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【Belladonna】


(私が去った後、港の外れにある倉庫には警察が駆けつけ子供達は保護された。)



ーーー近頃、子供達が突然行方不明になる事件が多発しており、警察も対応に追われていた。


しかし、警察は今回の事件を人身売買を目的とした犯罪グループの犯行とは断定できないでいる。


なぜなら証拠とされるものの多くが、倉庫と共に焼失してしまったからだ。


警察による事情聴取は引き続き行われているが、被害者が幼い子供であり、事件のショックによる精神的な負担もあり捜査は難航している。


そんな中、唯一の手掛かりとしてある証言があった。


 「助けてくれたのは、一人の少女だった」


外見は黒いコートを羽織った、銀髪の少女。


残された手がかりはたったそれだけ。


しかし、たった一人の少女が警察ですら見つけ出すことのできなかった武装した犯罪組織を制圧することができるのか。しかもその一切の証拠も残さずに。


果たしてこんな事がたった一人の少女に可能なのか。


現在も警察は、事件の全容解明に注力しているが何も得ることができずにいる。ーーー




時間はアイリス突入30分前。

倉庫の裏手にはすでに誰かの影があった。


[扉の前に見張りが1人います。]


「了解。」


そこには夜の闇に紛れた一人の女の姿があった。

彼女は金色の長い髪を風になびかせ、凛とした立ち振る舞いは目を引く。

本来ならこの場に似つかわしくない派手な見た目をしている彼女だが、なぜかその存在は徐々に認識から消えてしまう。

もしかすると見張りをしている男も油断があったのかもしれない。

しかし次の瞬間、見張りの男はその攻撃を認識する前に意識を失ってしまった。


[外周、問題なし]


報告はその一言だけ。

返ってくる声も淡々としていた。

──だがその直後。


「はぁ……こういうの、毎回思うけど面倒なのよね。何より私の趣味じゃないし。」


少し気だるそうな声が、通信に混じる。

しかしそんなことは彼女にはお構いなしだ。

女は、倒れた見張りには目もくれず、指先で髪を軽く払った。


「はいはい、さっさと次行くわよ」


そう呟くと、再び闇へ紛れた。



実際その頃にはすでに倉庫の外周監視は、まるで機能していなかった。


黒髪をポニーテールにまとめた少女が、コンピューター室で端末の前に座っている。

普通の高校生にしか見えない彼女だが、眼鏡越しに画面を見るその冷静さは、ただの少女ではないと物語っていた。

その指先には迷いはない。

現場にはいないはずなのに、全ての状況を俯瞰で観ていた。


「カメラ、全部落としました。これで中の状況は筒抜けです」


丁寧な敬語だが、その声は軽い。

まるで“親や先生に褒めてもらいたい子ども”のような無邪気さを感じる。


[えへへ……ちゃんとできてますよね?]


いたずらっぽくはにかむような笑顔を見せたかと思ったら、彼女はすぐに表情を戻す。

再び画面に視線を落とし、流れるような動作で次の操作へ移った。


視界は、すでに奪われている。

そして、ある指定が通達される。


[侵入ルート、確保済み]



倉庫の内部情報は、すでに手の中にあった。


倉庫内部には、青い髪の女の姿があった。

腰まで届く艶やかな髪に、透き通るような白い肌、知的だがどこか色気を感じるような妖艶さを漂わせる。


女は自身の端末を操作し組織のデータベースへ侵入させる。表示されたデータを淡々と切り替えていた。

その指先にはただの作業感が漂っている。


「ふふ……この程度なら、最初から特に問題なかったわね」


小さく笑ったその顔は、自信というより、“退屈”を感じさせるものだった。


「内部構造は事前に把握したもので間違いないわ。予定通り逃走経路も三つ確保されてる」


落ち着いた声で通信を告げた。

そこには一切の焦りもない。まるで仕事の進捗報告をする会社員のように自然な様子だった。


「あと、少し面白い情報を見つけたからついでに“いただいておいた”わ。」


さらりと言う。

他者からみれば異様に映るかもしれないが、彼女にとっては特別なことではない。


女は端末を閉じ、軽く髪をかき上げる。


「詐欺師って言われるのはあまり好きじゃないのよね。……効率がいいだけなのに」


そう呟くとわずかに肩をすくめた。

次の瞬間にはもう、別の作業へ移っている。

必要な情報は、すでに彼女の中で整理され終わっていた。

次第に倉庫内部も騒がしくなってきた。

あとは後始末をするだけだと言わんばかりに残りの作業に取り掛かった。


その全てが“こちら側が描いたストーリー”だった。そして、フィナーレへと収束していく。



倉庫の内部。


すでに戦況は掌握されていた。

その中心で、グレーの髪をした女が淡々と指示を出している。


[右ルート、三秒遅い!そこから崩れる。左に回せ!]


口調は荒いがその指示には一切の無駄がない。

戦況そのものを、自身のコントロール下に置いている。


彼女の声は鋭く、迷いがない。

戦場を“管理する側”ではなく、“制圧する側”の人間だった。



さらにその少し奥。


その通路だけが、異様な空気だった。

ピンクの髪の少女が立っている。

一見すれば、ただの静かな少女。

だが、足元には、すでに自身よりも大きな体をした男が数人倒れていた。


「……あは」


不気味さを漂わせる小さな笑い声。


その瞬間、空気が変わる。

彼女は走らない。こちらに真っ直ぐ2歩、3歩と歩いてきた。

ただ、気づいたら視界から消える。

次に少女の姿を見たときには、もう別の位置にいる。


「な、なんだこいつ……!」


男がそう声を発した瞬間。

気づいた時にはもう身体が崩れ地面に伏している。


少女は止まらない。

むしろ──楽しんでいる。


「もっと、あそぼう」


その言葉を聞いた者達は恐怖して動けなくなってしまった。

得体の知れないものは怖い。

ただ、それだけだった。


作戦は静かに収束していく。

カメラは落ち、情報は抜き取られ、組織は殲滅、対象は解放された。


まるで最初からすべてが決まっていたかのようだった。



通信が重なる。


[外周、完了]


[内部制圧、完了]


[情報回収、終了]


[対象、移動可能]


そして最後に。


[……終了]



倉庫の外。


それぞれが自分の“仕事”を終えた後の何とも言えない空気が流れていた。

誰も多くは語らず、ただじっと遠くを見つめていた。その瞳はもう次を見ていた。


その姿を見た者は誰一人としていなかった。


だが名前だけが独り歩きする。



【Belladonna】



――狂気と美と死に染まった、七人の女たち。


この時は、まだ誰も知らない。

彼女たちを中心に、世界が大きく変わっていくことを。





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