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ギターを弾き続けたら東欧の王女様にラテン語で求愛されました。『言葉が通じないと思っている彼女が可愛すぎるので、もう少しだけ秘密にしておきます』  作者: 虹の箸
恋のライバル出現

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13/16

氷の姫を縛る運命

季節は晩秋から冬へと差し掛かり、冷たい風が校舎の窓を揺らすようになっていた。

日野さんが補習で来られないその日の放課後。同好会室には、僕とアレクサンドラの二人きりの静かな時間が流れていた。

「……やっぱり、日野さんがいないと静かすぎるわね」

温かい紅茶のカップを両手で包み込みながら、アレクサンドラがぽつりとこぼす。

「騒がしいのは嫌いじゃなかったの?」と僕が笑うと、彼女は「ふんっ」と顔を背けた。だが、その直後に『Sed cum te sola esse melius est...《……でも、あなたと二人きりの方が好き》』と甘いラテン語をこぼすのも、すっかり日常の風景になっていた。

だが、その平穏は、唐突に、そして決定的に破壊された。

カツン、カツンと、冷たく重い革靴の足音が廊下に響く。

扉が静かに開かれ、そこに立っていたのは、西園寺の時のような質の低い学生たちではなかった。

仕立ての良いスーツを着た屈強な男たち。そしてその中央に立つ、金髪と透き通るような碧眼を持つ、冷酷な美しさを持った見知らぬ青年だった。

「――迎えに来たよ、僕の愛しいアレクサンドラ」

流暢な日本語。しかし、その声には一切の温度がなかった。

青年の姿を見た瞬間、アレクサンドラの手からティーカップが滑り落ち、ガチャンと甲高い音を立てて砕け散った。

「ユーリ……どうして、あなたが日本に……っ」

彼女の声は、かつてないほど震えていた。

ユーリと呼ばれた青年は、母国ポーンランドの有力貴族であり、国同士の結びつきを強固にするために定められた、彼女の「政略結婚の婚約者」だった。

「君の様子を見るための視察さ。しかし……」

ユーリは軽蔑の目を細め、ホコリっぽい旧校舎の壁や、僕の手元にある傷だらけのヴィンテージギターを舐め回すように見た。

「こんなみすぼらしい小部屋で、極東の平民とままごと遊びとはね。高貴なる王族の血が穢れる。さあ、もう十分遊んだだろう? 来年の本国での式に向けて、帰国の準備を――」

「……ええ」

アレクサンドラが、うつむいたまま短く答えた。

「アレクサンドラ?」

僕が声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。

そこにいたのは、いつも僕にツンツンと悪態をつきながらも、どこか楽しそうにしていた等身大の女の子ではなかった。

全てを諦め、運命という鳥籠に自ら入ることを受け入れた、「氷の王女」の冷たい仮面だった。

「ええ……もう十分、遊んだわ。帰りましょう、ユーリ」

彼女は僕の方を見ようともせず、そのままユーリの元へ歩き出そうとする。

しかし、そのすれ違いざま。彼女の青ざめた唇から、絞り出すような『ラテン語』がこぼれ落ちた。

「Hoc est fatum meum... Vale, mea pax, et meus primus amor.《……これが私の運命。さようなら、私の安らぎ。――そして、私の初恋》」

(……っ!!)

心臓を素手で握り潰されたような衝撃だったと共に、僕の中の何かがプツンとキレた。


お読みいただきありがとうございました。

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