第84話 奈落の棺
奈落城内部。
静かだった。
異常なほどに。
外では神代兵が徘徊し、巨大兵器が暴れていたのに。
城の中だけ、音が死んでいる。
◇
重い扉が閉まる。
轟音。
その瞬間。
リゼが肩を震わせた。
「……閉じ込められた感じする」
グランも顔をしかめる。
「気味悪ぃ城だな」
薄暗い通路。
黒い石壁。
天井へ刻まれた神代文字。
そして。
空気そのものが重い。
まるで。
城全体が生きているみたいだった。
◇
セレナは慣れた様子で進む。
「奈落城は普通の遺跡じゃない」
「知ってるわよ、それくらい」
エレノアの声は硬い。
セレナは笑った。
「ここは“封印”そのものだから」
静寂。
リゼが嫌そうな顔をする。
「その言い方ほんと怖い」
◇
士郎は黙って歩いていた。
黒い瞳。
時折、赤が混ざる。
そして。
城へ入ってから、黒い靄が濃くなっている。
エレノアは気づいていた。
奈落城そのものが、士郎へ反応している。
歓迎するみたいに。
◇
その時。
士郎が足を止めた。
「……声がする」
全員の空気が変わる。
「声?」
リゼが聞き返す。
士郎は暗い通路の奥を見る。
「呼んでる」
静寂。
グランが嫌そうに呟く。
「帰りてぇ……」
◇
その瞬間。
壁へ刻まれた神代文字が、赤黒く発光した。
轟音。
通路全体が揺れる。
リゼが叫ぶ。
「また!?」
次の瞬間。
床が崩落した。
◇
全員が落下する。
暗闇。
轟音。
グランが叫ぶ。
「クソがァァァ!!」
数秒後。
地面へ激突。
土煙。
静寂。
◇
リゼが咳き込む。
「げほっ……!」
「みんな無事!?」
グランが立ち上がる。
「あー……多分な」
セレナも無事。
エレノアもいる。
そして。
士郎。
普通に立っていた。
まるで落下ダメージが存在しないみたいに。
◇
その時。
全員の視線が前方へ向く。
巨大空間。
地下都市並みに広い。
そして。
そこに並んでいた。
無数の“棺”。
リゼの顔が青ざめる。
「……なに、これ」
棺は全部、人型。
黒い鎧。
神代文字。
しかも。
中には、人影が見える。
◇
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「神代騎士の保存庫……」
グランが顔を引きつらせる。
「おい待て」
「つまりコレ全部動くのか?」
沈黙。
その時。
カコン。
一つの棺が開いた。
静寂。
そして。
中から、“それ”がゆっくり立ち上がる。
白銀の甲冑。
巨大な剣。
そして。
人間の顔。
だが。
瞳だけが赤黒い。
◇
リゼが息を呑む。
「……人?」
セレナは静かに否定した。
「違う」
白銀の騎士が、ゆっくり士郎を見る。
そして。
初めて口を開いた。
『……魔王』
空気が凍る。
エレノアの表情が変わる。
グランも息を呑む。
士郎だけは笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
「喋るのか」
次の瞬間。
白銀の神代騎士が、巨大剣を構えた。




