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ギターを弾き続けたら東欧の王女様にラテン語で求愛されました。『言葉が通じないと思っている彼女が可愛すぎるので、もう少しだけ秘密にしておきます』  作者: 虹の箸
恋のライバル出現

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嫉妬する氷の姫

ここから、僕の相手のレベルに合わせたサポートが始まる。

「日野さん、英語の文法を丸暗記しようとしてるから間違えるんだよ。たとえばこの単語、語源の成り立ちを分解して考えるとね――」

ラテン語の知識に裏打ちされた僕の英語の解説は、自分でも言うのもなんだけど、理路整然としているはずだ。

単なる暗記ではなく、「なぜそういう意味になるのか」というルーツから紐解き、日野さんのつまずいているポイントを一つずつ丁寧にほぐしていく。

「ああっ! なるほど! だからここに前置詞が来るんですね! センパイ、教え方うますぎ! 学校の先生より全然わかりやすいです!」

目を輝かせた日野さんが、バシバシと僕の背中を叩く。

「教え方が上手いんじゃなくて、君の理解が早いんだよ。その調子で次の問題も――」

僕が優しくフォローを入れた、その時だった。

横で腕を組んで「監視」していたアレクサンドラの様子がおかしい。

彼女はノートを見つめたまま、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

「……教え方は悪くないようね。まあ、私には及ばないけれど」

日本語では、必死にマウントを取ろうとする強がりの言葉。

しかし、彼女の震える唇からは、限界を迎えた『ラテン語』がダダ漏れになっていた。

「|Ita intelligens et mitis... Mens mea turbatur...《……なんて知的で優しいの。もう、頭がおかしくなりそう……》」

「Volo ut me quoque doceas...《……私にも、あんな風に優しく教えてほしいのに……っ》」

(……っ!)

不意打ちのラテン語デレに、僕の解説する声が一瞬裏返りそうになる。

しかし、アレクサンドラの悲劇(?)はこれだけでは終わらなかった。

「Sed nihil est quod nesciam... Stulta sum!《……でも、私に分からない問題なんてないわ! 教えてもらう理由がないじゃない! 私のバカ!》」

(王女様、頭が良すぎるせいで僕に頼れなくて嫉妬してる……!?)

「自分に隙がないせいで、好きな男に甘える口実が作れない」という、あまりにも高度で不器用なツンデレのジレンマ。

その葛藤をラテン語で一人ブツブツと呟きながら、ハンカチを噛みちぎらんばかりの勢いで悔しがっているアレクサンドラが、もう愛おしくてたまらなかった。

「……あの、センパイ? なんか顔ニヤニヤしてますけど、どうしたんですか?」

「いや、なんでもないよ。それよりこの数式の展開だけど――」

僕は必死に笑いを堪え、顔を引き締め直してシャーペンを握った。

「センパイすごーい! アタシ、センパイがいれば無敵かも! えいっ!」

「わっ、日野さん、くっつかないで! 筆記用具が持てないから!」

日野さんが嬉しさのあまり僕の腕に抱きついてくる。

その瞬間、アレクサンドラのサファイア色の瞳がカッと見開かれた。

「Noli eum tangere, feles latro!《だからくっつくな泥棒猫!!》」

「Me quoque... Me quoque amplectere...《……私だって、本当はくっつきたいのに……!》」

「ぬっ」

「センパイ? 今変な声出ましたよ?」

「いや、ホコリが目に入っただけ……」

右腕には、無邪気に距離を詰めてくる元気な後輩ギャル。

左側には、完璧すぎる頭脳のせいで甘えることができず、ラテン語で嫉妬と欲望を爆発させている氷の王女様。

秋の夕暮れ、旧校舎の奥の同好会室。

少し前からは考えられないほどさわがしく、時は過ぎて行く。

楽しい時は残酷なほど早く。


お読みいただきありがとうございました。

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