第83話 奈落の門
奈落城外縁。
静寂。
神代騎士の胸部核へ、亀裂が走っていた。
赤黒い光が漏れ出す。
巨体が揺れる。
しかし。
まだ止まらない。
◇
神代騎士の剣が振り下ろされる。
超重量。
士郎は拳を引き抜きながら後退。
轟音。
大地が割れる。
崖そのものが崩壊した。
リゼが顔を青ざめさせる。
「まだ動くの!?」
グランも舌打ちする。
「しぶてぇなクソが……!」
◇
神代騎士の赤い瞳が揺れている。
壊れかけている。
その状態だからこそ危険だった。
暴走。
赤黒い光が全身へ走る。
空気が震える。
エレノアが叫んだ。
「離れて!!」
次の瞬間。
神代騎士の身体から、無数の光刃が放たれた。
轟音。
周囲の岩場が切断される。
森が消し飛ぶ。
完全な殲滅攻撃。
◇
士郎は笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
全部見えている。
光刃の軌道。
死角。
空間の歪み。
魔王因子によって強化された超感覚が、神代兵器の攻撃を完全に捉えていた。
◇
士郎が駆ける。
最短距離。
光刃の隙間を抜ける。
紙一重。
普通なら即死。
だが士郎には“見えている”。
酒場で取り込んだ神代核。
その影響で感覚がさらに鋭くなっていた。
◇
神代騎士が咆哮する。
そして。
最後の一撃。
巨大剣へ赤黒い光が集束する。
空気そのものが軋む。
セレナの紫の瞳が細くなる。
「まずいわね」
エレノアも険しい顔だった。
「あれは城門破壊用……!」
グランが顔を引きつらせる。
「なんでそんなもん対人戦で使うんだよ!?」
◇
士郎は止まらない。
むしろ踏み込む。
殺されるかもしれない。
その感覚に。
笑っていた。
◇
神代騎士の剣が振り下ろされる。
終焉みたいな一撃。
轟音。
空間震動。
その瞬間。
士郎が消えた。
神代騎士の視界から。
◇
次の瞬間。
士郎は神代騎士の真下にいた。
完全死角。
拳を握る。
黒い靄。
濃くなる。
そして。
放つ。
ドゴォォォォォォォン!!!
轟音。
拳が神代騎士の胸部核を貫いた。
赤黒い光が爆発する。
巨体が止まる。
◇
静寂。
神代騎士の赤い瞳が揺れる。
そして。
ゆっくり崩れ落ちた。
轟音。
地面が揺れる。
奈落城外縁の門番。
神代騎士級。
完全停止。
◇
リゼが呆然と呟く。
「……倒した」
グランも乾いた笑いを漏らす。
「ほんとに人間かアイツ……」
◇
エレノアは笑っていなかった。
士郎を見る。
黒い靄。
さらに濃い。
しかも。
士郎自身が力の使い方へ慣れ始めている。
進行が早い。
早すぎる。
◇
その時。
奈落城の巨大門が、ゆっくり開き始めた。
重低音。
霧。
そして。
奥から吹き出す異常な魔力。
リゼが震える。
「……何これ」
セレナは静かに笑った。
「歓迎されてるのよ」
門の奥は暗い。
底が見えない。
まるで。
巨大な生物の口の中みたいだった。
◇
士郎は笑う。
黒い瞳。
歓喜。
「いいな」
そして。
黒狼は、“奈落”へ足を踏み入れた。




