第81話 奈落への道
翌朝。
地下闘技都市グラディウス外縁。
重い霧が広がっていた。
空が暗い。
昼なのに。
まるで陽光そのものが弱い。
グランが顔をしかめる。
「嫌な空気だな……」
セレナは前を歩きながら答える。
「奈落城周辺は昔からこうよ」
リゼが不安そうに周囲を見る。
「……呪われてるみたい」
エレノアは静かだった。
赤い瞳だけが、ずっと士郎を見ている。
◇
士郎はいつも通り歩いていた。
黒いコート。
黒い瞳。
ただ。
時折、その奥に赤が混ざる。
本人は気づいていない。
しかし。
エレノアは気づいていた。
進行が早い。
魔王因子の侵食が。
◇
その時。
士郎が足を止めた。
「どうした?」
グランが聞く。
士郎は霧の奥を見る。
「いるな」
静寂。
次の瞬間。
霧の中から“それ”が現れた。
人型。
鎧。
しかし。
首がない。
黒い甲冑だけが、独りでに歩いている。
しかも一体じゃない。
十。
二十。
もっと。
リゼが顔を青ざめさせる。
「なにアレ……」
セレナが静かに答えた。
「神代兵」
◇
神代文明時代の自律兵器。
死んでも動き続ける兵士。
奈落城周辺を永遠に巡回している。
神代兵たちが一斉に武器を構える。
剣。
槍。
斧。
そして。
全員の鎧へ、神代文字が刻まれていた。
◇
次の瞬間。
神代兵たちが突撃する。
轟音。
地面が揺れる。
士郎は笑っていた。
「いい」
踏み込み。
拳。
ドゴォォォォン!!!
先頭の神代兵が砕け散る。
金属片が飛び散る。
それでも。
残りは止まらない。
無感情。
無機質。
まるで死そのもの。
◇
グランも剣を抜く。
「チッ!!」
斬撃。
神代兵の腕を切断。
しかし。
止まらない。
切断されたまま突進してくる。
リゼが悲鳴を上げる。
「怖っ!?」
エレノアが炎を放つ。
紅蓮。
爆炎。
複数体を焼き払う。
それでも。
焼けながら動き続けている。
普通じゃない。
◇
セレナが冷静に言う。
「核を壊して」
「また核かよ!」
グランが叫ぶ。
その時。
士郎はもう動いていた。
黒い瞳。
神代兵たちを見る。
そして。
見つける。
胸部。
赤黒い光。
核。
◇
士郎が踏み込む。
速い。
神代兵たちの槍が突き出される。
それでも。
全部見えていた。
回避。
受け流し。
最短距離。
完全な実戦技術。
拳。
肘。
蹴り。
核だけを正確に破壊していく。
轟音。
神代兵たちが次々停止した。
◇
グランが顔を引きつらせる。
「攻略速度おかしいだろ……」
セレナは静かに笑う。
「適合してるもの」
リゼが嫌そうな顔をする。
「その言い方ほんと怖い」
◇
その時。
霧の奥から、巨大な影が現れた。
全員の動きが止まる。
巨大。
五メートル以上。
漆黒の全身甲冑。
そして。
頭部には巨大な角。
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「……上位個体」
巨大な神代騎士。
その胸部だけ、異様な赤黒い光を放っていた。
普通の神代兵とは格が違う。
◇
神代騎士が剣を抜く。
轟音。
大気が震える。
そして。
空洞の兜の奥。
赤い光が灯った。
その瞬間。
士郎は笑っていた。
黒い瞳。
歓喜。
「強いな」
神代騎士が、ゆっくり士郎へ剣を向ける。
まるで。
挑戦を受けるみたいに。




