第90話 処刑騎士
奈落城深部。
神殿跡。
処刑騎士の黒刃へ、異常な魔力が集束していた。
空気が軋む。
床へ亀裂が走る。
リゼが顔を青ざめさせる。
「嫌な予感しかしないんだけど!?」
グランも剣を構える。
「来るぞ!!」
◇
処刑騎士の赤黒い瞳が光る。
『処刑執行』
次の瞬間。
黒刃が振り下ろされた。
轟音。
斬撃が空間ごと走る。
神殿の壁。
柱。
床。
全部が一撃で切断された。
◇
士郎は見切る。
最小動作。
回避。
それでも。
完全には避けきれない。
黒刃が胸元を裂く。
血飛沫。
リゼが息を呑む。
「またわざと!?」
◇
士郎は笑っていた。
その瞬間を利用して踏み込む。
完全実戦思考。
距離を潰す。
拳。
ドゴォォォォン!!!
処刑騎士の腹部へ直撃。
轟音。
神代装甲へ亀裂が走る。
それでも。
処刑騎士は止まらない。
即座に膝蹴り。
士郎の身体が吹き飛ぶ。
神殿壁へ激突。
◇
轟音。
壁崩壊。
リゼが叫ぶ。
「士郎!!」
爆煙。
その中から。
黒い靄が漏れ出していた。
◇
士郎が立ち上がる。
黒い瞳。
赤がさらに濃い。
口元から血を流しながら。
笑っていた。
「最高だ」
グランが顔を引きつらせる。
「完全に戦闘狂だなコイツ……」
◇
その時。
処刑騎士が静かに言った。
『適合率上昇確認』
『危険度更新』
『原初認定開始』
空気が凍る。
エレノアの表情が変わった。
「……待ちなさい」
しかし。
遅い。
◇
処刑騎士の赤黒い瞳が、士郎を見つめる。
そして。
ゆっくり膝をついた。
静寂。
リゼが固まる。
「……え?」
グランも絶句していた。
◇
神代処刑騎士。
魔王直属処刑兵器。
その存在が。
士郎へ臣下の礼を取っていた。
◇
『確認完了』
低い声が響く。
『現魔王因子適合者』
『原初継承資格保有』
『敵対認識解除』
静寂。
空気が重い。
◇
エレノアの赤い瞳が揺れる。
最悪だった。
奈落城の神代兵器群が、士郎を“敵”ではなく、“王”として認識し始めている。
◇
リゼが引きつった声を出す。
「いやいやいや待って!?」
「なんで!?」
セレナは静かに笑っていた。
「当然よ」
その紫の瞳が細くなる。
「“王”なんだから」
◇
士郎は処刑騎士を見下ろす。
黒い瞳。
赤が混ざる。
そして。
笑った。
「面白いな」
その瞬間。
神殿全体へ轟音が響いた。
ドクン。
ドクン。
巨大な鼓動音。
奈落城そのものが脈打っている。
まるで。
士郎へ呼応するみたいに。
◇
次の瞬間。
神殿最奥の巨大扉が、ゆっくり開き始めた。
黒い霧。
濃密な魔力。
そして。
扉の向こう側から、膨大な“何か”の気配が漏れ出す。
グランが冷や汗を流す。
「おい……」
エレノアの赤い瞳が細くなる。
セレナは笑っていた。
そして。
士郎だけが、嬉しそうだった。
「行くか」
まるで。
そこへ辿り着くことが、最初から決まっていたみたいに。




