第85話 白銀の騎士
奈落城地下。
神代騎士保存庫。
静寂。
白銀の騎士が呟いた。
『原初の魔王に』
その瞬間。
カコン。
カコン。
カコン。
保存庫中へ、重い音が響いた。
◇
無数の棺。
それが、一斉に開き始める。
黒い霧。
赤黒い光。
そして。
中から現れる神代騎士たち。
黒鉄。
白銀。
赤銅。
巨大な槍。
戦斧。
剣。
それぞれ武装も違う。
共通していたのは、瞳だった。
赤黒く光っている。
リゼの顔が青ざめる。
「……いやいやいや」
声が震えていた。
「多すぎでしょ!!」
◇
グランも顔を引きつらせる。
「おい冗談だろ……」
十。
二十。
いや。
もっと。
保存庫の奥まで無数。
軍隊。
そんな言葉ですら軽かった。
まるで。
一国を滅ぼすためだけに作られた殺戮兵器群。
◇
エレノアの表情が険しくなる。
「神代騎士団……」
赤い瞳が細くなる。
「最悪ね」
セレナは静かに笑っていた。
「神代文明の最終防衛戦力」
紫の瞳が士郎を見る。
「歓迎されてるみたいよ?」
リゼが即座に叫ぶ。
「全然嬉しくない歓迎なんだけど!?」
◇
白銀の騎士が巨大剣を構える。
『選定』
低い声。
空間が震える。
『魔王足り得るか』
次の瞬間。
神代騎士たちが一斉に動いた。
轟音。
地面爆裂。
突撃。
◇
速い。
重い。
しかも統率されている。
槍が来る。
横から斧。
死角から剣。
完全な連携。
グランが叫ぶ。
「囲まれるぞ!!」
エレノアが炎を放つ。
爆炎。
数体を吹き飛ばす。
それでも止まらない。
焼けながら前進してくる。
リゼが魔術を放つ。
衝撃波。
しかし数が多すぎた。
◇
その時。
士郎は笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
「最高だ」
踏み込む。
拳。
ドゴォォォォン!!!
槍騎士の胸部核が砕け散る。
返しの肘。
斧騎士の頭部粉砕。
さらに回し蹴り。
赤銅騎士が吹き飛ぶ。
轟音。
破片。
火花。
完全な乱戦。
◇
それでも。
騎士たちは止まらない。
白銀の騎士が踏み込む。
超高速剣撃。
士郎の頬が裂ける。
肩へ浅い傷。
血飛沫。
士郎は笑う。
「いい」
◇
白銀の騎士の瞳が揺れる。
『歓喜……?』
理解できない。
死地。
包囲。
圧倒的不利。
なのに。
この男は笑っている。
原初の魔王。
あの存在と同じように。
戦場で。
破滅の中心で。
愉しむように。
◇
士郎が踏み込む。
神代騎士三体の間を滑り抜ける。
最短。
最速。
拳。
膝。
肘。
全部が核だけを狙っていた。
轟音。
次々に崩れる神代騎士。
保存庫が揺れる。
◇
そして。
白銀の騎士が初めて、僅かに目を見開いた。
『……本当に』
赤黒い瞳が細くなる。
『似ている』
次の瞬間。
保存庫の最奥。
巨大な門が、ゆっくり開き始めた。
重低音。
異常な魔力。
そして。
闇の奥から、何かの足音が響く。
ドン。
ドン。
ドン。
セレナの笑みが消えた。
「……早すぎる」
エレノアの顔色も変わる。
「嘘でしょ」
士郎だけが笑っていた。
「強いのか?」
闇の奥。
巨大な“影”が、ゆっくり立ち上がった。




