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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第五章『奈落城編』

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第80話 奈落城

地下酒場。


静寂。


巨大な黒い影は、いつの間にか消えていた。


それでも。


あの場にいた誰も忘れられない。


王冠。


翼。


赤黒い瞳。


本能が理解してしまった。


——触れてはいけない何かだと。



士郎は静かに立ち上がる。


黒い靄。


少しずつ薄れていく。


それでも。


完全には消えない。


リゼが恐る恐る声をかけた。


「……大丈夫?」


士郎は少し首を鳴らす。


「ああ」


普通だった。


少なくとも見た目は。


だが。


エレノアは黙っている。


赤い瞳。


士郎を観察していた。



セレナが笑う。


「どうだった?」


士郎は少し考える。


「妙な感じだった」


「それだけ?」


「頭の中に変なのがいた」


リゼがツッコむ。


「かなり大事な情報じゃない!?」



セレナは興味深そうだった。


「声は?」


「聞こえた」


「何て?」


士郎の黒い瞳が少し細くなる。


「“器”とか言ってたな」


その瞬間。


エレノアとセレナの空気が変わった。


グランも顔をしかめる。


「おい……」


リゼだけが状況についていけていない。


「なにそれ」



セレナは静かに言った。


「やっぱり、“向こう側”は気づいてる」


「向こう側?」


「原初の魔王」


静寂。


酒場の空気がさらに冷える。



神代文明。


その末期。


世界を滅ぼしかけた存在。


原初の魔王。


人類史最大の災厄。


それは伝説じゃない。


実在した。


そして。


完全には死んでいない。



リゼが青ざめる。


「いや待って」


「さらっと世界終わる話しないで」


グランも険しい顔だった。


「……だから奈落城か」


セレナが頷く。


「あそこは、“魔王の墓”だから」



沈黙。


酒場の空気が重い。


それでも。


士郎だけは笑っていた。


「いいな」


リゼが頭を抱える。


「感想それなの!?」



エレノアは静かに士郎を見る。


黒い靄。


赤く染まりかけた瞳。


馴染みすぎている。


魔王因子が。


普通なら、ここまで侵食されれば壊れる。


精神が。


肉体が。


それなのに。


士郎は平然としている。


まるで。


最初から適合するために作られていたみたいに。



その時。


セレナが静かに言った。


「明日、奈落城へ向かうわ」


グランが顔をしかめる。


「本気かよ……」


「嫌なら来なくていいわよ?」


「……チッ」


完全に行く流れだった。



その夜。


地下闘技都市外縁部。


宿。


リゼは眠れなかった。


窓の外を見る。


地下都市の灯り。


遠くの闘技場。


歓声。


それなのに。


嫌な予感しかしない。



その時。


廊下から足音が聞こえた。


リゼが扉を開ける。


士郎だった。


黒いコート。


無表情。


しかし。


その黒い瞳だけが、少し赤い。


リゼが不安そうに聞く。


「……本当に大丈夫?」


士郎は少し考える。


そして。


静かに言った。


「分からん」


リゼの顔が曇る。


士郎は少し笑った。


獰猛に。


「でも、面白くなってきた」


その瞬間。


宿の窓の外。


遥か遠く。


巨大な黒い城が、一瞬だけ見えた。


奈落城。


まるで。


士郎を待っているみたいに。

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