第99話 気に入った
魔王城。
静寂。
アルシアと士郎。
二人の魔力がぶつかり合った余波が、まだ空間へ残っていた。
軋む床。
震える空気。
そして。
誰も動けない。
◇
魔族兵たちは跪いたまま。
顔を上げない。
いや。
上げられない。
怖いのだ。
目の前にいる二つの怪物が。
◇
リゼが震えながら呟く。
「なんなのこの空気……」
グランも顔をしかめる。
「城ごと壊す気かよ……」
エレノアだけは黙っていた。
赤い瞳。
士郎を見る。
黒い靄。
赤黒い瞳。
奈落城以前とは別物。
なのに。
まだ士郎自身が消えていない。
◇
アルシアが階段を降りる。
白銀の長髪。
漆黒のドレス。
小さな角。
近づくほど分かる。
美しい。
なのに。
危険だった。
本能が警告してくる。
強い。
圧倒的に。
◇
アルシアは士郎の前で止まる。
紅い瞳。
真っ直ぐ見上げる。
そして。
笑った。
獰猛に。
「気に入ったわ」
静寂。
◇
リゼが引きつる。
「いや、軽く言ってるけど今の殺し合い寸前だったよね!?」
グランも乾いた笑いを漏らす。
「魔族の好意こえぇ……」
◇
アルシアは気にしない。
視線は士郎だけ。
「あなた」
「面白い」
「怖がらない」
「媚びない」
「それに」
紅い瞳が細くなる。
歓喜。
「強い」
◇
士郎は少し笑う。
「お前もな」
静寂。
その瞬間。
周囲の魔族たちがざわついた。
『姫様が……』
『認めた……?』
『まさか……』
空気が変わる。
完全に。
◇
セレナが静かに笑う。
「順調ね」
エレノアが睨む。
「あなた、本当に全部計算だったの?」
セレナは肩をすくめた。
「半分くらい」
「ここまで相性良いのは予想外だけど」
リゼが即ツッコむ。
「相性って言い方やめて!?」
◇
その時。
アルシアがくるりと背を向ける。
長い白銀の髪が揺れる。
「来なさい」
「歓迎するわ」
ゆっくり振り返る。
少しだけ笑う。
今度は獰猛ではない。
楽しそうだった。
「士郎」
初めて。
名前を呼んだ。
◇
士郎は笑った。
黒い瞳。
赤が混ざる。
「面白い」
そのまま歩き出す。
魔王城深部。
玉座の間へ。
◇
そして。
誰もまだ知らない。
この出会いが。
世界そのものを壊すほどの怪物同士の関係になることを。




