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歪んだ愛情とはこういうものか

「送っくれてありがと! 

 ハルちゃんも気を付けて帰りなね!」

「うん、菜摘(なつみ)ちゃんまた明日ー!」

 

 女子高生達が作ってくれた夕飯を食べ、二人を家まで送り届ける真っ只中。蓮琉(はる)の家まで行く途中に菜摘の家があるので、今はそこで別れを告げたところだ。

 ここまでなら近いのだが、このまま向かう少女の屋敷には、まだ距離がありそう。これは少し面倒かもしれない。

 

「あの、玖我(くが)さん。私もここでいいですよ」

「いやいや、まだ遠いだろ?

 こんな夜道を、君一人で歩かせられないよ」

「優しいんですね。ではお言葉に甘えます」

 

 初めてこの子と会った日も、このぐらいの時間だった。まだ深夜と言うには早めだが、それでも人通りは少ないし、女子が単身で出歩く時間ではない。綺麗な顔でニコッと笑った少女も、危険に遭う可能性が十分にある。

 

「それにしても、学生に戻れてよかったな。

 この先良い出会いがあるかもしれないぞ」

「良い出会いですか……。

 これ以上がありますかね?」

「これ以上? 初日でもう見付けたのか?」

「そうではないです。私の近くには今、二人の素敵な人がいますから」

 

 二人? 興味を持った男が二人って事か?

 しかも学校以外なら、どうやって見付けたんだろう。てか蓮琉は守備範囲が広いのかな。

 

「それはすごいな。見合い相手だった山内は、最初から可能性なんて無かったわけだ」

「あの……解ってて言ってますよね?」

「………俺と菜摘を指してるのか」

「はい。玖我さんと菜摘ちゃんです」

 

 自分の心の声は誤魔化せても、彼女の想いまでは誤魔化しようがない。ただ知らないフリをして、あわよくば見限られた方が楽だった。

 

「お二人を見ていると、本当に幸せになれて、決して割り込もうとかは思ってないんです」

「じゃあやっぱり他の人探すしか……」

「なので、玖我さんの愛人にして下さい!」

「ホワぁイ!!?」

 

 慣れていない相手だと、つい変なリアクションをしてしまう。

 そうではなくて、この子まともそうに見えて、なんで時折突拍子もない発想を展開するんだ? 世間知らずのお嬢様だから、思考回路が極端なのだろうか。

 ともかく、蓮琉の表情に迷いは感じられず、ギラギラと向けられる視線は、眩しくて痛々しい。

 

「それもダメ……ですか?」

「いや、あのー、なに言ってんの?」

 

 物欲しそうな上目遣いでも、無理なものは無理だろう。いきなり愛人ってどういう事よ。

 

「冗談です! イタズラしてみました!」

「なんだよ。本気で戸惑ったぞ」

「ごめんなさい。私、どうかしてますね。

 玖我さんを見てると、胸がざわつくんです」

「……まだ冗談は続いてるのか?」

「それもごめんなさい。全部本気でした」

 

 愛人願望から本気なのかよ。余計にどうして良いのか分からないだろ。

 好意自体は嬉しくないと言えば嘘になるけど、彼女にだって選択肢はいくらでもある。ここで俺にこだわる方がもったいない。

 

「既婚者でもないのに愛人はおかしいし、そもそも君は、恋愛を知らないだけだろう」

「こんなに誰かに惹かれたのは初めてです」

「辛くないなら、友人として近くに居ればいい。そのうち他の男も見えてくるさ」

「見えなかったら愛人にしてくれますか?」

「いやムリ!」

「あはは! 今度は本当に冗談です!」

 

 冗談と本気の垣根が全く見えてこないのだが。

 しかし彼女が無邪気に笑う顔は、さっきの迫り来る様相とは違い、柔らかくて優しい。


 自宅を出て二十分以上歩いた所に、巨大な門のある立派な屋敷が見えた。近隣では中々見掛けない和風建築で、堂々たる構えが、いかにもお嬢様の住居らしい。

 門の手前では、使用人らしき人物が辺りを見回していた。

 

「ここまでで大丈夫です。

 送って頂き、ありがとうございました」

「そうか。じゃあまたな」

「あの、玖我さん!」

「ん? どうしたの?」

「明日も、お邪魔していいですか?」

「う、うん。構わないけど……」

「ではまた、明日の放課後に伺いますね!」

 

 菜摘も喜ぶだろうし、問題無いだろう。そう思って、去り際に振られた手にも応えたが、翌日の俺は頭を悩ませている。どうやら昨夜許可を出したのは、軽率だったみたいだ。

 

「あー、今日は菜摘バイトじゃん」

「はい。なので私だけ先に来ちゃいました」

「と、とりあえず上がって」

 

 ギャルが居ない状態で黒髪少女と二人きりになるのは、今の俺としては相当気まずい。また突然盛り上がられても困るし、主導権を握りつつ、慎重に話題を選ばなくては。

 

「今日の学校はどうだった?」

「休み時間とか、菜摘ちゃんといっぱいお喋りしました!」

「菜摘って学校でも変わらないの?」

「少し周りと距離を置いてますが、普段通り明るいですよ!」

「そうなの? 友達いないって聞いてたけど」

「夏休み明けから、話す人が増えたみたいです。菜摘ちゃん、嬉しそうに言ってました」

 

 確かに最近では口調の荒さも身を潜めてたけど、他の場所でも自身の魅力が出せるようになったのか。元々容姿は良いし、人柄だって純粋で心優しい子なのだから、塞ぎ込んだり避けたりしなければ、自然と周りから近寄って来るだろう。

 そりゃもう色んな人物が……

 

「ねぇ蓮琉ちゃん、小遣い稼ぎしない?」

「……? どういう意味ですか?」

「バイト代出すから、菜摘に近寄る男がいたら、全力で邪魔してほしい!」

「えーっと……それはちょっと……」

「やっぱダメか。君的には好都合だもんな」

「いえ、そういう事ではなくてですね……」

「ん? 違う理由なの?」

「玖我さんも菜摘ちゃんが関係すると、常識的じゃなくなるんですね」

 

 何を口走っているんだ俺は。完全に我を忘れていた。だが菜摘の周りに、他の男がいる光景を想像しただけで、落ち着いているのも難しい。

 昨日、蓮琉の常識外れな発言に驚愕したばかりなのに、人の事とやかく言えないだろ。

 自分に引くわぁー………

 

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