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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第五章『奈落城編』

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第92話 原初の魔王

奈落城最深部。


巨大な“魔王の心臓”の前。


黒い霧の中から現れた男。


黒い甲冑。

長い黒髪。

赤黒い瞳。


そして。


士郎と同じ笑み。



静寂。


リゼは言葉を失っていた。


グランも剣を握ったまま動けない。


本能が理解している。


目の前の存在は危険だ。


今までとは次元が違う。



原初の魔王。


神代文明を滅ぼしかけた災厄。


その本人が。


今。


目の前に立っている。



男は静かに士郎を見る。


赤黒い瞳。


まるで。


自分自身を見るみたいに。


そして。


笑った。


『待っていたぞ』


士郎も笑う。


「そうか」


リゼが頭を抱える。


「なんで普通に会話始まるの!?」



エレノアの赤い瞳が細くなる。


警戒。


今までで最大。


セレナだけは嬉しそうだった。


「ようやく会えたわね」


原初の魔王は視線すら向けない。


興味がない。


見ているのは士郎だけだった。



『よくここまで来た』


低い声。


空間そのものが震える。


それでも。


士郎は平然としていた。


黒い瞳。

赤が濃い。


そして。


黒い靄も以前より明らかに濃密になっている。



原初の魔王が近づく。


一歩。


それだけで空間が軋む。


リゼが息を呑む。


「魔力がおかしい……」


いや。


もう魔力じゃない。


存在そのものが異常だった。



原初の魔王は士郎の前で止まる。


そして。


静かに言った。


『似ている』


士郎は少し笑う。


「何度も言われた」


『当然だ』


赤黒い瞳が細くなる。


『お前は、我に最も近い』


静寂。



エレノアが一歩前へ出る。


「離れなさい、士郎」


その声は珍しく強かった。


それでも。


士郎は動かない。


むしろ。


楽しそうだった。



原初の魔王が笑う。


『よい』


『恐怖を知らぬ』


『死を愉しむ』


『強者だけを求める』


『実に美しい』


その言葉。


まるで。


自分自身を語っているみたいだった。



士郎の黒い瞳が細くなる。


「お前もそうなのか?」


原初の魔王は笑った。


『ああ』


その瞬間。


士郎の脳裏へ、大量の記憶が流れ込む。


戦争。

虐殺。

滅びた文明。


そして。


玉座へ座る黒い王。


世界が壊れていく。


それでも。


王は笑っていた。


退屈そうに。



『世界は脆い』


声。


頭の中へ響く。


『弱者は群れ』


『強者を恐れる』


『故に滅ぶ』


士郎は静かに聞いていた。


否定しない。



エレノアの顔色が変わる。


まずい。


士郎が共鳴している。


思想ごと。



その時。


原初の魔王が士郎へ手を伸ばす。


黒い粒子。

魔力。


いや。


もっと異質な“何か”。


『来い』


『完全になれ』


轟音。


巨大心臓が脈動する。


ドクン。

ドクン。


奈落城全体が揺れ始めた。



リゼが叫ぶ。


「士郎!!」


グランも怒鳴る。


「やめろ!!」


それでも。


士郎は笑っていた。


黒い瞳。


赤が濃くなる。


そして。


ゆっくり。


原初の魔王へ手を伸ばした。



その瞬間。


エレノアが動く。


紅蓮の炎。


爆発。


轟音。


強制的に二人の間へ割り込んだ。


「それ以上はダメよ」


赤い瞳。


今までで一番険しい。



原初の魔王が初めてエレノアを見る。


『灰の魔女か』


エレノアは士郎を庇うように立つ。


「士郎は、あなたにはならない」


静寂。


原初の魔王は少しだけ笑った。


『……本当にそう思うか?』


その瞬間。


士郎の黒い靄が、さらに膨れ上がった。

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