三人でお買い物
日曜日。
日本有数の楽器店が立ち並ぶ街、御茶ノ水。駅前の広場は、ギターケースを背負ったバンドマンや学生たちでごった返していた。
「結城センパ〜イ! お待たせしましたっ!」
人混みの中から、パタパタと手を振って駆け寄ってくる日野さん。
オフショルダーのトップスにふんわりとしたスカートという、気合の入った「デート服」だ。彼女は合流するなり、挨拶代わりとばかりに僕の右腕にギュッと抱きついてきた。
「ちょっ、日野さん、歩きにくいってば……」
「え〜? 迷子になっちゃうからダメです! あっ、外人さん……じゃなかった、アレクサンドラ先輩も、おはようございます!」
日野さんが無邪気に声をかけた先には、少し離れた場所で腕を組んで立つアレクサンドラの姿があった。
彼女の私服は、上質な素材のブラウスにタイトなロングスカートという、気品あふれる洗練されたスタイルだ。ただ立っているだけで雑誌の表紙から抜け出してきたような美しさに、周囲の通行人が思わず振り返っている。
しかし、そのサファイア色の瞳は、僕の腕に絡みつく日野さんを絶対に許さないとばかりに、ギリギリと睨みつけていた。
「……おはよう。あくまで今日は、日本の庶民の休日の過ごし方を視察する『公務』よ。勘違いしないでちょうだい」
冷たく言い放つアレクサンドラ。だが、僕の耳には彼女の小さな『ラテン語』がしっかりと届いていた。
「|Cur illa puella bracchium eius tenet... Invidiosa sum!《どうしてあの子が結城の腕を……! キィィ、腹立たしいわ!》」
(王女様、めっちゃハンカチ噛みちぎりそうな顔してる……!)
僕は内心で冷や汗を流しながら、日野さんをなんとか引き剥がし、「それじゃあ、行こうか」と楽器店街へと歩き出した。




