第96話 継承
奈落城最深部。
巨大な“魔王の心臓”が暴走していた。
黒い光。
轟音。
空間崩壊。
奈落城全体へ亀裂が走る。
ドクン。
ドクン。
鼓動が、どんどん速くなる。
◇
リゼが叫ぶ。
「崩れる!!」
グランも舌打ちした。
「クソが!!」
天井崩落。
神代文字暴走。
魔力嵐。
完全崩壊寸前。
◇
それでも。
士郎だけは静かだった。
黒い靄。
赤黒い瞳。
空間を歪ませながら、“心臓”を見ている。
◇
『選べ』
原初の魔王の声。
『継承するか』
『壊すか』
静寂。
巨大心臓が脈動する。
まるで。
士郎の答えを待つみたいに。
◇
エレノアが叫ぶ。
「壊しなさい!!」
赤い瞳。
真っ直ぐ士郎を見る。
「それを継承したら、もう戻れない!」
その声には、焦りがあった。
本気だった。
◇
セレナは逆に笑っていた。
「継承して」
紫の瞳。
狂気。
「あなたなら、世界を変えられる」
リゼが怒鳴る。
「焚き付けないで!!」
◇
原初の魔王は静かに士郎を見る。
『お前は既に境界を越えている』
『ならば』
『王になれ』
その瞬間。
巨大心臓から黒い管が伸びる。
士郎へ。
まるで。
迎え入れるみたいに。
◇
士郎は黙っていた。
脳裏へ流れ込む記憶。
滅びた文明。
戦争。
虐殺。
退屈そうに笑う黒い王。
そして。
孤独。
誰にも理解されない圧倒的強者の孤独。
◇
士郎の黒い瞳が細くなる。
「……くだらん」
静寂。
原初の魔王の瞳が揺れる。
◇
「王も」
「支配も」
「世界も」
士郎は笑った。
獰猛に。
「興味ない」
黒い靄が膨れ上がる。
奈落城全体が震える。
◇
「だが」
士郎は“心臓”を見る。
赤黒い瞳。
歓喜。
「この力は面白い」
リゼが顔を引きつらせる。
「結局そこ!?」
◇
その時。
士郎が巨大心臓へ手を伸ばす。
エレノアが叫ぶ。
「士郎!!」
それでも。
士郎は止まらない。
そして。
巨大心臓へ触れた。
轟音。
黒い光が爆発する。
◇
士郎の身体へ、膨大な魔力が流れ込む。
黒い靄。
赤黒い瞳。
そして。
背後へ巨大な黒い影が現れる。
王冠。
翼。
赤黒い瞳。
今までで最も巨大。
最も濃い。
◇
リゼが震える。
「……魔王」
誰も否定できなかった。
その姿は。
もはや人間じゃない。
◇
それでも。
次の瞬間。
士郎が笑った。
「鬱陶しいな」
その瞬間。
士郎の黒い靄が、“心臓”へ逆流する。
原初の魔王の表情が初めて変わった。
『……何?』
◇
士郎は“心臓”を掴む。
握り潰すみたいに。
「誰かの後継になる気はない」
轟音。
赤黒い瞳が光る。
「俺を器にできると思ってるのか?」
その瞬間。
黒い靄が暴走した。
◇
巨大心臓へ、亀裂が走る。
ドクン。
ドクン。
鼓動が乱れる。
奈落城全体が悲鳴みたいに軋み始めた。
◇
原初の魔王が士郎を見る。
初めて。
本当に興味深そうに。
『……そうか』
そして。
笑った。
『それでこそだ』
◇
次の瞬間。
巨大心臓が崩壊を始める。
黒い光。
空間崩壊。
奈落城全域が揺れる。
リゼが叫ぶ。
「逃げるよ!!」
グランも怒鳴る。
「今度こそマジで死ぬ!!」
◇
それでも。
士郎は最後まで笑っていた。
黒い靄。
赤黒い瞳。
人間離れした存在感。
それでも。
その笑みだけは。
間違いなく、西園寺士郎のものだった。




