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「大きいことは良いことだとエロい人も言いました」



 先刻のは第1waveだったらしく、海の中から次なる魔物の群れが浮上して来る。中には海面から飛び出し、船上に乗り出すものや、空中に浮かんで攻撃を加えるものもいる。

 空に浮かぶのは、丘でも見たエイの色違いをはじめ、何故海中に潜んでいたのかわからない水鳥や、浮遊するくらげ、浮遊するヒトデ、浮遊するウニ、浮遊するハルキゲニアなど。

 船上に乗り込んで来たのは、すね毛のあるマグロ、美脚のスナメリ、節足のうつぼなどだ。何故彼らは有利な水中から出てきたのだろう。そしてそれは何のための進化なのだろう。何故マグロは健脚をアピールしてポージングをして来るのだろう。謎だ。


 先程でコツを掴んだので、水分操作を(もち)い、食えないものは爆散させ、食えるものは首を落として腹を裂き、内臓を取り除いて血抜きをして甲板に持って来る。結構な量があり、防腐処置……といっても布でくるんで氷の近くに置くだけだが、せっせとそれを行う猫どもの、「かぶとがおいしい」「マグロは脚が美味」というリクエストに答え、解体を微調整して収穫……もとい、敵の数を減らして行く。

 雑に殲滅するのではなく、丁寧に処理しているため、一度に対処出来る数が減ってしまい、船上に乗り込んで来るものや、宙や海上から襲って来るもの全てには対応出来ない。しかし、当然私だけが戦っているわけではないので、少年やおっさん、お坊っちゃんのパーティが対処しているようだ。少年は船上、おっさんは浮いている遠距離攻撃をしてくる魔物を優先的に狙い、微妙に暇なんだが? という視線を向けて来る。倒しても倒しても湧いて来るが、てんてこ舞いになる程じゃない。良い狩り場じゃないか。私はお腹が空いていますよ。

 お坊っちゃんのパーティはそれほど楽勝ではないようで、アタッカーのお坊っちゃんは船酔いのようにぐったりしていて、苦労人がメイン盾、メイドが遊撃、執事が遠距離火力のようだ。


「おいたわしや、坊っちゃま。すぐに(じい)がお側に侍って膝枕して差し上げますぞ」


 執爺(しつじい)は氷の魔法で空の魔物を撃ち落としている。水場なので消費が少ないらしく、熟練の腕も相俟って、この数を相手にしてもまだまだ余裕のようだ。


「う、うわわっ! こ、硬化!」


 素人臭い動きで大盾に身を潜めていた、苦労人臭がするツッコミは、盾の隙間を狙って放たれた槍のようになめらかな脚を、魔法と思しき肉体で受け止める。どうやら自身が動けなくなる代わりにかなりの硬度を得られるようで、攻撃した方の足が傷付いて、指が折れて曲がり、赤い血を滲ませた。

 反動でバランスを崩したスナメリの一本脚をメイドが切り捨て、倒れた所に刀を突き刺して息の根を止めた。


 浮遊するくらげに物理的な攻撃は効き難いらしい。水が漂っているだけという印象で、刃物はすり抜けてダメージを与えられない。おっさんの話によると、無害な種類もいるが、顔を覆って窒息させたり、触手に毒があるものもいるので注意が必要だ。その癖実体が無いのはどうゆうことなんだ。魔法か、魔法なのか?

 おっさんの矢では対抗出来ないし、食べる部分がないので私が水分操作でパーンしているが、執事は氷の杭を突き刺して、凍ったくらげが海に落ちて行く。魔法が効き易い相手を執事が、挙動が素早く、攻撃して来る相手をおっさんが迎撃しているようで、後衛組の年の功は即興でも共闘出来ているようだ。

 執事は船上に降り立ったくらげを一瞥したが、硬化を使っている苦労人に触手を伸ばしていること、メイドがそちらに向かっていることからか、視線を空に戻した。


「ですぅ~」


 メイドが一刀の下、くらげを斬り伏せる。くらげは形状を失ない、溶けて水溜まりになってしまった。どうやらメイドは死の魔法が使えるらしい。条件は厳しかろうが、特殊能力雑魚には滅法強そうだ。水溜まりに見えてもくらげの死骸らしく、毒が残っていると言われて苦労人は硬化を解けずに苦労していた。


「エル、おみずだせる?」

「ん」


 血抜きと内臓取りはしているが、本来解体には水が必須となる。熱を持つ。余裕がある時は鱗取りなどもしているようで、水は幾らあっても足りないだろう。

 水分操作を使った空中分解に、海水から取り出した水圧洗浄を加えても良かったのだが、私が面倒なので、水だけ抽出して、物質創造でタルを組んで猫どもに任せた。後は上手いことやるだろう。

 海水から水を用立てる時に、純水になっても面倒だし、味がなければつまらないので、不純物以外はある程度は残す。私は硬水が好きなので、カルシウムやマグネシウムは多めで。マグネシウムは水と反応して水素を生むので、硬水は水素水と言えるのではなかろうか。でも、和食の出汁文化だと軟水の方が好まれる。用途によって水は変えよう。

 取り除いた余分から塩分を抽出して塩も作ろうかと思ったが、美味しいところは全部水に持って行かれたので破棄する。どうせ海はたっぷりあるのだから、塩は塩で別に作ればいい。そういえば、岩塩とやらは元は海が凝って出来たという。岩塩は不純物が濾過された塩分の塊なので、このまま作ったら岩塩っぽい味の海水塩になりそうだ。わけわからん。


 余談ではあるが、私は水分操作で魔物の処理解体を行っているので、傍目にはいつもより眠そうな顔でぼーっと日光浴をしているように見える。実際のところ陽に焼かれるのは全くリラックス出来ないのだが、水分操作で水の膜でも作れないかとしたら虫眼鏡のようになって断念した。反射角の計算とか今はしたくない。とっとと終らせて船室に戻って寝直したいがーーあ、パラソルがあった。やはり頭が働いていないようだ。日陰があるだけで随分とマシになる。

 プラスチックにビニールなど便利なものはないし、作るつもりもあんまりないので、木材だけで傘を作って私を覆う。そもそも、軽くて持ち運びが容易いのが利点であるので、私のように動かすつもりがなければ幾ら重くても構わない。潮風に揺れない分だけ優秀であるな。もうこれパラソルじゃなくて屋根じゃないか、というのは考えなかったことにする。

 そうこうしている間にwaveも収まったのか、動く敵影は全てなくなった。少年らもお坊っちゃんパーティも、息を吐いて小休止をしている。


「船が止まってるな」

「船首の方が手間取っているのか?」

「行くか?」

「応援要請が無い以上、持ち場を離れるわけにはいかん。俺たちは雇われだからな」


 少年の血気をおっさんが嗜める。少年も不満はないようで、「そっか」と軽く納得して剣の手入れを済ませ、栄養食を齧る。この栄養食は保存が効き、すぐに吸収されてエネルギーになるという、軍人のみならず冒険者も垂涎の品だ。その分お高いので、少年らのようなそこそこの冒険者でないと手が出ない。なお、味については言及されたことない。現地人が製作したものか、或いは庶民でも手に入る粗悪品なのだろう。同郷のものが製作に乗り出した場合、真っ先に拘りを見せるのが味への言及である。彼奴らは高級志向なので、現地人からすると天災レベルの存在からしか採れない品物を惜し気もなく使用するのが異世界ものの常だ。量産は出来まい。

 しかし、生前の常識で言うと、大きいものは大味だったりアンモニア臭かったりするものだが、ファンタジー世界では大きいものは味も良いんだよな。不思議な進化である。やはり魔法なのか。大きいことに比例して強くなる魔法が滋味の秘訣なのか。まあ、人間は大きいおっぱいが好きだし、身長も高い方が好まれる。大きいものに対する動物的な憧れがあるのだろう。小さい私にはとんとわからん話だが、私とて宇宙規模の話ともなれば好きだ。やはり大きいは正義なのだろう。


 こちらが小休止をしている間にも、船員は慌ただしく動いている。幸い浸水しただの舵が利かないだのは聞かないが、血気盛んな荒くれどもが銛やら網やらを持って右往左往、その多くは監視と連絡要員の筈だが、そのうちの一人、人語を解す見た目動物こと、獣型のアシカ獣人がえっちらおっちら駆けて来た。人選ミスじゃないのか。


「加速で振り切りやす! 船首前方の敵の数を減らしてえんで、何人か回してくだせえ!」


 おっさんと少年はやる気だ。ちらりとこちらを見て、パラソルの下から動く気配が無いのを見て、船尾の防衛を私に任せて行くことにしたらしい。猫どももほくほく顔で、食欲が満たされた? ら、次は少年に追従するようだ。本能に忠実な猫どもである。

 少女の姿が見えないが、船室で怪我人の治療に当たっているそうだ。数が多く、船員が何人か負傷しているらしい。怪我をしたら一度船室に戻って、交代するローテが出来上がっている。

 私は疑問に思っていたことを船員アシカに聞いてみる。


「この手の行事はよくあることなのか?」

「い、いえ。この航路は滅多に襲われることはありませんし、あっても散発なものですよ。こんな数、はじめてでさぁ」


 護衛は本来、海賊の備えとしてが強いっス、とアシカ獣人は教えてくれる。山賊は兎も角、この世界でも海賊は絶好調らしい。国を蝕む害虫である盗賊と違い、海賊は国から認可された私掠目的のもの存在するが所以であろうか。そんなところも、現代の人気職業の一つである理由かな。


「船底の魔物避けも、小粒の魔物より、大型の魔物に対する効果の方が強いとはいえ、こんな明確な襲撃なんてーー」


 これもフラグだろうか。アシカ獣人が口に出したのを契機、船が強く揺れる。アシカ獣人は甲板にぴったり腹這いになって衝撃に耐え、少年らも身を低くして手近なものに掴まり、振り落とされないよう波飛沫を(こら)えた。私は直立不動で微動だにしなかった。

 そんな中、いつの間にか持ち直していたお坊っちゃんが船から投げ出され、悲鳴と共に一際大きな水飛沫が上がる。振り落とされる方も方だが、取り巻きはそれで大丈夫なのか? 連中は必死にお坊っちゃんを呼び、私へのオーダーは無かったが、さっきの詫びとして、水分操作と血液操作で人体を海から引っ張り上げる。先程十分に経験を積んだので、その操作性も格段に繊細になっている。鎧が食い込むのは仕方ないが、内臓や骨に負荷はかかっていないだろう。


「船こわい。ょうじょこゎぃ……」


 ヒューマンフライトはお気に召さなかったらしく、すっかりトラウマになってしまったようだ。海面に浮かび、どうやら人心地着かせる暇は無いらしいと、お坊っちゃんを強引な空の旅にご案内する。


「ぎィィィヤああああああああああああああああーーっ!?」


 空を飛んだ恐怖か、お坊っちゃんを追うように海面から突き出された巨大な柱を目にしてか、さっきまでゲボ吐いてお坊っちゃんの喉は絶好調だ。胃酸にやられてないか少しばかり心配である。

 揺れに乗じて海に落ちた筈のエサを捕らえられなかった哀しみか、柱はゆらりと揺れてから、お坊っちゃんをすっぱりと諦めて船尾甲板に乗せられる。次々船体に絡み付き、吸盤に張り付かせるその触手は、色こそ謎のスカイブルーだが正しくーーいや、二択なので、そんなに自信はないが、恐らくタコ足。

 私の予想は当たったようで、スペクタクルフライトを終えて、丁重に甲板に降ろされたお坊っちゃんを追い掛けるように船体後方に盛り上がった姿は、巨大なタコの頭。お腹である丸い膨らみ一杯に目玉を貼り付けたファンタジー生物は、巨大なタコ魔物である。巨大な目玉も、牙のような突起が生えた吸盤も、私が入れそうなくらいに大きい。



「でかいな」

「……ああ」

「この海では、ああいうのはよく見かけるのか?」

「深海に棲んでるらしく、魔物避けが発達する昨今、とんと見かけることはないっスね」

「そうか」


 落ち着いた様子を見せるアシカ獣人に、これも動物枠なんだろうかと少し考える。そんな静まり返った船尾甲板に、船室の扉を蹴破る勢いで開けたシロクマ船長が声を荒げた。


「馬鹿ヤロウ! 今すぐ加速して逃げんぞ! そいつの足をなんとかしてひっぺかせ!」


 アシカ獣人、ここでようやく悲鳴である。

 慌てて船尾甲板から逃げ出したアシカ獣人に代わり、斧を持ったシロクマ船長に、船首の方は足りているのかと訊ねると、多少船がへこんでも、沈められるよりはマシとのこと。依然として船首にも敵部隊が飽和しているらしい。

 この船の取って置きは、強い水流の噴射で加速力を得るらしく、ある程度拘束が弛めば強引に押し出す腹積もりだ。急加速は持続時間に優れず、すぐに魔力が尽きてしまう。高速船は大量の魔法使いを置き、魔力を補いながら突き進むので、べらぼうに高価になるのだとか。


 タコ魔物はテイオウダコ。意訳である。なんかダイオウイカちっくの意味だったので。

 甲板に乗った足に、少年や猫ども、メイドにシロクマが切りかかる。おっさんと執事は、無駄に沢山ある剥き出しの弱点を狙うも、目蓋? を閉じるだけで容易く皮膚に弾かれ有効打は与えられない。反応速度は悪くない。幾つか瞑っても、幾つもの目玉が健在なので、絨毯爆撃でなければ牽制にもならないだろう。

 よって、おっさんと執事は攻め方を変える。甲板に貼り付かず、遊撃のように立つ触手の、取り分け一番攻撃の通用しそうな吸盤の真ん中を狙ったスナイプだ。それを嫌がったのか、射たれた触手はゲームのように海面の下に引っ込んでしまう。

 近接組も順調だ。甲板に吸盤を貼り付かせた触手を滅多打ちにし、迎撃しようと離せばこちらのもの。元より拘束を弱めるのが目的だ。

 船長に続けと船員も集まり、触手に攻撃を加えて行く。伝令として中距離に控えているのもいるので、ベストなタイミングを見計らって加速を行うのであろう。しかし、こうなって来ると厄介なのは船底や側面に貼っ付いた吸盤だ。


「ちっ、魔物の避けがあるっつーのによく粘る!」


 話によると、船の魔物避けは街道のものと違い、魔物が嫌がるどころか、ダメージを与える代物らしい。本能的に嫌がるばかりか、触れてる間中ずっと損耗を与えるとあって、高価な船の安全はかなりのものだ。

 逆に言えば、このタコは相応の理由を以てここに居り、人間を襲っているということ。或いは、魔物避けというものを正しく理解しており、大したことはないと学習したのか。タコは賢い動物である。相手の危険性を理解して、船長の顔にも焦りが見え、見え……シロクマの顔色は判別が付かないが、見えなくもない。

 その焦りを突かれたのだろう。賢いタコの触手の動きに意表を突かれた。


 私が。


「んお?」


 背後から忍び寄っていた触手に気付かず、ぐるりと囲まれて私の身体は締め上げられる。流石にその状態では踏ん張りが効かず、容易く宙に浮いてそのまま海中に引きずり込まれた。

 どうやら狙いは私だったらしい。よもや、一連の行動が全て私の不意を突く為の陽動とも思えないが、船体に貼り付いていた触手は嘘のように離れ、何の未練もなくタコの身体は海底に潜って行く。

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