ふたりの相性は測定不能?
慌ただしい昼食時間が過ぎ去り、腹を膨らませた俺は、ソファーの上でだらけようとしていた。美味い料理を食った後に、こうして体の力を抜くのは、最上級の至福である。
だが今日のギャルちゃんは、いわゆるJKらしいエネルギーに溢れていた。さすがに若さには敵わん。
「ねぇマサくん。遊ぼうって言ったじゃん」
「ちょっと食休みー」
「そのまま寝そうなんですけど?」
「じゃあついでに昼寝ー」
「あっそ!! もう勝手にしなよ!」
「悪い悪い。もう休憩終わったから」
拗ねた菜摘も可愛げがあるけど、急いで昼食まで作ってくれたのに、ここで怒らせるのは当然気が引ける。床に大の字になって寝息を立てる二歳児が、とても羨ましく思えるが。
「ゆうちゃんは子どもだからいいの!」
「なんも言ってないぞ。見てただけだ」
「いいなぁって思ってたんでしょ?」
「ずいぶん察しが良くなってきたな」
「だってマサくん、顔に出やすいし!」
これまで気にもしていなかったが、近頃その顔に出るという一面が、やけに身近に感じてきた。菜摘や悠太を見ていればそう思うこともあるけど、自分自身に関しても、決して他人事ではないらしい。表情豊かな俺っていうのは、ピンと来ないのだが。
そんなやり取りをしている内に、蓮琉は本題の準備に取り掛かっていた。何やらスケッチブックまで取り出し、ギャル以上に乗り気な様子に見える。
「私がお題を出すので、その答えをお二人が紙に書いて、同時に見せ合うってやり方です」
「いいねー! あたしらについての質問?」
「そうだよ! 二人が知ってそうな内容ね」
「マサくん、ちゃんと考えてよー?」
「それはいいけど、本当に撮影するの?」
「一応、雰囲気だけでも楽しみたくて。
このスマホでムービー撮りますね!」
ざっくりとした説明だが、イメージしていたものとほぼ同じだろう。
俺と菜摘は小さなテーブルの前に座らされ、正面にカメラを固定した蓮琉から、紙とペンを手渡される。
「取り敢えずお試しってことで、新鮮なリアクションをお願いしますねー」
「はいはーい!」
「やろうとしてやったら新鮮じゃないけど」
隣のギャルと違い、俺はこの状況をまるで楽しめそうもないんだよな。
ニコッと微笑んだ少女から、まず最初のお題を提示された。
「では第一問。
彼女が思う、彼の一番好きなところは?」
定番っちゃ定番だが、こうして予想を立てるのも中々難しいな。
考え始めた矢先に、菜摘が手を挙げて即答する。
「ごめん。それ、答えらんない」
「なんで!? 俺の好きなとこ無いの!?」
「いや、いっぱいあり過ぎて、この紙に書ききんないし。他のがいいー」
照れもせず言われると、こっちが照れるわ。
「んー、じゃあ逆にします。
彼が思う、彼女の一番好きなところで!」
彼女の好きなところか。この場合、菜摘が思い浮かべそうな答えを書くべきだけど、それすら想像出来ない。改めて考え出すとキリが無いし、直感で思った部分を書くかな。
「二人とも書けましたかー?」
「「はーい」」
「では一斉にどうぞ!」
「料理が上手!」
「義理堅いところ」
料理に関しては来るかと思ったけど、前にその利点を褒められても嬉しくなさそうだったから、あえて内面から選んだのに。まさかどストレートな回答が飛んでくるとは。
「料理は君の強みだけど、一番の魅力じゃないだろうよ。もっと性格的なとこからさぁ……」
「いや義理堅いってなんだし! 言われても褒められてる気がしないんだけど!?」
「君の持ち味だろうよ。受けた恩を忘れないし、思いやりも強い。いないぞこんな良い子?」
「そ、そーゆーもんなの?
自分じゃよく分かんないもん……」
顔を赤らめてモジモジする菜摘は、やはり自身に向けられる褒め言葉に弱いらしい。正直で可愛らしいが、これは俺の勝ちだな。
「これは勝ち負けではないので、勝ち誇らないで下さいねー」
「あ、そっか。趣旨を忘れてたわ」
「次いきますよー? 第二問。
彼に直して欲しいところは?」
また俺に関してか。と言うか純粋そうな少女よ。この質問、結果によっては割と溝が深まるぞ。そもそも俺が傷付きそうなんだけど。
「書けたみたいですねー。ではオープン!」
「引きこもり」
「なんにもない!」
「「………」」
全員で黙り込むってなんだよもう。しかもギャルは回答拒否してるレベルじゃないか。
「菜摘ちゃんは、不満が無いってこと?」
「うん。マサくんはこのままでいいもん」
「結構指摘する場面も多くね?
それでも直さなくていいって事か?」
「だって言えば変えてくれるし、あたしの嫌がることは絶対しないじゃん」
どんだけ器がでかいんだよこの子。いちいち言わせるなって方が当然なくらいなのに、それを手間と思わないとか、理想的過ぎるぞ。
最早蓮琉に至っては、苦笑を浮かべている。
「な、なるほど……。答えは一致しませんが、本当に仲良しなんですねー」
なぜ出題者が一番悩まされてるんだ。
「これで最後にしましょう。第三問!
二人でデートするならどこがいい?」
「マサくんち!」
「俺の家!」
「はい、即答ありがとうございました。二人だけの世界が強過ぎるので、この動画を投稿するのは辞めにしましょう!」
「えー、ハルちゃんまでそんなこと言う?」
「だってこの惚気話、全世界に配信するの?」
「ちょ、ちょっとだけ恥ずいかも……」
相も変わらず平和過ぎるぐらい平和な、九月の終わりの一日だったとさ。




