第89話 神代の処刑人
神殿奥。
暗闇の中。
巨大な“何か”が立っていた。
重い足音。
轟音。
空気が震える。
◇
ゆっくり姿が見えてくる。
黒い甲冑。
異常な巨体。
全長四メートル級。
そして。
右腕だけが、人間のものじゃなかった。
巨大な黒刃。
腕そのものが武器へ変質している。
リゼが息を呑む。
「……なに、アレ」
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「神代処刑騎士」
グランが顔をしかめる。
「また厄介そうなの出てきたな……」
◇
セレナだけは笑っていた。
「なるほど」
紫の瞳。
興味深そうに細くなる。
「まだ残っていたのね」
◇
神代処刑騎士。
神代文明時代。
裏切り者。
反逆者。
魔王軍離反者。
それらを粛清するためだけに作られた、人型処刑兵器。
感情はない。
慈悲もない。
ただ。
命令だけを遂行する。
◇
処刑騎士の赤黒い瞳が光る。
そして。
士郎を見た。
静寂。
次の瞬間。
空気が沈んだ。
殺気。
圧倒的。
リゼが震える。
「……息、苦しい」
グランも冷や汗を流していた。
「今までで一番ヤバいぞコイツ」
◇
それでも。
士郎は笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
「いい」
その瞬間。
処刑騎士が消える。
轟音。
超高速。
巨大黒刃が士郎へ振り下ろされた。
◇
士郎は見切る。
回避。
だが、遅い。
完全には避けきれない。
黒刃が脇腹を裂く。
血飛沫。
リゼが叫ぶ。
「士郎!!」
◇
それでも。
士郎は止まらない。
むしろ。
踏み込んでいた。
被弾を利用して距離を潰す。
完全実戦思考。
拳。
ドゴォォォォン!!!
処刑騎士の顔面へ直撃。
轟音。
巨体が揺れる。
◇
処刑騎士は止まらない。
即座に反撃。
膝。
黒刃。
連撃。
しかも。
速い。
今までの神代騎士とは比較にならない。
完全に“殺し”へ特化している。
◇
士郎の黒い瞳が細くなる。
技術がある。
しかも。
自分と似ている。
無駄がない。
全部が殺すためだけの動き。
◇
処刑騎士が口を開く。
『……確認』
黒刃が振るわれる。
士郎は肘で逸らす。
轟音。
腕が痺れる。
それでも。
笑っていた。
◇
『適合率上昇』
処刑騎士の赤黒い瞳が揺れる。
『危険指定更新』
静寂。
次の瞬間。
処刑騎士の背部が展開した。
無数の黒刃。
リゼが顔を青ざめさせる。
「いや絶対増えると思った!!」
◇
黒刃射出。
超高速。
空間を埋め尽くす。
それでも。
士郎には見えていた。
軌道。
死角。
全部。
魔王因子によって強化された感覚が、神代兵器の殺意すら解析している。
◇
士郎が駆ける。
最短。
黒刃の隙間を抜ける。
紙一重。
普通なら即死。
それでも。
士郎は笑っていた。
殺されるかもしれない。
その感覚が。
たまらなく心地良かった。
◇
次の瞬間。
士郎が処刑騎士の懐へ潜り込む。
拳。
肘。
膝。
超高速連撃。
轟音。
神代装甲へ亀裂が走る。
◇
その時。
処刑騎士が初めて言った。
『……酷似』
士郎の黒い瞳が細くなる。
「誰にだ」
静寂。
処刑騎士の赤黒い瞳が揺れた。
『原初の魔王』
次の瞬間。
処刑騎士の黒刃へ、異常な魔力が集まり始めた。




