第四十七話:二つの顔①
『お姉ちゃん、ルゥと取引しよ?』
「とり……ひき?」
こくん。
ルゥちゃんは小さく頷いた。
(とりひきって……取引?)
どういうことだろう。
突然のことに、思考が追いつかない。
何も返せないでいると、ルゥちゃんが話を続けた。
「ルゥは商人。マモノと戦えない。
だから情報をタイカに、お姉ちゃんに守ってほしい」
"商人"
その言葉にはっとする。
よく見ると、ルゥちゃんは武器を持っていない。
シンイーさんの服装とも、全然違う。
プレイヤーであれば、何かしらの職業ではあるはず。
(ルゥちゃんは本当に、『商人』なんだ)
疑っていたわけではない。
だけど、幼いこの子が『商人』という職業を選んだ事実に、驚かずにはいられなかった。
「商人は信用だいいち。
取引してもらうための情報をひとつだす」
ルゥちゃんはそう言うと、私の頭の上に視線を移した。
(頭……?)
……そっ。
何か付いているのかと思い、頭に触れた。
だけど、手に触れたのは髪の毛だけで、特に何か付いているわけではなかった。
「のこってるプレイヤー、十二人。
狩人、七人。
のこってる宝、十八個。
——お姉ちゃんがもってる宝、二個」
「!!」
はっきりと言い当てたルゥちゃんに、目を大きく見開いた。
(全部、知ってるの?)
当てずっぽうではない。
ルゥちゃんは一切の迷いなく、私の宝の数を当てた。
「ルゥの能力、信用できた?」
ルゥちゃんはこてんと首を傾げた。
その言葉に、
さっきのは全て『商人』の能力で手に入れた情報なのだと、ようやく気づいた。
私はこくこくと頷いた。
「よかった」
ずっと無表情だったルゥちゃんの表情が、
少しだけ和らいだ。
(緊張……してたのかな?)
これだけの能力だ。最初からあったものではないはず。
そして、その状況で今のように、
初めから他のプレイヤーに取引を持ち掛けるとも思えない。
こんなに小さいのだ。
ようやく会えたプレイヤーに、緊張だってするだろう。
そう思ったら、なんだか胸の中がほわっとした。
(頑張っててすごいなぁ)
私がそんなことを考えているなんてつゆ知らず。
ルゥちゃんはまた表情を引き締めて、続きを話しはじめた。
「取引の内容は、宝を二つ見つけて、いっしょに次の町にいく」
右手で指を二本立てて、左手で森の方向を指差した。
「そのあいだ、狩人はルゥが追い返す。
お姉ちゃんはマモノからルゥを守る。
はじめはお姉ちゃんの分で、次はルゥ。
宝を一つずつ手に入れたら、次の町にいく。
もう一つの宝の場所、ルゥがおしえたら、取引はおわり」
ルゥちゃんは一気にそこまで話すと、ふぅっと一息ついて、視線を落とした。
そして、もう一度私に視線を向けて、小首を傾げた。
「取引、しよ?」
ぽっちりとしたお人形のような瞳が、私をじっと見つめた。
(かわいい……)
『取引しよ?』
その言葉に対する答えは、もう決まっていた。
「うん。次の町まで、よろしくね」
にこっと笑って頷くと、ルゥちゃんはぱあっと目を輝かせた。
「取引せーりつ」
ぎゅっ。
小さな口元をわずかに上げて、私の手を握ったルゥちゃん。
「ふふっ」
自然と緩んだ目元。
手のひらに収まる小さな手を、そっと握り返した。
***
《エヴァン視点》
〔いけいけー!! そのままこの世の全ての宝を根こそぎ掻き集めろ!〕
〔ウウッ……ネナチャ、ガンバレ!〕
映像を観ながら興奮した声を上げる妖精と、その姿に負けじとネナちゃんを応援するネロ。
二人はずっとこの調子で、トーマとネナちゃんの様子に一喜一憂していた。そんな中、
「すぅー……すぅー」
フィンは静かに寝ていた。
ゲーム開始から三十分を過ぎた頃、
うとうとと頭を揺らし始めたことにはすぐ気づいた。
やがて眠気に耐えられなくなり徐に俺の足に頭を乗せたかと思えば、数秒後には寝息を立てていた。
(まあ、ルール分かんないとそうなるよね〜)
時間も時間だしと、
心地良さそうに眠るフィンを見て小さく笑みを浮かべた。
『おやっ? ハルミとルゥは協力か?
二人は仲良く町の外へ歩き始めました!』
その声に顔を上げた。
『思念記録によると、どうやらルゥがハルミに取引を持ち掛け、ハルミが合意をしたようです!』
映像に映る二人は、並んで歩きながらぽつぽつと何かを話していた。
『他のプレイヤーに取引を認めさせたルゥの手腕……。
今後の活躍も、大いに期待できますね!』
進行役の実況に、ルゥへの注目が高まる。
多くの人間は他のプレイヤーに賭けていたのだろう。
観客たちは揃いも揃って、苦虫を潰したような表情を浮かべていた。
(手腕ねぇ……。それもないとは言わないけど)
ネナちゃんのルゥを見つめる顔。
それは、フィンに向けているものと全く一緒と言っても過言ではなかった。
(ネナちゃんの中に、断る選択肢がなかっただけだと思うけど)
にこにこと頬を緩ませてルゥを見つめるネナちゃんの姿に苦笑いをした。
(……さて)
スッと、隣の枠に視線を移した。
ネナちゃんが平和な時間を過ごしている一方、
(また襲われてるねぇ)
トーマは次から次へと襲いかかる魔物達を、ただ黙々と撃ち落としていた。
ネナちゃんが一つ目の宝を手に入れた後、次に宝を見つけたプレイヤーはトーマだった。
だけど、トーマが宝を手に入れた過程は、運良く手に入れたネナちゃんとは違った。
トーマはゲームが始まってすぐに地図を開くと、僅か数秒で最初の目的地を決めて歩き始めた。
そして目的地の『忘れられた墓』に辿り着くと、トーマは一瞬の躊躇いもなく墓を暴き始めた。
土魔法の〈成長〉で蔓を生やし、生えた蔓が土の中から棺を掘り返す。
トーマは掘り返した棺を開け、中を確認しては土の中にまた戻した。
それを数回繰り返して、四つ目の棺を開けた時だった。
トーマは棺の中に手を伸ばし——
『建国王の指輪』を、
遺体の指から抜き取った。
その瞬間、会場はどよめいた。
まるでどこに宝があるのかを知っているかのような行動に、反則行為があるのではないかと。
しかしそれならば、
なぜ、宝を見つけるまでに三つの空の墓を暴いたのか。
反則を隠すための演技なのか。
失格にならないのは、運営側も知っているからなのか。
そもそも、反則行為が存在しないからなのか——
観客たちはトーマの反則の有無に、確信を持つことができなかった。
そして観客たちの疑念が拭えないまま、その後もトーマは二つの宝を手に入れた。
三つの宝を手に入れる過程を注視し続けた観客たち。
結論として、
"このプレイヤーは勘が鋭いのだろう"
観客たちの見解は「本人の実力である」ということで概ね落ち着いた。
トーマは二つ目、三つ目の宝を手に入れる時も、ある程度の探索をしていた。
その上魔物に襲われることが多く、反則行為があるとしたら中途半端だと、大半の者が納得した様子だった。
中には、まだ疑惑を向けている者もいたけど、トーマが四つ目の宝を探し始めた頃には反則を疑う声は殆ど聞こえなくなっていた。
(ま、トーマが一番探してるのは別の宝だろうけど)
最初と比べて、雑になっているトーマの攻撃。
それは一見気付かないほど、ほんの些細な変化だった。
フードで顔を隠していても、少しずつ焦り始めているのを感じる。
ゲームが始まって一時間。
未だに会えずにいるネナちゃんの心配をしているのだろう。
(ほーんと、過保護なんだから)
面倒くさくなったのか、
辺り一帯を焼き尽くしたトーマの姿に、にやりと笑った。
《エヴァン視点》 end.




