第四十七話:二つの顔②
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「宝、またひとつへった」
ルゥちゃんが上を見上げて呟いた。
さっきは頭を見られていると思っていた。
だけどどうやら、ルゥちゃんはステータス画面から現状を見ることができるらしい。
「残り十七個だね」
「うん。
……あ、プレイヤーつかまった。
のこりの宝、ひとつふえた」
「十八個に戻ったね」
「でもこれは遠いからいらない」
そう言って前を向いたルゥちゃんを、目を丸くして見つめた。
「ルゥちゃん、能力でお宝の場所も分かるの?」
町で得た情報を持っているのだと思い込んでいたが、そうではないらしい。
「……しつげん」
ルゥちゃんはぼそっと呟き、そろりと私を見上げた。
「ナイショにしてね」
人差し指を口に当てて、「しー」っと付け加えた。
「ふふっ。うん、内緒ね」
笑みを浮かべながら同じ動作を返すと、ルゥちゃんは小さく口元を緩めた。
「……」
ふと、ルゥちゃんの足が止まった。
「ルゥちゃん、どうしたの?」
ルゥちゃんはまた上を見上げて、そっと私に視線を戻した。
「わかれ道。
こっちとこっち、どっちいく?」
ルゥちゃんは道の先と、茂みの奥を順に指差した。
「どっちにもお宝があるの?」
「うん。きょりはこっちの方が少しちかい」
ルゥちゃんは茂みの方が近いと付け加えたものの、そちらを勧めるわけでもなかった。
「どっちにいく?」
どちらでもいいらしい。
(……)
私は茂みの奥をじっと見つめた。
道から逸れた方が木々の陰に姿が隠れて、狩人に見つかりにくいかもしれない。
それに、道なりに進むより近いなら、多少時間をかけて脱落のリスクを下げる選択も悪くはない。
私、一人であれば。
(……でも、今は一人じゃない)
ルゥちゃんに視線を向けた。
ルゥちゃんは小首を傾げて、私の言葉を待っている。
「このまま進もっか」
そっと、道の先を指差した。
狩人に見つかっても、今度は戦うと決めた。
もし狩人に出会したら私が守ればいい。
(茂みに入って、怪我でもしたら大変)
歩きやすい道を進もう。
ルゥちゃんは私の指先を目で追った。
そして静かに視線を戻し、私を見上げて小さく頷いた。
「ついた」
しばらく歩き続けると、開けた場所に出た。
その空間には木々が一つもなく、
空から降り注ぐ光が、
ぽつんと中心に建つ石像を、優しく照らしていた。
片手を天に向かって伸ばして、
何かを掴もうとしている男性の像。
ふたりで石像に近づいて、じっと見つめた。
(どうしてこんなところに、石像だけが……?)
その理由が分からなくて首を傾げていると、ルゥちゃんが振り向いた。
「お姉ちゃん。
これは……"戦う"かも」
ルゥちゃんがそう告げた瞬間——
……ぴくっ。
石像の手が動いた。
「え……?」
思わず見上げた先、
——石像の目が赤光に燃え盛った。
『戦いの時——
我が雷が敵を貫く』
「!!」
——バッ!!
咄嗟にルゥちゃんを抱え、飛び退いた刹那、
バリバリバリッ!!
私たちがいた場所に、雷が落ちた。
地面は焼けて変色し、焦げた匂いが立ちあがった。
「ルゥちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
ルゥちゃんは目を丸くして地面を見つめた。
カタカタと、体が震えている。
『貫け』
バリバリバリッ!!
「っ!!」
ルゥちゃんを抱えたまま、もう一度避けた。
「……っ」
腕の中で、ルゥちゃんが小さな声をこぼした。
(ルゥちゃん……)
私は抱きしめる力を強めて、周りを見回した。
空はさっきまで晴れていたのに、いつの間にか雲が現れゴロゴロと音が鳴っている。
そして、石像はさっきまではなかった槍を手に持ち、私たちを見据えていた。
(どうしよう)
この急な天候の変化は、間違いなく目の前の石像が関係している。
石像を何とかしない限り、雷は止まない。
石像が槍を振り下ろす。
すかさず横に体を逸らした。
『貫け』
バリバリッ!
バリバリッ!
(連続……?!)
ダッ!!
間一髪、二発目も避けた。
(なんとかしないと……!)
そう分かっていても、ルゥちゃんを抱えた状態では避けるだけで精一杯だ。それどころか、
「っ」
(今は【身体強化】がない)
人を抱えて動き回り続けるには負担が大きすぎる。
長くは、保たない。
(早く何か策を見つけないと……!)
再び辺りを見回した。そのとき、
——バッ!!
「?!」
ルゥちゃんが私の腕の中から飛び出した。
「ルゥちゃんっ!!」
森の方へ駆けていくルゥちゃんを慌てて追いかけようとした。だけど、
「お姉ちゃん! あの腕きって!!」
ルゥちゃんが叫んだ。
振り向こうとした瞬間。
『貫け』
——バリバリッ!!
雷が落ちた。
ルゥちゃんが、いた場所に。
「ルゥちゃん!!」
眩い閃光の先、
ルゥちゃんの姿が見えた。
安心したのも束の間で、
「お姉ちゃんいま!!」
ルゥちゃんの声に、地面を強く蹴った。
体を捻り、石像に向かって駆けていく。
『貫——』
石像の腕が、再び振り下ろされるその刹那——
「はあっ!!」
——キィンッ!
石像の腕を、断ち切った。
ゴトンッ。
「お姉ちゃん! 槍とって!」
「!!」
ルゥちゃんに言われるがまま、地面に膝をついて槍を手に取った。その瞬間、
——フゥッ。
槍は、姿を消した。
「……え?」
何が起こったのか分からず、慌てて石像を見た。
『……』
石像は腕を失くしたままで、槍の姿もそこにはなかった。
「『戦鬼の雷槍』」
ぽつり。
ルゥちゃんが口にした。
「……あっ」
(そういうことだったんだ……)
ようやく、あの槍が宝だったのだと気づいた。
そして、この石像が宝を守る仕掛けだったのだということも。
ルゥちゃんはゆっくり私に歩み寄って、
「次はルゥのばん」
そう言って、ぎゅっと抱きついた。
ルゥちゃんの表情は相変わらず人形のようだった。
だけど、触れた体は小さく震えている。
(……怖かったよね)
怖くないわけがない。
ゲームと言ったって、こんなに現実みたいな世界で、死にそうになったのだから。
ふわっ。
「ありがとう、ルゥちゃん。
次はルゥちゃんのお宝見つけて、
ちゃんとふたりで、町に行こうね」
ルゥちゃんを抱きしめ返して、そう約束した。
「……うん」
肩に埋まったルゥちゃんの顔。
そこからじんわりと、優しい熱が広がった気がした。
第四十七話
船上の遊戯盤-二つの顔- 完




