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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 本
22/36

しきるちゃんの!『バカしかいない大侵攻』

 視界のほとんどを、灰色の体と、兵たちの黒い鎧がうめつくしていた。

 五〇〇の飛獣。

 灰色の、無毛の体の上に、巨大種の兵が数名ずつのっている。

 そして、自主飛行する、余剰兵力、二万。

 しきるの頭上を埋め尽くし、まるで魔界の空のような薄暗さを、しきるにもたらしていた。

 魔界に、兵は残していなかった。城は、そもそもない。もし魔界をとられたら、また取り返せばいい。それぐらしか考えていなかった。

「コンタクトに換えてくる」

 衛兵にそう言い、船内に下りた。

 コンタクトにつけかえると、しきるは鏡のなかの自分を見つめた。目に、猛りくるうような感情が見えた。喜びがこみ上げた。悪魔。魔王。その響きだけで、死んでもいいと思うほどの喜びが、何度でもこみ上げた。制御できない衝動が心を支配するのを、心を支配し、悪に邁進するのを、もう一人の自分で、ただながめているだけのような気もした。

 ふたたび、甲板にもどった。

 頬を、髪を、風が吹きぬける。

 わかっていた。

 どこまででも、やれるわけではない。

 一人でも殺したら、地球にもどったのち、まともな人生を送ることはないだろう。この世界だけのことだとしても、残念ながら、それで割りきれるほどずぶとい神経は持っていないことは、自分でわかっている。

 それでも、だめだった。

 どうにもならかった。

 いつまで魔王でいるのか。

 どこまで、悪で進めるのか。

 何もわからなかった。

 ただ、猛りくるう衝動だけが、しきるの心を支配していた。

 背後に、気配が降りたった。

 しばらく、ペルソナーレは何も言わなかった。

「どうかされましたか」

 すぐにしきるは振りむいた。

「もういいだろう。作戦をきかせてくれ」

 漏洩防止のため、作戦の全体像は、上陸直前にグローバルの魔力暗号通信にて、一斉につたえられることになっていた。

「全軍、正面突撃」

 しきるは首をかたむけた。

「立地も情勢も徹底的に調べ上げていただろ。哨戒機殲滅で、城崖下の森に巨兵を埋伏。飛獣はその下の海中に待機。歩兵を三つに分けて、正面から街、城外壁の兵舎、遊軍にわけ攻略。城から離れた低地に戦線集中後、背後より埋伏させていた飛獣、巨兵の半分を城におろし攻城。残りの飛獣と巨兵で戦線にむかって攻めおろす――これくらいのことは言うと」

 意味もなく、思いついた作戦をしゃべっていた。

 現れるのは、もう少しあとにしてほしかった。心のなかでそうつぶやいた。

「さすがですが、飛獣を消耗させるのは得策ではありません。攻城兵器と巨人種が帰還できなくなる可能性がある」

 鼻をならした。

「ではどうしてだ」

「魔王様のお心に従っただけです」

 一瞬、呼吸がとまった。目を細め、ゆっくりと息を吐きだした。

「聞きたいことがあるなら、今だけ、特別にこたえてやろう」

 ため息混じりにそう言った。

 それには答えず、ペルソナーレがしきるの横にならんだ。前方に見える陸地に顔をむけている。

「ベッロ様の代では、早々に侵略を中断し、長いこと、こうして外に侵攻にでることもなかった。……私も暴れたかったのですよ魔王様。だから、今、とても満足している。鬱憤がどこまで解消されるのか、いつまで侵攻をつづけていられるのかなど、今は、そんな野暮なことは考えたくない」

「つくづく……」

 そこまで言って、しきるは言葉をとめた。

 ペルソナーレの部下が近づいてきた。

「哨戒機、やはり発見できません」

「……たしかか」

「どうした?」

「この距離で、哨戒機が一機も見あたらないというのは、ちょっとおかしいですね」

 しきるは腕を組んだ。

 ペルソナーレを見つめた。

 しばらく見つめ合っていた。

「そうか。そうなると仕方がないな」

「魔王様」

 部下へ振りむく。

「お前、幹部たちを呼んでこい」

 部下が走り去っていった。

「魔王様、どうしても必要なのですか? このタイミングで?」

「どうして哨戒機がいないのか幹部たちに考えさせることが、お前は必要ないというのか?」

 ペルソナーレが押し黙った。

 幹部たちが甲板に現れ、一列にならんだ。

 しきるが顎をしゃくる。

 ペルソナーレが、嫌そうに、魔法で精製したマジックペンとオフホワイトのボードを幹部たちに配っていく。

「この距離になっても、哨戒機が一機も姿を見せないそうだ。これはおかしい。そこでお前たちに、なぜ哨戒機が飛んでいないのか考えてもらいたい。有用な意見を出したものには恩賞割増」

 しばらくペンを走らせる音だけが甲板に響いていた。

 凹屋とマローネが挙手した。

「はい。じゃあ凹屋から」


『時代がそうさせる』


 しきるが、凹屋の頭頂部にメガホンを振りおろした。

「そういう、当たり障りのないのはやめろ。はい、マローネ」


『もらった個性が輝かない』


 振りあげかけたメガホンを、しきるが苦々しい表情でとめた。そのまま、メガホンをふたたび挙手した凹屋にむける。

「はい。凹屋」


『お前だけじゃない』


 乗るなと叫び、横打ちで頬をはたいた。凹屋が頬を抑えて屈みこむ。

「はい、マスカレーネちゃん」


『朝、布団から出るのがつらい』


 しきるがマスカレーネを両手で指差す。マスカレーネが同じように、両手でしきるを指差した。

「はい。じゃあリゴール」


『盆』


 幹部たちから、おおっと声が上がった。

「やるじゃないかリゴール。なんだかんだ、結構シャープに出してくるよな」

 リゴールが、はにかみ、しきると幹部をみまわした。隣のトラジが、はいはいと叫びながら挙手を繰り返している。

「はい、トラジ」


『燃料切れ』


 甲板が静まり返った。

「あのトラジ? もし知らないんだったら……。あの、魔法の国の軍用航空機っていうのはね、人航空機っていって兵が魔法によって変態したものなの。だから……その、わかるわよね? 燃料の概念は多分ないの。わかる……かしら。あるとしても、なんと言ったらいいかしら、その、浮動イマジンだから、燃料切れっていうのは」

「ドナ、ドナ」

 いつの間にかドナの近くまで移動してきた凹屋が、身振り手振りするドナの腕をおさえた。

「ドナ、それは傷口に塩を塗るってやつだぜ……」

 ドナが不思議そうな顔でうなずいた。

 マローネが手を上げている。

「はい、マローネ」

「頼む、もう一度だけ……」


『頼む、もう一度だけチャンスをくれねえか。もう一度だけ試してみてえんだ……自分が、俺がどこまでやれるのかを…… →墜落』


 甲板に唸り声が満ちた。全員腕を組み、眉をよせてうつむいている。

「お前が長文で来たのは、なんかうれしかったんだけどな……」

 しきるは、悲しげな表情をうかべるマローネの肩を、優しくたたいた。

「はい。リゴール」

「なあお前、目薬つかってる? 俺最近乾き目がひどくて――ああわかる! 俺も。俺けっこう変えてんだよね目薬。どうもしっくり来るのがなくてさ――お前もなの! すげー乾くよね目――哨戒班特にひどいよな。基本飛びっぱなしで――お前らも目乾くの? 俺も――お前も? 俺も――俺も――俺も――」

 俺もと叫びながらめくった。


『俺も!』


 湧いた。軽く拍手がおきた。

「なんだその技術……どこに隠してたんだ……」

「この貪欲ババア!」

 トラジがリゴールになぐりかかった。取っ組み合いになった。

「貪欲ババアはお前じゃろ!」

「わしが、わしがこの日のために、どれだけのイマジンを費やしてきたと思おとるんじゃ!」

「知らん! というか大喜利のためにイマジン注ぎこんどるんかお主!」

『地下アイドルのライブチケットが……』

「う……ん。さすがにマスカ、ちょっと……はい。マローネ」

『近視』

「ああそうだな。近づいてる。よくなってるよ? もうちょっと……おい泣くな! そんなに褒めてないぞ泣くな。よし。じゃあピーター」

『唐突な千里眼ブーム』

「魔法でね? もうこれで飛ばないですむぞってね?」

「ピーターあなた……やるのね……」

『お腹が冷えるから』

「お前もうだまってろ凹屋」


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