表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
六章:船上の遊戯盤
86/89

第四十六話:最年少



道に迷ってからしばらく。

結局地図だけではマイクさんの家に辿り着くことはできず、近くの人に尋ねてようやく見つけることができた。


「町の入り口の辺りに住む老人……?」


事情を説明すると、マイクさんは難しそうな表情で首を捻った。


ジョージさんにはすぐ伝わったから、マイクさんも分かると思ったけれど、


「どちらの方でしょうか……」


マイクさんには思い当たる節がいくつかあるようで、はっきりとは分からないみたいだ。


「あ……ご案内します」


「そうですか。助かります」


マイクさんは静かに微笑んだ。



(……しょうがないよね)


あとは二人に任せて次の宝を探そうと思っていたけど、仕方がない。


私はマイクさんを連れてお爺さんの家を目指した。


特に話すこともなく、お互い無言で歩き続けてしばらく。


(……あれ?)


お爺さんの家が見えてくると、辺りをきょろきょろと見回す大柄な男性が目に入った。


「ジョージさん……?」


その名前を呟いたと同時に、男性の視線がこちらを向いて止まった。

そしてすぐに、満面の笑顔を浮かべて駆け寄って来た。


「おおっ、お嬢さん!」


私に用事があるようだ。


(たぶん、お爺さんの家に行ったあとだよね?)


それからずっと、私が来るのを待っていたのだろうか。


(……あっ、お礼を言った方がいいよね)


にこにこしているジョージさんに、お礼を伝えようと口を開こうとした。そのとき、



「すまん! 来たはいいが、どこの爺さんのことか分からなくてな! 困ってたんだ。はっはっはっ!」


ジョージさんは大きく胸を反らして、豪快に笑った。


「……」


ぽかんと、ジョージさんを見つめた。



——はっ。


思いもよらなかった出来事に、つい呆けてしまった。


「一緒に、行きましょうか……」


「頼む!」


ニカッと、ジョージさんは白い歯を見せた。


(……そういうこともあるよね)


爽やかな笑顔にぎこちない笑みを返し、

そのまま三人でお爺さんの家に向かった。



コン、コン、コン。


お爺さんの家の扉を叩いて、一拍。

少し待ってから、静かに扉を開いた。



「お爺さん、お待たせしました」


そろっと部屋を覗くと、



「おぉ……お嬢さん……」


お爺さんは私が出て行く前と変わらず、ベッドの側で立ち尽くしていた。



「こりゃ大変だ!」


「オリバーさん、今診ますからね」


後ろにいた二人はお爺さんの姿を見るやいなや、お爺さんの元へ駆け寄った。


そしてマイクさんの指示に合わせて、ジョージさんは慎重にお爺さんをベッドの上に寝かせた。



「おお……やっと一息つけそうじゃ。

 お嬢さん、ありがとう」


横向きで寝そべっているお爺さんはうれしそうに目を細めた。


「爆発しなくてよかったです」


「白髪……? わしの髪はすでに真っ白じゃ」


「爆発、ですよ。オリバーさん」


マイクさんがお爺さんの耳元に顔を寄せて、訂正をした。


「ほっほっ、爆発! よかったよかったぁ"っ!」


「オリバーさん、大笑いは危険ですよ」


笑ったことで腰に響いてしまったようだ。


(また何かの拍子に痛くなっちゃったら申し訳ないな……)


時間も随分と掛かってしまった。

そろそろお暇しようと、話の折を見てそっと口を開いた。


「お爺さん。私、行きますね」


ついてきてくれた二人にもお礼を言って、背を向けようとしたとき。



「待ってくれ、お嬢さん」


お爺さんが私を呼び止めた。


私は後ろを向くのを止めて、お爺さんへと向き直した。


(どうしたんだろう?)


お爺さんを見つめながら首を傾げていると、お爺さんは私ではなくジョージさんに話しかけた。


「ジョージ。ベッドの下にある本を取ってくれないか?」


「任せな!」


ジョージさんはキレのある動きで床に伏せ、一瞬でベッドの下から本を取り上げた。


(今……腕立て伏せした……)


独特な拾い方に口を開けて固まっている間に、ジョージさんがお爺さんに本を手渡した。

お爺さんはお礼を告げながら本を受け取って、私へと視線を戻した。


「この本はわしの父から譲り受けた、『滅びの禁書』という本だ」


「滅びの禁書……?」


何だか聞き覚えがある気がする。

どこで聞いたのだろう。


(……それに)


お爺さんは、どうしてそれを私に見せたのだろうか。


お爺さんの手が、ゆっくりと本の表紙を撫でた。


「父は、

 "持ち主以外がこの本を開くと、その家は滅ぶ"

 "貴重な物だから、金に困ったときは売りなさい"

 そう言い残して、この世から去ったのじゃ」


お爺さんはそう語って、もう一度ジョージさんに視線を向けた。


「ジョージ。この本をお嬢さんに渡してくれ。

 そしてお嬢さん。この本はわしからのお礼じゃ。

 売るのも捨てるのも、嫌いな奴に渡すのもお嬢さんの自由だ」


お爺さんは、優しく微笑んだ。



(……うん?)


「よかったな! お嬢さん!」


「……え?」


断る間もなく、

ジョージさんによって、手に本が握らされた。その瞬間——



スゥッ。



「!」


本は、

私の手の中で、姿を消した。



(お宝……だったんだ)


聞き覚えがあったのは、説明のときにケイトさんが見せてくれたリストの中に、その名があったからだろう。



「……ありがとうございます」


「こちらこそじゃよ」


ベッドに横になっているお爺さんは、満足そうに目元の皺を深めた。


その表情に、私の頬も自然と緩んだ。


「……それでは、お大事になさってくださいね」


「大臣になってください?

 ほほっ! お嬢さん、見る目があるのぉ」


「おだいじに、ですよ。オリバーさん」


「! そうかそうか」


「爺さん大臣を目指すのか? まだまだ元気そうだな! はっはっはっ!」



「ふふっ」


そんなやり取りのあと、

三人に別れを告げ、再び町に繰り出した。



(次は……どうしよう)


とりあえず町に出たはいいものの、行き先はまだ決めていない。


元々の目的だった二つ目の宝は、思わぬ形で手に入れることができてしまった。


(……そういえば)


二つ目の宝で解放された能力を、まだ確認していない。


(すてーたす……)


心の中で唱えて、空中に画面を開いた。


ステータスの画面で確認できるのは、自分の姿と名前、職業、手に入れた宝。

そして、現在使用できる能力。


『俊足』の横に書いてある文字を読む。


(……『敏捷』)


素早く動けるということだろうか。


「……」


きょろきょろと、辺りを見回す。


周りに人がいないことを確認して、ゆっくりと剣を抜いた。そして、



ビュンッ! ビュンッ!


横に二度、振り抜いた。



(わぁ……)


確かに、さっきよりも早くなった。


どんどんと、

【身体強化】を持つ、実際の能力に戻っている気がする。


(足は、今の方が速いけど)


いくら【身体強化】でも、あれほど速くは走れない。


そう思ったけれど、


(あれ……? そもそも、試したことないかも)


"今度試してみよう"

そんなことを考えながら、剣を静かに鞘に戻した。

続けて、今度は地図を開く。



(次はどこに行こうかな)


ゲームが始まってから、まだ一時間も経っていない。

三つ目の宝を探しに行こうかと、地図を眺めて、ふと。


(お宝は全部で三十五個。プレイヤーは私含めて十七人……)

(一人当たりは……二個)


もう、集めない方がいい?

取り過ぎは、よくないかもしれない。


だけど、それだと最後の一人になるまで、何もすることがなくなってしまう。



「……」


地図をじっと眺めた。


(こんな機会、そうそうないから)


せっかくなら色んな場所を見て回ろう。

そう決めて、次の行き先を探した。



(……森の神殿)


町から東に抜けた先。

ぽつりと表示されているその場所を、次の目的地にしようかと振り向いて、


「……」



(町の方が、透真に会えるかな……?)



また、その場に留まった。


一人で島を歩くより、透真と一緒に見た方が絶対に楽しい。そう思う一方で、



——透真は、ゲームを楽しみたいかもしれない。



「……」


しばらく考えて、悩んだ末。



(神殿に、行こう)


無理に探しに行くことはやめた。


ゲームが終わった後に、お互いの出来事を話すのもいいかもしれない。


(うん、そうしよう)


いつの間にか下を向いていた視線を、上にあげた。


『俊足』を使う必要はない。

周りの景色を楽しみながら、目的地を目指そう。


空気を胸いっぱいに吸って、ゆっくり吐いた。

そして、神殿の方向に歩きはじめようとした、そのとき——



「お姉ちゃん」


くいっと、服を引っ張られた。


「え……?」


そっと振り向くと、

小さな女の子が、私を見上げていた。


「!」



(この子……)


——プレイヤーだ。



トラブル防止のため、プレイヤー同士は元々顔を知らない相手でも、見た瞬間すぐに分かるとケイトさんは言っていた。


その言葉通り、この子と会ったのは初めてなのに、

頭の中で「この子はプレイヤーだ」と、鳴り響いた。



(こんな小さな子も参加してるんだ……)


見た目は……七歳くらいだろうか。

フィンよりは大きいけれど、それでも十分幼かった。



「……どうしたのかな?」


屈んで、目線を合わせた。

女の子は私をじっと見つめて、小さな口をゆっくりと開いた。



「私はルゥ。


 お姉ちゃん——ルゥと取引しよ?」



人形のような顔に浮かんだ薄茶の瞳が、


まっすぐに私を見据えた——。



第四十六話

船上の遊戯盤-最年少- 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ