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ギターを弾き続けたら東欧の王女様にラテン語で求愛されました。『言葉が通じないと思っている彼女が可愛すぎるので、もう少しだけ秘密にしておきます』  作者: 虹の箸
恋のライバル出現

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10/16

楽しいお買い物

御茶ノ水の大通りは、休日ということもありなかなかの人出だった。

日野さんは「わあ、ギターいっぱい!」とはしゃぎながらスイスイと前を歩いていくが、問題はアレクサンドラだった。

日本の雑踏に慣れていない彼女は、行き交う人々に何度も肩をぶつけられそうになり、その度に身を固くして立ち止まってしまう。王女としての気丈なオーラで誤魔化してはいるが、明らかに不安げな様子だった。

(……このままだと、迷子になるな)


僕はさりげなく歩くペースを落とし、アレクサンドラの斜め前にスッと入り込んだ。そして、向かってくる人波の動線を先読みしながら、彼女の盾になるようにする。

「……結城?」

「こっち、車道側は危ないから内側を歩いて。人混み、慣れてないだろ?」

僕が振り返ってそう声をかけると、アレクサンドラは驚いたように目を瞬かせた。

僕は彼女の腕を引くような無粋な真似はせず、あくまで彼女の歩幅に合わせ、一定の距離を保ちながら「安全な空間」だけを確保し続けた。

「……っ。別に、これくらい一人で歩けるわよ。余計なお世話ね」

プイッと顔を背けるアレクサンドラ。

だが、その直後。僕の背中を見つめる彼女の口元から、蕩けるような『ラテン語』がこぼれ落ちた。

「Dorsum eius tam latum est... Me solam tuetur.《……なんて広くて、安心する背中。あの子じゃなくて、私だけを守ってくれている》」

「Tamen, ego sum specialis.《……ふふっ。やっぱり、私の方が特別なのね》」

(王女様の機嫌が直った! しかもめっちゃ優越感に浸ってる!)

嫉妬モードから一転、僕のエスコートによって完全にドヤ顔を取り戻したアレクサンドラ。そのチョロ……いや、素直すぎる反応が可愛すぎて、僕は危うく吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

     *

その後、僕たちは無事に目的の巨大な楽器店に到着した。

壁一面に飾られたアコースティックギターの数々に、日野さんは目を輝かせている。

「センパイ! どれがいいか全然わかんないです! 選んでください!」

「そうだね。日野さんは手が小さいから、ネックが細めで、ボディが小ぶりなモデルがいい。これなんか、弦高も低く調整されてて弾きやすいはずだよ」

ギターのこととなると、僕はどうしても熱が入ってしまう。

木材の材質から音の響きの違い、初心者が挫折しないための選び方まで、真剣に日野さんにレクチャーした。

「わぁ……センパイ、ギターのこと話してる時、すっごく真剣でかっこいい……!」

「えっ、そ、そう?」

日野さんが頬を赤らめて僕を見つめてきた、その時。

「ねえ、センパ……あれ?」

日野さんがふと、僕の後ろで腕を組んで立っているアレクサンドラを見た。

アレクサンドラは、僕が他の女の子に真剣にレクチャーしていることに少し疎外感を感じて寂しそうにしている……かと思いきや。

「Serio vultu eius cor meum pulsat... Ah, vere pulcher est...《真剣な横顔、胸がドキドキするわ……。はぁ、本当に見惚れちゃう……》」

なんと、彼女は彼女で、僕の「プロフェッショナルな横顔」を完全に特等席で堪能し、ラテン語で限界オタクのような推し活(?)を繰り広げていたのだ。

それを見た日野さんは、何かを察したようにピタッと動きを止めた。

そして、僕とアレクサンドラを交互に見た後、ニヤァッとイタズラっぽい笑みを浮かべた。

「……なるほどね〜。センパイ、アレクサンドラ先輩が迷子にならないようにずっとチラチラ気にしてるし。アレクサンドラ先輩は、センパイのこと見つめてデレデレだし」

「え?」

「な、なにを言っているのよ!」

日野さんは「あーあ」とわざとらしく肩をすくめた。

「こりゃ、アタシが入る隙、全然ないやつじゃん! ……でも」

日野さんは自分のアコースティックギターの会計を済ませると、満面の笑みで僕とアレクサンドラに腕を絡めてきた。

「センパイのこと諦める気はないし、何より、このツンデレ王女様をからかうの、ちょー楽しいっすね! これからも同好会、毎日入り浸っちゃおーっと!」

「なっ……!? な、馴れ馴れしく触らないでちょうだい!」

「あはは! 先輩、顔真っ赤!」

「うるさいわね、もう!!」

ギャーギャーと騒ぎながら楽器店を出る二人。

右には、グイグイと僕の腕を引っ張る距離感バグの後輩。

左には、日本語で怒りながら、ラテン語で「結城は私のよ!」と牽制しまくる氷の王女様。

(……僕の静かな放課後は、どうやら永遠に失われてしまったらしい)

そう思いながらも、なぜか僕の口元は緩んでいた。

三人で歩く御茶ノ水の街は、いつもの一人で歩く道よりも、ずっと騒がしくて、ずっと鮮やかに見えたからだ。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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