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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第五章『奈落城編』

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第88話 深淵の魔女

神代都市跡。

崩壊した塔群。

白骨の山。

空気そのものが死んでいた。


その中心。

遥か遠くで脈動する黒い塔。


ドクン。

ドクン。


巨大な鼓動音が響いている。

まるで。

世界そのものが脈打っているみたいだった。



リゼが顔を青ざめさせる。


「……ほんとに行くの?」


グランも苦い顔だった。


「今さら引き返せる空気じゃねぇだろ」


実際。

空気がおかしい。


奈落城へ入ってから。

魔力濃度が異常なほど上がっている。


普通の人間なら、立っているだけで発狂しかねない。



それでも。

士郎は平然としていた。


黒い靄。

赤が混じり始めた瞳。


なのに。

むしろ身体が馴染んでいる。


エレノアの表情が険しくなる。


最悪だった。


奈落城が、士郎を拒絶していない。

受け入れている。



その時。

セレナが足を止めた。


「少し休みましょう」


珍しかった。

今まで一度も弱音を見せていない。


グランが警戒する。


「どういう風の吹き回しだ?」


セレナは少し笑った。


「この先は危険だからよ」


リゼが即答する。


「今までは危険じゃなかったみたいに言わないで」



一行は崩れた神殿跡へ入る。


壁には大量の神代文字。

そして。

中央には巨大な魔法陣。


エレノアの赤い瞳が細くなる。


「封印術式……」


セレナは静かに答えた。


「魔王用のね」


空気が重くなる。



その時。

士郎が神殿壁画を見る。


巨大な黒い王。

膝をつく騎士団。

崩壊する世界。


そして。

王の胸部へ突き刺さる“光の槍”。


士郎の黒い瞳が細くなる。


また。

記憶が流れ込む。



絶叫。

燃える空。

崩壊する都市。


そして。

黒い王が笑っていた。


滅びの中心で。

まるで。

全部どうでもいいみたいに。



『お前も似ている』


声。


頭の中へ響く。


低い。

重い。


士郎は小さく笑った。


「そうかもな」


リゼが顔を引きつらせる。


「独り言怖いからやめて!?」



その時。

エレノアがセレナを見る。


赤い瞳。

鋭い。


「あなた、何を企んでるの?」


静寂。


グランも空気を読む。


セレナは少し笑った。


「急ね」


「誤魔化さないで」


エレノアの声は低い。


「あなた、“心臓”を破壊する気ないでしょ」


空気が凍る。


リゼが目を見開く。


「え?」



セレナは静かだった。


否定しない。


それだけで答えだった。


グランが舌打ちする。


「やっぱりか」



エレノアが一歩前へ出る。


「あなたの目的は何?」


セレナは少し考える。


そして。

静かに言った。


「世界を変えること」


リゼが顔をしかめる。


「絶対ろくでもないやつ……」



セレナの紫の瞳が、士郎を見る。


「今の世界は腐ってる」


「王国も」


「教会も」


「人間も」


「全部」


静かな声。

その奥には狂気があった。



「だから必要なの」


セレナが笑う。


妖しく。


「新しい“王”が」


静寂。


エレノアの赤い瞳が揺れる。

グランも険しい顔。


リゼは完全に嫌な予感しかしない。



それでも。

士郎だけは笑っていた。


「面白い話だな」


エレノアが振り向く。


「士郎」


士郎は神殿壁画を見ながら呟く。


「この世界、確かにつまらん」


その瞬間。


神殿奥から、重い足音が響いた。


轟音。

空気が震える。


全員の視線が向く。


暗闇。


そこに。


巨大な“何か”が立っていた。

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