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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
六章:船上の遊戯盤
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第四十七話:二つの顔②


***



「宝、またひとつへった」


ルゥちゃんが上を見上げて呟いた。


さっきは頭を見られていると思っていた。

だけどどうやら、ルゥちゃんはステータス画面から現状を見ることができるらしい。


「残り十七個だね」


「うん。

 ……あ、プレイヤーつかまった。

 のこりの宝、ひとつふえた」


「十八個に戻ったね」


「でもこれは遠いからいらない」


そう言って前を向いたルゥちゃんを、目を丸くして見つめた。


「ルゥちゃん、能力でお宝の場所も分かるの?」


町で得た情報を持っているのだと思い込んでいたが、そうではないらしい。


「……しつげん」


ルゥちゃんはぼそっと呟き、そろりと私を見上げた。


「ナイショにしてね」


人差し指を口に当てて、「しー」っと付け加えた。


「ふふっ。うん、内緒ね」


笑みを浮かべながら同じ動作を返すと、ルゥちゃんは小さく口元を緩めた。



「……」


ふと、ルゥちゃんの足が止まった。


「ルゥちゃん、どうしたの?」


ルゥちゃんはまた上を見上げて、そっと私に視線を戻した。


「わかれ道。

 こっちとこっち、どっちいく?」


ルゥちゃんは道の先と、茂みの奥を順に指差した。


「どっちにもお宝があるの?」


「うん。きょりはこっちの方が少しちかい」


ルゥちゃんは茂みの方が近いと付け加えたものの、そちらを勧めるわけでもなかった。


「どっちにいく?」


どちらでもいいらしい。



(……)


私は茂みの奥をじっと見つめた。


道から逸れた方が木々の陰に姿が隠れて、狩人に見つかりにくいかもしれない。


それに、道なりに進むより近いなら、多少時間をかけて脱落のリスクを下げる選択も悪くはない。


私、一人であれば。


(……でも、今は一人じゃない)


ルゥちゃんに視線を向けた。

ルゥちゃんは小首を傾げて、私の言葉を待っている。



「このまま進もっか」


そっと、道の先を指差した。



狩人に見つかっても、今度は戦うと決めた。

もし狩人に出会したら私が守ればいい。



(茂みに入って、怪我でもしたら大変)


歩きやすい道を進もう。


ルゥちゃんは私の指先を目で追った。

そして静かに視線を戻し、私を見上げて小さく頷いた。



「ついた」


しばらく歩き続けると、開けた場所に出た。


その空間には木々が一つもなく、

空から降り注ぐ光が、

ぽつんと中心に建つ石像を、優しく照らしていた。


片手を天に向かって伸ばして、

何かを掴もうとしている男性の像。


ふたりで石像に近づいて、じっと見つめた。


(どうしてこんなところに、石像だけが……?)


その理由が分からなくて首を傾げていると、ルゥちゃんが振り向いた。



「お姉ちゃん。

 これは……"戦う"かも」



ルゥちゃんがそう告げた瞬間——


……ぴくっ。


石像の手が動いた。


「え……?」


思わず見上げた先、

——石像の目が赤光に燃え盛った。



『戦いの時——

 我が雷が敵を貫く』



「!!」


——バッ!!


咄嗟にルゥちゃんを抱え、飛び退いた刹那、



バリバリバリッ!!



私たちがいた場所に、雷が落ちた。


地面は焼けて変色し、焦げた匂いが立ちあがった。


「ルゥちゃん、大丈夫?」


「う、うん」


ルゥちゃんは目を丸くして地面を見つめた。

カタカタと、体が震えている。



『貫け』


バリバリバリッ!!



「っ!!」


ルゥちゃんを抱えたまま、もう一度避けた。


「……っ」


腕の中で、ルゥちゃんが小さな声をこぼした。


(ルゥちゃん……)


私は抱きしめる力を強めて、周りを見回した。


空はさっきまで晴れていたのに、いつの間にか雲が現れゴロゴロと音が鳴っている。


そして、石像はさっきまではなかった槍を手に持ち、私たちを見据えていた。


(どうしよう)


この急な天候の変化は、間違いなく目の前の石像が関係している。

石像を何とかしない限り、雷は止まない。


石像が槍を振り下ろす。

すかさず横に体を逸らした。


『貫け』


バリバリッ!

バリバリッ!


(連続……?!)


ダッ!!


間一髪、二発目も避けた。



(なんとかしないと……!)


そう分かっていても、ルゥちゃんを抱えた状態では避けるだけで精一杯だ。それどころか、


「っ」


(今は【身体強化】がない)


人を抱えて動き回り続けるには負担が大きすぎる。

長くは、保たない。


(早く何か策を見つけないと……!)


再び辺りを見回した。そのとき、



——バッ!!



「?!」


ルゥちゃんが私の腕の中から飛び出した。



「ルゥちゃんっ!!」


森の方へ駆けていくルゥちゃんを慌てて追いかけようとした。だけど、



「お姉ちゃん! あの腕きって!!」


ルゥちゃんが叫んだ。

振り向こうとした瞬間。



『貫け』


——バリバリッ!!



雷が落ちた。

ルゥちゃんが、いた場所に。



「ルゥちゃん!!」



眩い閃光の先、

ルゥちゃんの姿が見えた。


安心したのも束の間で、



「お姉ちゃんいま!!」


ルゥちゃんの声に、地面を強く蹴った。

体を捻り、石像に向かって駆けていく。



『貫——』


石像の腕が、再び振り下ろされるその刹那——



「はあっ!!」



——キィンッ!



石像の腕を、断ち切った。



ゴトンッ。



「お姉ちゃん! 槍とって!」


「!!」


ルゥちゃんに言われるがまま、地面に膝をついて槍を手に取った。その瞬間、



——フゥッ。


槍は、姿を消した。



「……え?」



何が起こったのか分からず、慌てて石像を見た。


『……』


石像は腕を失くしたままで、槍の姿もそこにはなかった。



「『戦鬼の雷槍』」


ぽつり。

ルゥちゃんが口にした。


「……あっ」


(そういうことだったんだ……)


ようやく、あの槍が宝だったのだと気づいた。

そして、この石像が宝を守る仕掛けだったのだということも。


ルゥちゃんはゆっくり私に歩み寄って、


「次はルゥのばん」


そう言って、ぎゅっと抱きついた。


ルゥちゃんの表情は相変わらず人形のようだった。

だけど、触れた体は小さく震えている。


(……怖かったよね)


怖くないわけがない。

ゲームと言ったって、こんなに現実みたいな世界で、死にそうになったのだから。



ふわっ。


「ありがとう、ルゥちゃん。

 

 次はルゥちゃんのお宝見つけて、

 ちゃんとふたりで、町に行こうね」


ルゥちゃんを抱きしめ返して、そう約束した。



「……うん」


肩に埋まったルゥちゃんの顔。

そこからじんわりと、優しい熱が広がった気がした。



第四十七話

船上の遊戯盤-二つの顔- 完

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