第98話 魔王城
魔族領。
黒い山脈を越えた先。
空気そのものが違った。
重い。
濃い。
まるで。
世界の色が少し暗い。
◇
荒野を進む一行。
先頭には巨人型魔族。
巨大な翼。
六メートル級の巨体。
だが。
態度だけは異様なほど恭しい。
士郎へ向けて。
◇
リゼが小声で言う。
「ねぇ……」
「本当に王扱いされてない?」
グランも苦い顔だった。
「笑えねぇよ……」
普通なら。
人類が魔族領へ入った時点で死ぬ。
なのに。
今は違う。
道中で現れる魔族たちが。
全員。
士郎を見た瞬間に跪いていく。
◇
狼人型。
翼持ち。
巨大鬼。
異形。
種族は違う。
だが。
全員の反応は同じだった。
恐怖。
歓喜。
そして。
服従。
◇
『王だ……』
『魔王様……』
『本当に……』
ざわめき。
熱狂。
リゼが顔を引きつらせる。
「なんか宗教みたいになってきた……」
◇
士郎は気にしていない。
肉を噛んでいた。
「腹減るな」
リゼが即ツッコむ。
「そこ!?」
グランが頭を抱える。
「魔王ムーブしろ少しは!!」
◇
エレノアは黙っていた。
赤い瞳。
士郎を見る。
変わった。
確実に。
黒い靄。
赤黒い瞳。
奈落城以前とは別物。
だが。
士郎自身は変わらない。
そこが逆に怖かった。
◇
セレナは楽しそうに笑っている。
紫の瞳。
歓喜。
「想像以上ね」
「ここまで歓迎されるなんて」
エレノアが冷たく返す。
「あなたの思い通り過ぎて気持ち悪いわ」
セレナは否定しない。
ただ笑った。
◇
やがて。
全員の足が止まる。
静寂。
その先。
巨大な黒城が見えた。
山より大きい。
黒い尖塔。
空へ突き刺さるほど高い城壁。
まるで。
世界そのものを支配するために作られた城。
◇
リゼが固まる。
「……デカすぎない?」
グランも苦笑した。
「王国よりヤバいなコレ」
◇
巨人型魔族が静かに頭を垂れる。
『魔王城です』
『現魔族王統』
『アルシア様がお待ちです』
静寂。
◇
その瞬間。
城門が。
ゆっくり開いた。
轟音。
空気が震える。
そして。
巨大な軍勢が並んでいた。
数万。
黒い鎧。
異形。
魔族軍。
その全てが。
士郎へ視線を向けていた。
◇
次の瞬間。
轟音。
全軍が跪く。
地響き。
空気が揺れる。
そして。
咆哮のような歓声が響いた。
『魔王様ァァァァァ!!!』
◇
リゼが完全停止した。
「……夢?」
グランも顔を引きつらせる。
「いやもう後戻り無理だろコレ……」
◇
士郎は城を見上げる。
黒い瞳。
赤が混ざる。
そして。
獰猛に笑った。
「面白い」
その視線の先。
魔王城最上階。
一人の少女が。
静かにこちらを見下ろしていた。
白銀の髪。
紅い瞳。
小さな角。
魔族姫アルシア。
その唇が。
静かに笑った。
「ようこそ」
「新しい魔王様」




