表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/69

第三十話:新緑の風②


***



「おなかいっぱーい!」


ご飯を食べ終えたフィンが、満足そうに笑った。

その姿に、自然と頬が緩む。



(こんな豪勢なお料理、滅多に食べられないもんね)


大きなテーブルに並べられた、食べきれないほどの料理たち。

ぼんやり眺めているうちに、数十分前のことを思い出す。



透真の部屋を出たあと、ヤエルさんの案内で私の部屋に寄ってから、食堂へと向かった。


何となく、大学の食堂のような場所だろうと思っていた私は、食堂に着いて目を丸くした。


(大きい……テーブル)


そこはカフェテリアのような賑やかさはなく、しんと静まり返っていた。


お会計をするような場所もなければ、厨房も見えない。


(メニュー……お金……)


どうしたらいいのか分からず、立ちすくんでいた。


エヴァンさんが一番端の席に座る。

その後にフィンが続いた。

フィンはヤエルさんに手伝ってもらって、無事イスに座ることができた。


呆然と見ていると、


『どうぞお座りください』


フィンの隣のイスを、ヤエルさんは引いた。


私はおずおずとイスに近寄って、そろりと腰を下ろした。次の瞬間、


カラカラカラ。


黒と白のワンピースを着た女の人がワゴンを押してやってきた。


(メイド服……?)


テレビで見たメイドさんの服に似ている気がする。

だけど、雰囲気は全く違う。


白の帽子に長いスカート。

まっすぐに伸びた姿勢。

——洗練された、上品さがあった。


カラカラ。カラカラ。


最初にやってきた女の人の後から、続々と同じような人たちがやってきた。


ワゴンに乗っていたのは料理で、それらを次々とテーブルに置いていく。


上に被せられた蓋が外されるたび、ふわっと美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。


「……」


ぽかんと、並べられていく料理たちを眺める。


『わあ! おいしそう! これぜんぶ、たべていいの?』


隣で、フィンが無邪気に目を輝かせている。


(……お金、足りるかな)


ご飯分は足りても、すっからかんになってしまうかもしれない。


そんな心配をしていると、エヴァンさんがフィンに向けて笑った。


『昨日のお礼だって。好きなだけ食べな〜』


『わーい!』


フィンは万歳して、満面の笑みでいただきますをした。


(お礼……)


肩の力が、ドッと抜けた。


「……」


(透真に、少し持っていけないかな)


そんなことを考えながら、しばらく料理を見つめる。


やがて、ゆっくりと手を合わせて、

フォークに手を伸ばした。




「おいしかったね〜」


フィンがにっこりと話しかける。

私は「そうだね」と笑い返した。


最初は、たくさんの料理に戸惑ったけれど、

途中で「残しても大丈夫」と、エヴァンさんとヤエルさんに言われて、気兼ねなく食事ができた。


(それに、透真のご飯も用意してもらえた)


ちらっと、テーブルの端に置かれた籠を見る。


ヤエルさんに透真のご飯はどうするか尋ねられて、用意してもらった軽食。


これなら、部屋で食べられるだろう。



「ネナちゃん」


エヴァンさんの呼びかけに、振り向いた。


「この後はどうするの?」


「……透真にご飯を届けてから、出かけようと思ってます」


「ナーリスを探しに?」


「はい」


頷くと、エヴァンさんはヤエルさんを呼んだ。


「馬車を用意してあげて」


「かしこまりました」


ヤエルさんはお辞儀をすると、静かに部屋を出ていった。


(……えっ?)


馬車って、私が乗る用に……?


「えっ、エヴァンさんっ! 歩いていくので馬車は……」


「ネナちゃん、場所知らないでしょ?」


「ほ、方向だけ教えてもらって……」


「町まで結構歩くよ。時間かかっちゃうけどいいの?」


言葉が詰まる。


時間はかけたくない。

透真に少しでも早く薬草を届けたい。



「さっき言ったでしょ?

 『利用できるものは利用した方がいい』って」



(利用……)


ふっと、まつ毛が下がる。


間にいるフィンが、私たちを交互に見た。



「ぼくも、ネナとおでかけする」


ぎゅっ。


フィンが私の服を掴んだ。

視線を向けると、

きゅるんと期待のこもった瞳で、私を見上げていた。



「馬車、必要になったね」


エヴァンさんがぱっと笑った。


応えるように、小さく頷く。


私はフィンに視線を戻して、頭を撫でた。



「一緒にいこっか」


「! うん!」


フィンは目尻を大きく下げて、うれしそうに笑った。


「それと」


「あれ」

そう言って、エヴァンさんは籠を指をさした。



「俺がトーマに届けてこようか?」



思いがけない提案に、ぱちぱちと瞬きをした。


(あっ、早く行けるように……ってことかな)


すとんと、腑に落ちた。


お願いした方がいいのかもしれない。

だけど、


(透真の様子、見ておきたい)


断ろうと、口を開こうとしたとき。



「出かけるの、トーマに止められそうじゃない? 過保護そうだし」


私が断るよりも先に、エヴァンさんがそう指摘した。

開きかけた口を、きゅっと閉じる。


(……そうかも)


船から降りる前、

部屋での出来事を思い出す。


頑なに、私の手を離そうとしなかった透真。


同じことが起こらないとは、言い切れない。



「……エヴァンさん」


「うん」


「お願い、してもいいですか?」



早く戻ってこよう。


そう決めて、エヴァンさんに任せることにした。



「もちろん」


エヴァンさんは笑って頷くと、

人差し指をくるっと回した。


指先から深い紫の影が現れて、籠へと伸びていく。


「!」


影は籠の持ち手にくるりと巻きついて、

そのまま籠を持ち上げ、エヴァンさんの元へと戻っていった。


(魔法……すごい)


まるで自分の手を動かすように、安定していた。


「……」


今のは闇魔法の一つだろう。

闇の魔力は、透真の体にも流れている。



(透真も、できるようになるのかな)


器用な透真のことだから、

きっとすぐに、上手に扱えるようになるはず。


気づけば、自分の手を見つめていた。



「最後にもう一つ」



ぱちんっ。



はっと顔を上げる。

音の先を見ると、エヴァンさんが指を鳴らしたようだった。



「わあ……!」


フィンが足元を見て、声を上げた。


(なんだろう?)


立ち上がって、覗き込むと——



〔ネロ! ネロ!〕



「?!」


小さな黒い生き物が、

ちょこんと立っていた。


ずんぐりむっくりの体に、

ぴょこんと生えた二つの角。

つぶらな瞳だけが、白く浮いていた。


〔ネロ! ネロ!〕


その生き物は同じ言葉を繰り返しながら、ぴょんぴょん跳ねている。


(かわいい……)


「そいつは『ネロ』。俺の使い魔だよ」


〔ツカイマ! ネロ!〕


ネロはフィンの座っているイスをよじ登り始めた。


「ネロがいれば、離れている場所でも俺と話せるんだよ〜」


透真の〈念話〉みたいなものだろうか。


(でも、どうして?)


ネロを見せてくれた理由が分からず、

思わず、エヴァンさんを見る。


「馬車で行けるのは町の入り口までだからさ。迷子防止にそいつを連れて行ってよ」


なるほど、と腑に落ちた。


視線を戻すと、

ネロはいつの間にか、フィンの膝の上まで登っていた。


「ネロ、もっとうえいくの?」


〔ネロ カタ!〕


どうやら、ネロはフィンの肩まで登りたいらしい。

フィンの服を掴んで、よじよじ登っていく。


「ちなみに、そいつは他人からは見えないし声も聞こえないから安心してね。

 話しかけるときは、周りの視線に気をつけて」


(そうなんだ)


ネロは見えてはいけないみたい。

こんなにかわいいのに。


エヴァンさんの補足に、こくりと頷いた。



「ついた〜!」


〔ネロ、ツイタ!〕


肩まで登ったネロと、それを見守っていたフィンは楽しそうにはしゃいでいる。


その姿に、自然と頬が緩んだ。


そのとき——



——ビュウッ!



ひと吹きの風が、駆け抜けた。


〔!〕


ネロが、ぽろっと肩から落ちた。


(あぶないっ!)


咄嗟に手を伸ばした。



ぽふんっ。



手のひらに伝わる柔らかな感触。


ネロは私の両手の中で、目をぱちくりさせていた。


(よ、よかった……)


ほっと息をついた。



それにしても、どうして風が……。

それに——


(……知ってる香り)



「あっ!」


窓を確認しようとしたとき、フィンが大きな声を上げた。


反射的に、フィンを見る。



(……えっ?)


フィンの肩には、

薄く翠をまとう、小さな影。



〔ここはあたしの場所!〕



——妖精が、そこにいた。



第三十話

鏡の島-新緑の風- 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ