《良好だ》

 ローカルの直通通信。マローネ個人にしか聞こえていない。

《銀の女のところをお前でやってみろ。見届ける》

 息を呑む音がきこえ、続けて、震える声で、了解と返事がきた。あらためて光弾の飛びかう戦場を見わたす。ごちゃごちゃとしているが、他に二〇〇〇強の隊が三つのようだった。一万から九千。ほぼ全部か。どうなっている。左の二五〇〇ほどと、凹屋の五〇〇〇が衝突しかけている。正面の二隊計五〇〇〇弱が、左の隊に合流しつつあった。

「さあ、行こうか」

 隣から、御意、と返ってきた。

 麾下の三〇〇〇だけならサインもローカルもほとんどいらない。

 メガホンを握りしめると、ゆっくり、十メートルほど浮上した。

 麾下二〇〇〇が数秒の遅れもなく追従してくる。

 左手。凹屋とやりあっている二五〇〇と、凹屋の側面に入りかけている五〇〇〇弱のあいだ。

 発進した。

 強烈な重力が全身をしめあげ、髪がたなびいた。

 雄叫びをあげ、全身から魔力を吐きだした。 凹屋隊にむかって魔法を打ちかけていた兵たちが、ぎょっとしたように動きをとめている。数百、色とりどりの光弾がむかってきた。三〇〇〇を密集させ、下降しながら、躊躇なく五〇〇〇の角に突っこむ。滞空姿勢をくずされた数百の魔法の国兵が、魔法弾の追撃によって、次々に地上にたたきつけられている。

《散開》

 麾下が百個の小さなかたまりとなって、五〇〇〇のなかを魔法弾を撃ちながら四方へ突きぬける。すでに、違和感があった。五〇〇〇もいない。高度を上げ、戦線を見下ろした。散っている。速い。小さなかたまりとなりながら、すでに散りはじめている。即座に密集をかけた。麾下の隊列が整うころには、五〇〇〇はすでに戦域の外――街の手前まで移動していた。戦線全体を確認する。凹屋隊と魔法の国兵の二五〇〇。やや距離をあけての撃ちあいになっている。指揮官をさがしてしばらく魔法の国兵の隊を見つめた。ひどく後方に、それらしき女性がいた。覇気がまるで感じられない。右手。右……。

「ペル、あれは何をやってる」

 銀髪の女の二〇〇〇とマローネはまだぶつかっていなかった。マローネが円形に陣を敷いている。堅牢な散兵線をつくり、銀髪女の隊を牽制しているその中心で、マローネと指揮官があつまり、何やら話しあっている姿が見える。

「そうですね。多分、すぐにわかると思います……」

 ペルソナーレを見た。しきるは片頬をふくらませた。

《二の中隊以下は、ペルソナーレの指揮下に入れ》

 下降する。一の中隊の三〇〇のみが後をついてきた。地上に降りると、交戦域の手前まで徒歩で移動した。

 補聴魔法をかけ、中心の集団にフォーカスした。

「将軍がんばれ!」

「将軍がんばって!」

「将軍だけがんばって!」

 兵が口々に叫んでいるのが聞こえた。

「よぉし見せてやる……俺の、俺の器……!」

 マローネが何か言っている。

 マローネから大きな魔力。


「『将軍だけが痛い』」


 マローネの頭上に、黄色い光の玉が現れた。光の玉を支えるように、マローネが両手を突きあげている。マローネの頭上で、光の玉がどんどん肥大している。やがて直径百メートルをこえるほどのとてつもない大きさになった。しきるは目を疑ったが、すべてが魔力ではなく、表面だけのようだった。

 兵が、内側から順番に浮きあがり、光のなかへ飛び込んでいく。やがて五〇〇〇すべてが、光の玉のなかへおさまった。

「行っくぞぉ」

 徒歩で敵むかってすすみはじめた。

 遅い。

 散歩レベル。

 魔法の国の兵は、警戒しているのか動かない。玉のなかから、魔法弾が飛びだした。次々に飛びだし、魔法の国の隊のなかへむかって進んでいく。次々に着弾しはじめた。石畳の破片とともに、魔法の国兵が舞いあがる。ようやく魔法の国兵が動きはじめた。魔法弾を撃ち応戦しながら、散開したのち、二〇名ほどのかたまりに分かれて光の玉をとりかこみはじめている。魔法の国兵の放った魔法弾は、光の玉のなかまではとどいていない。ほとんど表面で弾かれるか、消滅している。魔法の国兵の輪が二重になった。二重になった二〇名、百隊が、間隔をあけ重ならないように位置を変えながら、すこしずつ輪を縮めている。

 全方向から色とりどりの魔法弾を打ちはじめた。

 前衛が、光の玉のなかの兵へ応戦しながら、防壁をだして陣を守る役割。ほとんどが玉を直接ねらわず、玉から飛び出してくる魔法弾を撃ち落とす戦い方をしている。そして、後衛が――ひたすらマローネを狙っている。すぐに弾雨と硝煙でマローネが姿が見えなくなった。

「これくらい! 私だけが耐えれば……私だけが耐えれば」

 後衛の攻撃がとまった。

 輪のなかから人影が飛びだした。

 銀色の女。

 銀色に輝く刺突剣――レイピアを突き出し、地上際をものすごい速さで滑空している。すぐにマローネまで到達した。高い金属をはなち、レイピアの剣身が後方へはじけ飛ぶ。

「ははあ。私の体に、レイピアごときがささると思ったか! 私は幼少のころから家族、友人、そして学校の教師からも、愛という名のもとに」


「『アンタッチャブル(黄色い人)』」


 マローネが銀色の光り包まれていく。 

「うおぉ、なんだこれは。何も起きん……! 私自身には何も起きん……!」

 光の玉から、兵たちが飛びだしはじめた。

 次々に飛び出し、四方へ落下していく。

 魔法の国兵が歓声を上げながら、落下する魔王軍兵を、地上から狙い撃ちしはじめた。被弾した魔王軍兵が、炎上し、凍結し、感電し、切りつけられ、脱衣しながら、次々に地上へ落下していく。

 しきるは深いため息をつくと、腕をまわし、首を鳴らし、それから膝をかがめたのち、一気に二〇〇メートルほど飛びあがった。



「兵を、よくも俺の兵を」

 速い。

 無造作に振りまわしているように見える両手足は、体軸がぶれておらず、筋肉、速度、運動の状況から推察するに、私の肉体では、一打で戦闘不能におちいるほどの威力だろうと思われた。かわしながら、剣身を復活させたレイピアでなでるように斬り続けているが、元々体に傷痕が多すぎて、どれがそれだかわからない。

「よくもお」

 泣いている。

 意味がわからなかった。

 私の知っている戦術知識のなかには、彼のとった戦法はない。

 いや、戦闘における威力はわかる。アンタッチャブルをもっていなければ苦戦した可能性は否定できない。しかし、劣勢でも敗走中でもなく、ましてや兵数が多い状況での戦闘開始から、指揮官を犠牲して兵をたすける意味がわからなかった。

「このやろう。よくもお。よくもお」

 泣いている。

 状況から推察するに、この、こんがり小麦色に焼けた肌に黄色い武具……武具というよりプロテクターをつけた男そのものが、戦争の意味を理解していないのではないだろうか。

 泣いているせいだろうか。攻撃に法則性が出てきた。もっと言えば、単調だ。

 右手を後ろ腰へまわした。拳に魔力をためる。半身で立ち、左のレイピアのみでさばく。さばけないものは体内活性で大きく引く。

 小さく左の拳。直後右二つ。速い。ほとんどレイピアを無視しはじめた。転回もほぼない。筋肉のつまった強靭な体幹に、左右のスイッチも上下の振幅もまかせきっている。間断のない突きをさけるため、上体を大きく動かしつづける。髪が打たれ、彼我のあいだを舞っている。対して手入れしていないから別にいい。なかに入れない。速い。すべての突きの軌道が小さい。

 消えた。

 腹部に衝撃。

 つかまれている。

 声を上げ、レイピアを背へ突き刺した。剣身が曲がっただけだった。体が浮きあがった。暴れまわり、どうにか男の腕のなから、後ろ腰の右手を引きぬいた。骨がきしみはじめた。呼吸が圧迫されている。状況から推察するに、このまましめあげ、骨を砕く気だろうと思われる。目の前の、筋肉の盛りあがったこんがり小麦色の背中。内臓は厚い筋肉と厚い脂肪のむこうだろうと思われる。効果に確信はもてない。

 こんがり小麦背に、右の手のひらを押し当てた。


「『インタクシケイト(朝までコース)』」


 魔力をこめる。込めつづける。まだ弱まらない。もう息ができない。目をつむり、知覚しているイマジンすべてを右手に集中させた。拘束が弱くなった。小麦男が足元にうずくまった。うずくまったのだから急がねばならない。動かない全身を叱咤し、どうにか男からはなれた。二メートルほど、ようやく離れたところで、男が嘔吐をはじめた。

「うぇ、キモ、うぇぇ」

 さらに数メートルはなれ、膝をつき、男とおなじようにうずくまった。しばらくむせつづけ、咳きこみつづけた。咳き込みながら、メット好きの同僚に心から感謝した。名前を覚えようと思った。

 目の前の石畳が、誰かの両足によってつぶれた。


「面白い技を」


 頭部に激しい衝撃。

 顎。

「いくつも持ってるな」

 浮き上がっている。 痛みは強烈だが、意識の混濁にはいたっていない。目は開かない。レイピア。剣身を復活させようとして、イマジンの制御がきかないことに気が」ついた。先ほどの反動だ。やりすぎた。魔法化まで三〇秒はある。完全に無防備だ。首をつかまれた。呼吸の圧迫。また呼吸だ。まったく。

「話してくれないとは思うが、一応聞いておく。なぜ一九万もの兵が、兵舎で心の病にふせている」

 ようやく目がひらいた。黒く長い髪の女。切れ長の目。黒いジャージ。大概の……大概?

「タ、イ、ガ、イ……?」

 女が首をかしげた。

 十五秒。

「これは挨拶がおくれたな。大概しきる。魔王だ」

 大概ガサツの娘。リアル。この推察は、まず間違いないだろう。

「大概ガサツ、の娘か」

 女――魔王が、目を見開いた。

 ゼロ。ふたたびチャージ。気づかれないように、剣身も、ゆっくりもどす。

「パ……父を、知っているのか」

「この国を」

「……国を? 国をどうした?」


「『インタクシケイト(駆けつけ三杯)』」


 何かに当たった。

 プラスチックのようだった。

 魔王が目を細めた。

 美人だ。

 そう思った。

「どうだ。感じるだろう? 器を」

 レイピアを持ちあげた。目の前の腕が即座にはなれる。着地前にいくつか突きをだした。輝く黄色いなにかではじかれた。後ろへ飛ぶ。黄色はメガホン。変なのばっかりだ。大叫声が聞こえた。前、後ろ、両方から上がっている。三〇〇ほど。魔王の背後から黒備えの隊が突っこんできている。魔王そのものも突っこんできた。

 メガホン。

 そんなもので。

 刺突。

 逆手に持ちかえるのが見えた。レイピアがメガホンの空洞を突きぬける。魔王が転回している。甘くみたことを後悔したが、遅かった。左頬から、脳に衝撃が突きぬけた。

 頭ばかりだ。

 バカになってしまう。



 こういうのが嫌で通信兵になったのに、なぜか戦場のどまんなかにいる。どまんなかで、二五〇〇の指揮をとるはめになっている。むかいに、魔王軍の五〇〇〇ほどの隊。倍じゃないか。こっちの兵の質はぐちゃぐちゃだし。光弾が飛びかっているが、指揮官だってことでかなり後方にいるので、今のところ激しい交戦には巻きこまれていない。それよりも、問題はこの高度だ。現在地上五〇メートルほど。左右に加えて上下にも展開しているため、状況が全然わからない。魔大で模擬戦をやった記憶がかすかにあるが、悲しいほどかすかだ。そして何よりもまず、私は高所恐怖症気味だ。

 というわけで、ちょっとした小細工を弄している。むこうが気づかなければ、こうしてぼんやりモノローグに興じているうちに、成果が出るはずだ。というか、もうすでに出はじめている。多分。先ほどまでは、主戦場は八〇メートルほどだった。

「効果が出はじめていると思われますです。けんど……」

 眉毛のつながった、おじいの副官が近づいてきて言った。彼はまずまちがいなく民兵だろう。まあ、二〇万分の十七万で、大体八、九人に一人が民兵なんだけど。人兵器を使わない理由はこれだ。正規兵が全然いない。ほとんどが、徴兵された民兵と一緒に、兵舎で生まれてこなければよかったと言いながら毛布かぶってる。数少ない訓練された兵は、各部隊の指揮か斥候などにまわされている。

「けんど、指揮官様、地上で戦うことに一体全体どんな意味が」

 意味などない。あるかもしれんが知らん。空中が怖い。それだけ。

 献身的に戦っている兵たちのあいだをくぐり抜け、魔法弾が一つ飛んできた。ほぼおじいコース。体をかかめ、手を下で構えながら前方へ飛びだした。魔法弾を撫であげる。


「『上書き』」


 激しい蒸発音をあげて、魔法弾が消滅する。ふり向くと、おじいが潤んだ瞳で見つめていた。

「さぁすが、指揮官さんまぁ!」

 助けられた感動はわかるが、お前、本当か? 本当にこれが戦闘向きの魔法だと思うか? イマジンのスキャン技術を応用しただけの、すさまじく効果範囲のせまい技なんだけど。いや、もう技かこれ。二発同時にきたらもうアウトだけど。

 ごちゃごちゃやっているうちに、さらに主戦場の高度が下がっている。三五メートルほど。いいぞ。しかしまだまだだ。

 おじいと一緒に戦場をながめていると、何やらやたら目立つ集団がいることに気がついた。

 いや、そもそも、指揮官とその麾下らしき集団五〇〇ほどが、無駄にカラフルで、武具もつけずに着物らしきものを重ね着しておりやたら目立っているが、それ以外に、金備え――これも、見た感じ武具ではなく着物――の集団が、ほとんど散開せず、そこそこの密集隊形をたもったまま縦横無尽に飛びまわっている。一五〇〇ほど。魔法弾のたぐいは撃っていない。それに、個々が回転しているように見える。あれつらくない?  漫画とかアニメとかでよくあるけど、実際にやると、あれ自分にダメージあるんじゃない?

「あれ、なんだろうね」

「さあ、遊軍じゃろうか」

「それは、そうだろうけど」

 魔王軍の遊軍であることは間違いないだろう。こっちの兵であんなの知らない。一五〇〇。少なくない。敵味方全体で八〇〇〇弱の戦場に、一五〇〇のかたまりだ。通過すれば、影響はまぬがれない。ただ問題は、見るかぎり、敵も味方も吹き飛ばしていることだ。意味がわからん。

「あっ! いいんじゃないあれ」

 突如、そのことに思いあたった。おじいが、ポカンとした表情で見つめてくる。

「味方も吹きとばしてるじゃない。悪酔いするよ。あれ」

 おじいが、ああと言って手を叩いた。

 そうなのだ。こちらの魔法弾――火炎、凍結、電撃、斬撃、脱衣などすべてが、いわゆる偽装魔法弾である。二五〇〇全員に、アルコール度数八五の酒のアホみたいな酒の小瓶をもたせている。攻撃魔法――こんな言葉はついこないだまでこの国にはなかったが――の精製が苦手な民兵たちだが、適当に火だの何だのを精製し、そこにアルコールをちょっとずつ練りこませている。戦闘で興奮状態にある兵は、まず気がつかないだろう。今ふと気がついたが、火炎魔法だと、アルコールは蒸発するのではないだろうか。まあ効果は出てるみたいだし、別にいいか。そしてそこに、あの猪突猛進の遊軍。ピンボール状態の兵。

「おぉ、ほら」

「おぉ」

 見る見る高度が落ちてきた。魔法の国兵、不審に思ってはいるだろうが好機とみて追撃している。完全に士気が上がっている。雄叫び上げてる。とうとう地上につくものが現れはじめた。私とおじいも高度を下げ、地上に降りる。ゆるやかな坂になっているので地上でも戦況がよく見える。下方だけど。そして偽装魔法弾と敵遊軍によるピンボールは相当相性がよかったようで……。

「うぉぉ、地獄絵図……」

「地獄絵図ぅ……」

 地上は地獄絵図と化していた。

 まわりから、魔法の国兵がいなくなりはじめた。まずい。前進せねばならない。おじいを伴って、仕方なく前進する。段々勢いが上がっている。待ってくれ。戦うはめになる。待ってくれ。彼我の距離とスペースがどんどん縮まっている。あんまり縮まるので、前にいる兵の頭や背中で視界が悪くなりはじめた。戦況が見えん。飛ぶか。いやだめだ。狙い撃ちされる。どうしようこの状況。仕方ないので、今さら、技術者スキルでできそうな強力な魔法を考えてみる。敵にダメージを与えられる技術者スキル……やはり通信系か。欺瞞系。距離欺瞞、方位欺瞞、速度欺瞞……。

 顔が、前の兵の背中にぶつかった。

 前進がおそくなっている。

 限界までつめたか。

 いや。

 下がっている。

 衝撃がある。はるか前方だが衝撃がある。

 雄叫び。遠い。まがまがしい雰囲気を感じた。直観で、こちらの隊のものではないと判断した。

 下がっている。左右を見る。まちがいない。

 空中に何かが浮きあがるのが見えた。

 魔法の国兵。

 滞空姿勢ではない。攻撃をうけている。

 次々に兵が浮き上がりはじめた。

 唇を、つよくかみしめ、拳をにぎりこんだ。


《フラフラしててごめん。真面目にやる。第一から三までの中隊、つづけ。随時指示伝える》


 浮上した。

 前方。

 着物を重ね着した、カラフルな指揮官とその麾下カラフル三〇〇。

 他の兵がうずくまり嘔吐するなか、背丈ほどもある棍棒をふりまわし、雄叫びを上げながら、魔法の国兵におそいかかっていた。


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