勉強会
季節は秋を深め、校内にはある種の重苦しい空気が漂っていた。
中間テストの返却日である。
「結城センパ〜イッ!! 助けてくださぁぁい!!」
放課後の旧校舎。静寂を切り裂くような悲鳴と共に、日野莉子が同好会室にスライディング土下座の勢いで飛び込んできた。
彼女の両手には、無惨な赤点が記された数学と英語の答案用紙が握りしめられている。
「このままだと補習地獄で、同好会への出入り禁止になっちゃいます! センパイ、アタシに勉強教えてください!」
「えぇ……」
涙目で縋り付いてくる日野さんに、僕は困惑して頬を掻いた。
すると、定位置のパイプ椅子で優雅に紅茶を飲んでいたアレクサンドラが、呆れたようにため息をつく。
「……嘆かわしいわね。たかが極東の高校のテストごときで赤点なんて。私はもちろん全教科トップクラスよ。王族たるもの、学問において人に教えを乞うなどあり得ないわ」
「うぅっ……アレクサンドラ先輩の頭脳を少しでいいから分けてほしいです……。っていうか、センパイはどうだったんですか?」
日野さんがふと、僕の机の上に裏返しで置かれていた数学の答案用紙をめくった。
「えっ……。きゅ、98点!? 学年順位……3位!?」
日野さんが素頓狂な声を上げる。
それまで「ふんっ」と余裕の態度を見せていたアレクサンドラも、ピクッと肩を震わせて僕の方を振り向いた。
「センパイ、ただのギターが上手い地味キャラかと思ってたら、めちゃくちゃ頭いいじゃないですか!? 超絶秀才!?」
「いや、ただの地味キャラで合ってるよ。……目立つのが面倒だから、先生に目をつけられたり補習に呼ばれたりしないようにしてるだけさ」
僕は苦笑いしながら答案用紙を隠した。
そう、僕は学年で5位以下に落ちたことがない。そもそも、父の遺した難解なラテン語の古文書を独学で読み解くために、幼い頃から論理的思考力と語学力を鍛え上げてきたのだ。高校のテストくらい、パズルを解くようなものだった。
「お願いしますセンパイ! アタシを補習地獄から救ってください!」
「……仕方ないな。じゃあ、まずは英語からやろうか」
僕がそう言うと、アレクサンドラがすかさず立ち上がり、僕と日野さんの間に割り込むように椅子を引いた。
「……私も監視名目で同席させてもらうわ。結城の教え方が間違っていたら、私が正してあげないといけないもの」
(絶対に日野さんと二人きりにしたくないだけだな……)
僕は内心で苦笑しつつ、ノートを広げた。
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