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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
六章:船上の遊戯盤
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第五十一話:女王の微笑み


《???視点》



ドサッ!



地面に伏している狩人たちの上に、最後の狩人が放り投げられた。



「ふん」



開けた場所に一人立つ者。

積み重なった狩人たちを一瞥して、森の中へと姿を消した。



《???視点》 end.


***



「透真、見て」



しゃがみ込んで、地面に生えたそれを指差した。



「お花柄のきのこが生えてるよ」


紫色に黄色の小花の模様が入ったきのこ。

珍しさに、思わずじっと見つめた。


「音凪、さすがに顔を近づけるのは危ない」


「あっ、そうだね」


透真の言葉に、すくっと立ち上がった。



最初は山の方に向かっていた私たち。

だけど、


"狩人に見つかるまではゲーム内を見て回ろう"


そう決めて、行き先を変更した。



「闘技場、あとちょっとだね」


「このペースなら、十分くらい歩けば着きそうだな」


自然の景色はこれまでの旅で見てきた。

だから大きい建造物を見ようと、闘技場へ向かっていた。


「音凪、足元気をつけて」


透真に言われて、足元を見る。


(……ツル)


地面には、所々からツルが延びていた。


たくさんあるわけではないけれど、よそ見をしていたら足を引っ掛けてしまうかもしれない。


「ありがとう、透真」


透真にお礼を言って、慎重に進んだ。


ふと、


「そういえば、透真はお宝いくつ集めたの?」


私の話ばかりで、透真の話を聞いていないことに気がついた。


透真は数えているのか、しばらく黙って、


「六個」


なんてことない声色で答えた。


「……そんなに?」


"取りすぎじゃないかな?"

そう言おうとして、ぴたっと。


(人が減ったから、いいのか……)


ルゥちゃんと歩いているとき、人が減った瞬間に残りの宝の数は増えていた。


今の時点で残っている人数は分からないけど、時間が経つにつれて一人当たりの宝の数が変わることを考えたら、そんなに気にしなくてよかったのかもしれない。


「たまたま、初期地点が怪しい場所の近くだったから。

 その流れが運良く続いたんだろうな」


「怪しい場所?」


「宝が隠されていそうな場所のこと」


「透真、そんなこと分かるの?」


透真の頭がいいことは分かっているけど、驚かずにはいられなかった。


「藤咲が、RPGにハマってた時期があっただろ?」


「あーるぴーじー?」


「今回のゲームみたいな、俺たちプレイヤーが主人公で……その主人公を操作して、敵を倒したり探索したりしてレベルアップさせていくやつ。

 『中ボスが倒せない』とか、『伝説級のアイテムが見つからない』とか言ってたんだよ」


「……そうだっけ?」


透真が丁寧に説明してくれるけど、全然思い当たる節がない。

透真は小さく笑って、続けた。


「音凪は藤咲の家の猫たちに夢中だったからな」


「! ふふっ。かわいかったよね、さびまるとみけじろう」


藤咲くんのお家の二匹の猫ちゃん。


サビ猫のさびまるは男の子で、三毛猫のみけじろうは女の子。

みけじろうは初め男の子だと思ってたけど、透真に「メスだと思う」と言われて目を丸くしたのは記憶に新しい。


(高校卒業するまで、ずっと男の子だと思ってた)


"三毛猫はほとんど女の子"

ということも、そのとき透真に教えてもらって初めて知った。



「そうだな。

 ……音凪は将来、猫と暮らしたい?」


「えっ?」


思ってもみなかった質問に、気の抜けた声が漏れた。


(……猫ちゃんは、かわいい)


だけど、



「お金とか、生活に余裕があれば……」


無責任なことはできない。

何かあったとき、何もしてあげられないのは、かわいそうだから。



「……そうだよな」


透真は小さな声で呟いた。


「病気とか、そうでなくても医療費がかかるし……。

 一人暮らしだと、在宅勤務じゃない限り何かあった時の対応が難しい。

 それに、猫は一匹より多頭飼いの方がいいとも言うし、ますます金銭的余裕は必要か」


静かに語る透真に、首を傾げた。


「……透真、猫ちゃんと暮らしたいの?」


透真があまりにも詳しいから、いつか一緒に住むために調べたのではないかと、気になって尋ねた。


「……」


透真は黙って前を見つめて、



「どうだろうな」



かすかに、笑みを浮かべた。


(……なんだろう)


ゲームの中だから?

フードで顔が見えにくいから?

どうしてこんなに——



「……透真」


呼びかけに、透真がそっと振り向いた。

私は、両手を伸ばして、


すっ


「?!」


透真の頬を、手のひらで包んだ。



「なにか……あった?」


——どうしてこんなに、悲しそうなのだろう。


「……何かって?」


透真は最初こそ驚いた顔をしていた。

けれど、私が尋ねるとすぐに表情を落ち着かせた。


「……」


誤魔化す透真に、口元をきゅっと結んだ。


(……聞くべき……?)


ずっと、透真が言うのを待っていた。

聞いてなにかが変わってしまうのが、怖かった。だけど、


(これ以上……そのままにしたら、いけない気がする)



「透真。私……ずっと……」



ごくっと喉が鳴った。

どちらの音かは分からない。


勇気を出して、透真に聞こうとした。

そのとき——



ぐいんっ!



「きゃっ」


突然なにかに足を掴まれて、瞬く間に宙吊りになった体。



「音凪!!」


ボワッ!


すかさず透真が火の魔法を放ち、プツンと体は地面に放り出された。


体を無理やり丸めて半回転。

なんとか頭からの落下を防いで、ほっと息をついた。


「音凪! 蔓だ!」


透真が火の魔法を放ちながら叫ぶ。

私は即座に剣を抜いて、周りを見回した。


(!! ツルが、動いてる……)


地面や木を這っていたツルがまるで波打つように動いていた。

その光景を見てようやく、自分が何に足を掴まれていたのか気づいた。


シュルルッ!


「!」


四方からツルが襲いかかる。


——シュッ!!


透真に剣先が当たらないよう、距離を取りながらツルを斬る。


(どうして、急に……?!)


なぜ襲われているのか分からないまま、ただひたすらにツルを斬り続けた。


「音凪!」


透真がもう一度私を呼んだ。


「俺の背中に回れ!」


その言葉に咄嗟に駆け寄った。


ザッ!!


透真に背を向けて前を見据えた。


シュルルッ!


——ザクッ!!


目の前まで迫っていたツルを斬った。その瞬間、



「しゃがめ!」


サッ!


しゃがみ込んだ刹那——



ボォオオオオ!!


轟音と共に、熱気が広がった。


(火の……魔法?)


反射的に瞑った目をわずかに開く。


辺りは真っ赤に燃え盛る炎に包まれていて、襲いかかろうとしていたツルたちは一切見えない。


(これ……大火事になっちゃうんじゃ……)


サーッと血の気が引いていった。

近くに他のプレイヤーがいたら大変だ。


「と、透真……」


透真を止めようと声をかけて、ふと。


(あ……れ?)


炎の勢いが弱くなった。

そしてそのまま、火は徐々に小さくなって——


フッ。


わずかな火の粉を落として、空中に消えていった。


(魔法、だから?)


さすがに、私も慣れてきた。

この不自然な消え方もすんなりと受け入れて、辺りをぐるっと見回した。


木々で生い茂っていたはずの森は私たちを中心に、数十メートル先まで黒い大地へと変貌していた。


黒焦げたツルや木々が炭になって、ぱらぱらと宙を舞っている。


時折光を弾いて、ちかちかと輝いた。



「音凪、大丈夫か?」


透真が手を差し出した。

こくりと頷いて、その手を取る。


「透真、ありがとう」


透真の手を掴みながら立ち上がった。


(……それにしても、どうして……)


戸惑いながら、焼け焦げた森を見回した。

透真も森の先をじっと見つめている。


(……?)


一点を見つめる透真に、首を傾げた。

すぐに透真の視線を追って、森の先を見つめた。そのとき、



ザッ



遠くから、足音が聞こえた。

音が鳴ったのは——前方。


ザッ、ザッ


足音は鳴るたび大きくなって、

目の前から来る誰かの存在に緊張が走った。


ザッ、ザッ、ザッ


炎の範囲から外れた木々の隙間から、その人物は姿を現した。


「!!」


目に映った人物に、目を大きく見開いた。



ザッ。



「随分と派手にやりましたね」



冷めた目を向けるシンイーさんが、私たちに声をかけた。


(? どういうこと……?)


森の中から現れたシンイーさんの服装。

それは、最初の町で見かけた時と大きく変化していた。


元々は布だけの服だった。

だけど、今は肩や足に鎧のような装備が付いていて、両腕も金属の手袋のようなものに包まれていた。


ぽかん、とシンイーさんの姿をまじまじ眺めていると、シンイーさんは眉をひそめて——片腕を上げた。そして、



ッダン!!



そのまま地面に向かって振り下ろした。


(お、怒らせちゃった……?)


森を焼いてしまったことに怒ったのだろうか。


「透真、怒らせちゃったみたいだよ」


「いや、音凪……」


謝った方がいいかな、と透真の服を掴んでそわそわしていると、シンイーさんは地中から何かを引っ張り上げた。


一瞬見えた、銀色の紐。


——スゥ。



それが何だったのか知る間もなく、銀の紐はシンイーさんの手の中から消えていった。


(今のって、もしかして……)


「お宝……?」


「……気づいてなかったんですか?」


シンイーさんは目を丸めると、小さく頷いた私を見て、すぐに呆れた表情に変えた。


「まあ……私は得したので、どちらでもいいですけど」


シンイーさんはそう言って視線を外した。



「あの……」


背を向けて歩き出そうとしたシンイーさんを呼び止めた。


「何ですか?」


シンイーさんは面倒くさそうな表情をしながらも振り向いてくれた。


少しだけ迷って、そっと口を開いた。



「——さっきは、巻き込んでしまってごめんなさい」



頭を下げて、ひと呼吸。

ゆっくりと体を起こした。


「それと、ありがとうございました」


次に会ったら、伝えようと思っていた。


「狩人を攻撃するなんて、私一人じゃ思い浮かばなかったので……教えてくれて、ありがとうございます」


シンイーさんはきょとんと目を丸くしている。


「教えた……?」


ぼそっと、シンイーさんが呟いた。


「それと……」


もう一つ、これも伝えなければいけないと思っていた。


シンイーさんは訝しげに私を見つめ、

半歩、踵を後ろに滑らせた。


スゥッ。


シンイーさんの目を、まっすぐ見つめた。



「——私、エヴァンさんとはただの知り合いです」


誤解を解くため、はっきりと口にした。


「……は?」


「え?」


シンイーさんと、なぜか透真までも驚いた声を出した。


「えっ?」


思わず透真を振り返った。

フードの奥に見える透真の目は、まるで信じられないものを見ているようだった。


「音凪……今のって、どういう……」


「? 透真、どうしたの?」


「いや……純粋に、どういう意図か気になって……」


透真はまごまごと口ごもりながら視線を逸らした。


「意図って……」


ちらっとシンイーさんを見る。

シンイーさんは呆然と、こちらを見つめていた。


(いくら透真でも、他の人の恋心については話せないよ)



「言った通りの意味しかないヨ」


誤魔化そうと思って、語尾の発音がおかしくなってしまった。

恥ずかしさに、そっと頬を両手で覆った。


「……何でだ……」


透真が落ち込んだような声で呟いた。


そんなに知りたいのだろうか。

その理由が分からず、困惑する。


シンイーさんがはっと、息を吸った。


「あ、あなたに言われなくても、見ていれば分かります」


シンイーさんは頬を染めて、ふいっと顔を逸らした。


(それなら、どうして……?)


未だに、目の敵にされているのだろう。


「……そんなことよりいいんですか?」


シンイーさんがちらりとこちらに視線を向けた。

何のことか分からず、首を傾げる。



「——」


シンイーさんの口元が、にやりと弧を描いた。


「そんなにボーッとしていて」


「え?」


シンイーさんの視線が、私たちの向こうを見た。

透真と同時に、後ろを振り向いた瞬間、



「プレイヤー、ハッケン!」


ぽんっ。


肩への軽い衝撃。



「気を抜きすぎですよ」


かわいらしい、笑い声。



瞬く間に、世界が真っ白に包まれていった——。



第五十一話

船上の遊戯盤-女王の微笑み- 完

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