第86話 神代騎士団
奈落城地下。
神代騎士保存庫。
ドクン。
ドクン。
巨大扉の奥から、重い鼓動音が響いていた。
空気そのものが震えている。
濃密な魔力。
重い。
呼吸すら邪魔されるような圧迫感。
◇
リゼが顔を青ざめさせる。
「な、何あれ……」
声が震えていた。
本能が警告している。
近づくな。
見てはいけない。
そんな感覚。
グランも冷や汗を流す。
「空気が重すぎる……」
剣を握る手に力が入る。
「冗談じゃねぇぞ」
◇
エレノアの赤い瞳が細くなる。
珍しく余裕がなかった。
「早い……」
セレナも笑みを消している。
紫の瞳が巨大扉を見据えていた。
「想定よりずっと」
リゼが顔をしかめる。
「だから何がいるの!?」
静寂。
そして。
セレナが短く答えた。
「王に近いもの」
空気が冷える。
◇
白銀の騎士が、ゆっくり巨大剣を下ろした。
赤黒い瞳。
士郎を見ている。
『試練』
低い声。
保存庫全体が震える。
『王へ至る資格を示せ』
次の瞬間。
神代騎士団が再び動いた。
轟音。
床が砕ける。
全方位から殺到。
◇
槍。
斧。
双剣。
完全連携。
死角すら塞ぐ包囲。
グランが叫ぶ。
「囲まれる!!」
剣を振るう。
斬撃。
神代騎士の腕を断つ。
それでも止まらない。
切断されたまま突進してくる。
リゼが悲鳴を上げた。
「怖いってこれ!!」
エレノアが紅蓮を放つ。
爆炎。
複数体を吹き飛ばす。
しかし。
焼けながら前進してくる。
完全に兵器だった。
◇
その中心。
士郎は笑っていた。
黒い靄。
以前より濃い。
身体へ馴染み始めている。
踏み込む。
拳。
ドゴォォォォン!!!
槍騎士の核粉砕。
返しの肘。
双剣騎士の顎を破壊。
膝蹴り。
戦斧騎士が吹き飛ぶ。
全部最短。
全部急所。
全部“殺し”。
◇
セレナの紫の瞳が細くなる。
「もう学習してる……」
国家戦力級。
それを。
士郎は分析し。
適応し。
突破している。
戦いながら。
楽しみながら。
◇
白銀の騎士が動く。
超高速。
巨大剣。
士郎へ振り下ろされる。
士郎は避けない。
踏み込む。
剣が肩を裂く。
血飛沫。
その代わり。
士郎の拳が白銀の騎士の胸部へめり込む。
轟音。
初めて白銀の騎士が後退した。
◇
リゼが息を呑む。
「またわざと食らった……」
エレノアは静かだった。
もう理解している。
士郎は避けられる。
その上で。
最短で殺すために被弾を選ぶ。
完全な実戦思考。
そして。
死線そのものを愉しんでいる。
◇
その時。
巨大扉の奥。
闇が動いた。
ドクン。
鼓動が強くなる。
保存庫全体が揺れた。
神代騎士たちが、一斉に跪く。
白銀の騎士も巨大剣を地へ突き立てる。
『……来る』
静寂。
そして。
巨大扉の隙間から。
“赤黒い瞳”が、ゆっくり開いた。
リゼが息を止める。
グランの顔が強張る。
エレノアが低く呟いた。
「嘘……」
士郎だけが笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
「強いな」




