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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
六章:船上の遊戯盤
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第五十三話:数える


「エヴァンさん、ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げて、顔を上げた。


「いえいえ。

 こっちこそ面白いもの見せてもらったよ。ありがとねー」


エヴァンさんの膝の上で寝ているフィン。そんなフィンを抱き上げる透真を視界の端に映しながら、エヴァンさんはへらっと口元を緩めた。


(フィンがなにかしたのかな?)


明日聞いてみよう。


透真の肩に頬を乗せ、気持ちよさそうに寝息を立てる姿に、くすりと笑みをひとつこぼした。


『皆様、お待たせいたしました!

 只今賭け金の集計が終わりましたので、これより表彰式を行います』


さっきまでゲームの宝の紹介が流れていた映像に、ぱっと司会者が映し出された。

そして、その横には——


『生き残りを賭けた宝探し。

 最後の一人まで残ったのは、シンイー!』


ゲーム姿のままのシンイーさんが、司会者の横の画面に映し出されていた。


(シンイーさん、おめでとうございます……!)


ぱちぱちと、拍手を贈った。

周りの人たちも、大きな拍手と歓声を上げている。


『そして、彼女の勝利を予見し、彼女が集めた宝を最も多く当てたのは……』


司会者が言い止めた瞬間、

上空から、複数の光が甲板を照らしはじめた。

光は不規則に動き、狙いを定めているようだった。


(照明もないのに……これも魔法?)


ぽかんと、空に浮かぶ光の元を辿った。


『あなたです!』


ババンッ!


そんな音が響いて、甲板を揺らいでいた光たちが、一箇所に集まった。


『宝の当たり個数は四個! おめでとうございます!』


「えっ!? 僕……!?」


中腹のテラス席の近くに座っていた、若い男性が驚きの声を上げた。


『はい、あなたです! 近くに案内係がおりますので、こちらまでお越しください』


男性は拍手喝采に頭をペコペコ下げながら、近くにいた船員さんに連れられて、船内へと消えていった。



「いや〜、惜しかったなぁ」


ベンチに座っているエヴァンさんが足を組んだ。


「三個までは当たったんだけどね〜」


〔オシカッタ!〕


ネロが一生懸命に、両手をぱたぱた上げている。


どうやら、エヴァンさんはシンイーさんに賭けていたらしい。

残念そうに言ってはいるけど、表情はまったく悔しそうには見えない。


「二つ当てるのも難しそうです」


よほど運が良くないと……。

そんな話じゃないかと思って返すと、


「地図と宝の名前で、ある程度は予想できたんだけどね」


「えっ?」


考えるように顔を上げたエヴァンさんに、目を丸くした。


(予想、できるものなの?)


ふっと、エヴァンさんの視線が降りたような気がした。

エヴァンさんは頬杖をついて、


「トーマだって最初地図から宝の場所に当たりつけて移動してたし、結構いけるよ」


小さく笑った。


宝の場所を予想するのと、その宝の種類まで予想するのとでは、少し違うのではないだろうか。


エヴァンさんから視線を外して、透真を見上げた。


「まあ……できないことはない」


透真は少しだけ言いづらそうに答えた。


(できるんだ……)


ふたりは、頭のつくりが違うのだろう。

透真が観客側に残っていたら、エヴァンさんと協力して当てていたかもしれない。


(ババ抜き、勝てない理由が分かったかも)


私には見えていないものがふたりには見えているようだった。


〔くあぁ……〕


ミントがあくびをした。

つまらなさそうに宙をふよふよ飛んでいる。


(そういえば、いつの間に仲直りしたんだろう)


私たちが戻ってきたとき、ミントとネロは大人しく座っていた。

それどころかなにか話をしていたようで、昼間のケンカが嘘のように仲が良さそうだった。


(……まあ、いっか)


仲直りしたなら、それでいい。


「音凪」


ぼーっとしていると、透真が声をかけた。


「そろそろ、戻ろう」


透真はそう言って、フィンを抱え直した。


「そうだね」


振り返って、エヴァンさんへと向く。



「私たち戻ります。ありがとうございました」


「はいよ〜」


ひらひらと手を振るエヴァンさんにもう一度頭を下げた。


〔オヤスミ!〕


「おやすみ。ネロ」


ベンチでぴょんぴょん跳ねるネロに小さく手を振って、展望デッキをあとにした。


階段を下っている途中、


『シンイーさん、ひとことお願いします』


司会者がシンイーさんに振った。

シンイーさんは腰に手を当てて——



『いい気晴らしになりました』



にやりと、勝ち気な笑みを浮かべた。


***



「ぐっすりだね……」


ベッドで眠るフィンを見て呟いた。


フィンは部屋に戻ってくるまでの間、一切起きることはなく、ただただ小さな寝息をこぼしていた。


(花火の音にも、起きなかった)


あまりの眠りの深さに、むしろ心配になる。


「こんなに深く眠るほど、疲れてるのかな?」


思わずぽつり、呟いた。



〔あー〕


ミントはなにかを思い出したようで、視線を上に向けた。


〔あの男が魔法掛けてたからじゃん?〕


「魔法?」


〔遮音の〕


どうやら、エヴァンさんがフィンがよく眠れるようにしてくれたらしい。

だけど、


「……解いてもらわなくて、よかったのかな」


エヴァンさんが解くまで起きない、なんてことはないだろうか。

そんな心配に、ミントは得意げに笑った。


〔フィンに変な魔法掛けようとしてたら、あたしがボコボコにしてるっての〕


シュッシュッ!


ミントは空中でキレのあるパンチを披露した。


「時間で解けるタイプの魔法なんじゃないか?」


静かに聞いていた透真が、付け加えるように言葉を落とした。



「……」



なるほど、と頷く。


「それなら、安心だね」


ベッドに沈むアイボリーの頭を、優しく撫でた。



フィンの側から離れるつもりがないミントを残して、透真とふたり寝室を出た。


コップに水を注いで、ソファに並んで腰をかけた。


ごく、ごくっ


一口のどを通ると、そのまま一気に飲み干してしまった。

三時間以上も水分をとっていなかったから、相当のどが渇いていたようだ。


コト……。


透真も同じで、二つのコップに注いだばかりの水は、瞬く間になくなってしまった。



「……あっという間だったね」


ぽつりと、呟いた。


ゲームのこと、だけではない。


船に乗ってから。

フアナたちと別れてから。

ラウハを発ってから。


——この世界に、飛ばされてきてから。


気づけばもう少しで、二ヶ月が経とうとしている。


「……そうだな」


私がそんなことを考えているなんて、透真は知らないはず。

それなのに、遠くを見つめる瞳に、同じことを考えているのではないかと錯覚する。



「……ねえ、透真」


なにもない、アイボリーの壁を見つめた。




「透真がこの世界に来たのは——いつ?」




空気を撫でるように、振り向いた。



「っ!?」


透真は息を飲んで、目を見開いた。



私と再会するまでの一週間、森の中で生き延びれたことも、

元の世界にないものに対しての見解も……。


ずっと、透真の頭がいいからだと、気づけなかった。


(でも……いくらなんでも、パッと思いつくのかな……?)



『時間で解けるタイプの魔法なんじゃないか?』


知らなければ、そう簡単に導き出すことは、できないのではないだろうか。


私の勘違い。

それもないとは言い切れない。だけど、


「……」


今にも泣き出しそうな透真の表情に、

間違っていないと、確信してしまった。



「……ごめんね」


指先を、透真の頬に伸ばした。


こんな顔をさせたかったわけではない。


「っ……いや……音凪が謝ることじゃない。俺が……っ」


透真は震える声を抑えるように、俯いた。


(私より少し早くこの世界に来た……それだけじゃないの……?)


透真の様子はとてもそれだけには思えない。

何か、他にも重大な物を抱えている。

そんな気がした。


「……っ」


何度も息をこぼしては、飲み込む透真。


「……」


その小さな姿に、そっと顔を寄せた。


「言いたくなかったら……いいよ」


「っ……ごめん……! ごめん、音凪……っ」


「でもね」


透真が顔を上げて、

潤んだ瞳が、大きく揺れた。


額から伝わる熱が、じわりと広がっていく。


「『なにがあっても、透真のことを嫌いになることはない』

 鑑定を受けた、あの日の言葉は変わらない。

 ——変わらないの」


ぎゅっと、透真の体を包み込んだ。



「それだけは……忘れないで」



欠けた月から、光が降り注ぐ。


肩にかかる息が、不規則に揺らめいた。



第五十三話

船上の遊戯盤-数える- 完

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